見出し画像

3分でわかる宇宙救助返還協定

ドラゴンの帰還

今月8日、SpaceXのドラゴン宇宙船がISSから帰還しました。
ドラゴン宇宙船は、ISSを離れてから約6時間後、ケープカナベラル沖約370kmに着水しSpaceXが回収しています。
ところで、このような宇宙物体が地球に帰還する時のルールはあるのでしょうか?特に、事故や遭難、緊急着陸といった非常時はどのような取扱いを受けるのでしょうか?

宇宙条約

宇宙活動に関する基本的なルールを定める宇宙条約には、

①緊急着陸時は、宇宙飛行士は登録国へ安全かつ迅速に送還される
②宇宙物体が登録国以外の国で発見されたときは、登録国に返還される

と定められています。これだけではよくわかりません。

宇宙救助返還協定

宇宙条約の規定を具体化したのが、宇宙救助返還協定です。宇宙救助返還協定には以下の内容が定められています。

①締約国は、事故・遭難・緊急着陸に関する情報を入手した場合またはその事実を知った場合には、直ちに打上げ機関・国連事務総長に通報
②事故・遭難・緊急着陸時の乗員の救助・援助を与える
③宇宙船の乗員を打上げ機関へ引渡す
④宇宙物体の回収・引渡し

「打上げ機関」は、打上げについて責任を有する国・政府機関のことです。
例えば、A国のロケットが事故等によりB国に着陸してしまった場合、B国はB国と国連事務総長に知らせなければならず、乗員を救助し、A国に引き渡さなければなりません。また、ロケットについても回収し(厳密には回収するため実行可能な措置)、A国に引き渡すかその処理に委ねられることになります。
ちなみに、宇宙物体は放棄することによって無主物(誰のものでもない状態)にすることができません。

宇宙旅行の場合は?

このように、宇宙救助返還協定の規定によって宇宙飛行士の安全な帰還を実現しようとしているわけですが、宇宙旅行の宇宙船が打上げ国ではない予定外の領域に着水(陸)した場合にも、宇宙救助返還協定の対象になるのでしょうか?言い換えると、宇宙旅行者に対しても宇宙飛行士と同じ救助や援助が与えられるのでしょうか?
この点に関しては議論が分かれています。
宇宙救助返還協定の対象にならないとの考え方は、宇宙条約は、宇宙飛行士を「人類の使節」とした上で救助義務等を定めているところ、宇宙旅行者は「人類の使節」とはいえない点や、宇宙活動の公共的な側面を重視します。確かに、「使節」は「国家や政府の代表として外国に派遣される人」とされており(weblio辞書)、言葉だけ見ればそのようにもいえそうです。
他方、多く見解は宇宙救助返還協定の考え方は宇宙旅行の場合にも当てはまるという立場です。宇宙旅行者ではあっても、事故や遭難した旅行者を誰かが見つけるまで放置して置くのは人道的に問題であるという点を根拠とします(ちなみに、宇宙条約では救助の対象が「astronauts」とされているのに対し、宇宙救助返還協定では「the personnel of a spacecraft」とされています)。
なお、2000年にはアルゼンチンで、2004年には南アフリカでデルタⅡロケット(民間)の破片が発見されたことがあり、その際に通報、返還が行われています(出典:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦)。

まとめ

宇宙条約や宇宙救助返還協定が作られたのは1960年代であり、現在、当時は想像できなかったであろう民間事業者の宇宙ビジネスモデルが次々と現れ現実のものとなっています。条約や国内法は、その文言が抽象的で、解釈をしなければ内容がわからないことがよくあります。その解釈の前提として、宇宙ビジネスの体系を学んでおくことが重要なのだろうと常々思うところです。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・宇宙法ハンドブック 慶應義塾大学宇宙法センター
・SPACE LAW A Treatise SECOND EDITION FRANCIS LYALL・PAUL B. LARSEN

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?