ミネルヴァの梟 01
「本収容所の収容者を被験者に、その発言、見聞きしているもの、触っているもの、思考、感情の動きといった、様々な脳波の状態や、脳の活動分野。そして、それに伴う、身体や、表情の動きの相関性を人工知能により、自己学習させた結果、本人の考えている事をリアルタイムでモニタリングできる、思考解析システムが完成しました。」
「ほう、分かりやすく言うと?」
あまり乗り気ではないのか、相手に視線を動かさず、どこか、うわの空な感じで聞いている。
「簡単に言うと、人工知能により精度と即応性を極限まで高めたリアルタイムな嘘発見器とお考え頂ければと思います。」
「ほう、で、その精度は?」そのままの姿勢で、所長は質問した。
「精度としては、単純な質問、本人が特に隠す必要のない質問を行った場合、100%に近い、モニタリング制度を示しています。」
「何?100パーセント?」急に体を起こして尋ねる。
「はい、そして、本人が、認めたくない、秘密にしたい、隠したがっている内容についても、その思考内容がリアルタイムにモニタリングされる為、モニターには、発言内容とともに、思考過程、そして、発言の裏に隠されている、その本心すらも、細かにモニタリングされます。」
「ということはつまり。」
「はい、そうです、いかなる状況においても、ほぼ百パーセント、相手の嘘を見抜き、真実を明らかにする、思考のモニタリングシステムが完成したのです。」
「素晴らしいじゃないか!」所長の目が輝いた。
「実際のテスト状況を映像でお見せします。」
このプロジェクトリーダーである博士が、淡々と、報告を進める。
そしてスクリーンに、実際のテスト状況の映像を投影し始めた。
「被験者は、昨年収容された、元大学教授のコンピューター技師です。」
「敵国に通じ、我が国の、データベースをハッキングし情報を意図的に漏洩した容疑で、収容所に収監されましたが、当人は、容疑を否認し続けています。」
所長は黙って、モニターを見つめている。
「報告のとおり、初期の段階では、出身地、家族構成といった、既に私たちが情報を入手している事を、被験者も理解している、簡単な質問を繰り返しております。」
「これらのプライベートな質問に対しても、脳波、脳の言語野の血液量の変化と、これまで蓄積されたデータから、思考内容、発言内容をリアルタイムに予測し、回答をモニタリングして行きます。」
「これはすごいな。」所長が思わず声を漏らした。
「そしてここからは、被験者が否認している、罪状についての質問をして行きます。」
「するとこのように、被験者は、今までの様に、自分はやっていない、陰謀であると言う発言を繰り返します。」
「しかし、こちらのモニターをご覧ください。こちらの心象モニターでは、被験者の発言内容と並行して、被験者が、実際頭の中で感じている、考えている、思考内容、思考情報、思考過程をつぶさにモニタリングしています。」
「更にここからは、モニターに表示されている、被験者の本心、思考内容を前提とした、質問に切り替えて行きます。」
「すると見てください。『何で解るんだ?』という緊張と焦り、表情の強張りが見てとれますが、しばらくすると、『自分の本心は、ばれやしない』という思考とともに、落ち着きを取り戻すのが、表情からもわかります。」
「凄いな、ここまでの精度か!?」所長は、信じられないものを見せられているといった表情で、瞬きもせず、モニターを注視している。
「はい、そしてこの映像には、未だ続きがございまして。」
「続き?」
「はい、実は、本日、報告にあがりましたのは、この件なのですが。」
「ここから、更に実験を続けたところ、興味深い、結果が得られました。」
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