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3分でわかる宇宙損害責任条約

ロケットの打上げや人工衛星の運用中に事故が発生した場合、誰がどのような責任を負うのでしょうか?
特に、打上げを行った国と被害を受けた国(人、会社)が異なる場合、どのようなルールによって手続がなされるのでしょうか?
今回は、国家間の損害賠償ルールを定めた宇宙損害責任条約について取り上げます。

何を定めているのかー損害賠償に関する考え方

宇宙損害責任条約(宇宙物体により引き起こされる損害についての国際責任に関する条約)は、1971年11月29日に採択、1972年9月1日に発効した条約です。

1969年6月、衛星の破片が落下し日本の貨物船が損傷、船員が負傷する事故が発生しました。
こうした事例が背景となり作成されたこの条約は、発生した損害を「地表で発生したもの」と「地表以外(宇宙空間)で発生したもの」とに分け、前者について非常に重い責任を課しています。
なお、打上げ国の国民や宇宙物体の運行に参加している外国人等に生じた損害については適用されないという例外があります(7条)。

宇宙損害責任条約が定めているのは国家間の手続ですが、だからといってその国民や会社による賠償請求ができなくなるわけではありません。ただし、国民や会社が賠償請求を行なっている間は国家間の賠償請求を行うことができなくなります(11条2項)。

「損害」とは?

ここでいう「損害」は、「人の死亡、身体の障害その他の健康の障害又は国、自然人、法人若しくは国際的な政府間機関の財産の減失若しくは損傷」と定義され、人と物についての損害が含まれます。

賠償すべき額は、その損害が生じなかったとしたならば存在したであろう状態に回復させる程度とされ、国際法、正義・公平の原則に従って決定されます(12条)。あくまで損害の「賠償」なので、ゼロベースに戻すということであってプラスになるわけではありません。なお、いずれの国の通貨でも賠償は可能です(※請求国の要請による 13条)。

打上げ国ー賠償を行う国は?

責任を負うのは「打上げ国」です。ロケットなどの宇宙物体を打ち上げる国はもちろん、打上げを行わせる国や、宇宙物体が打ち上げられる施設がある国も含まれます。こちらにもまとめていますので、併せてご覧ください。

地表=無過失責任、宇宙空間=過失責任

地表で損害が発生した場合
打上げ国は、自国の宇宙物体が地表で引き起こした損害、または飛行中の航空機に与えた損害について無過失責任を負います(2条)。無過失責任というのは、注意を尽くしていたとしても免責されない責任のことです。

本来の損害賠償の考え方からすると、請求する側が相手の過失を証明(相手が注意を尽くしていることを証明できれば免責)するのが原則です。
しかし、宇宙技術の専門性は極めて高く、秘匿性もあります。そのような内容を被害を受けた側に証明させるのは酷なので、過失があろうとなかろうと打上げ国に責任を負わせる形にしています。
ただし、損害が被害国側によって引き起こされたことを打上げ国が証明した場合、責任が免除されます(6条)。

地表以外(宇宙空間)で損害が発生した場合
他方、損害が地表以外の場所において引き起こされた場合には過失責任となります。つまり、打上げ国が責任を負うのは、損害が自国または自国が責任を負うべき者の過失によるものであるときに限定されます(3条)。
この場合、被害国側が打上げ国の不注意を立証する必要があり、打上げ国としては注意を尽くしていたことを証明すれば責任を免れることができます。

地表以外の場所で損害が発生したということはお互いが宇宙活動を行なっているわけですが、それぞれがリスクの高い活動を行なっている以上、そのようなリスクは織り込み済みであるという発想に基づくものです。

複数の国が関与する場合ー連帯責任

3カ国以上関与している場合は少し複雑になります。

連鎖的に損害が発生した場合
A国の宇宙物体や宇宙物体内の人・財産について、B国の宇宙物体により地表以外の場所において損害が引き起こされ、その結果として損害がC国に損害が発生した場合(B→A→C)には、A・Bは、Cに対し連帯して責任を負います(4条)。この場合も、地表で引き起こされた損害は無過失責任、地表以外(宇宙空間)で引き起こされた損害はABいずれかに過失があるときに責任が発生します。

この場合、それぞれの不注意の程度に応じて責任を分担し、決められない場合は均等に分担します。だからといって、Cが全額請求できなくなるわけではありません(4条2項)。

共同して打ち上げる場合
ABが共同して宇宙物体を打上げた場合でCに損害が発生した場合(AB→C)にも、ABは連帯責任を負います(5条1項)。

AがCに賠償した場合はBに求償でき、この負担割合はAB間で取り決めることができます。例えば、Cに100の損害が生じたとして、Aが100賠償した場合、A:B=7:3としておけば、AはBに30を求償できます。だからといって、CがABに全額請求できなくなるわけではないことは上記と同じです(5条2項)。

手続

損害賠償の手続きは、外交ルートを通じて行われます(9条)。
外交関係がない場合、他の国へ代表を求めることもできます。国際連合事務総長を通じて請求することも可能です(両方の国が国連加盟国である必要あり)。
請求が可能な期間は損害が生じた日から、あるいは打上げ国の責任が特定できた日から1年です(10条)。 

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・日本の宇宙戦略 青木節子
・解説宇宙法資料集 栗林忠男

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