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個展を開く理由は”わからない”

北海道に自給自足しながら暮らすBenzoおじいさんを14年間撮影し続けた奥山さんの写真集「庭とエスキース」。写真集に加えて、Benzoさんを撮影したときの言葉を書き溜めた本の出版に合わせて、秋田市にあるギャラリー”ココラボラトリー”にて1日だけの展覧会&トークショーがあった。

奥山さんが撮影をはじめたときはBenzoさんは78歳。未婚の彼が作る作品のモチーフは母と娘の2人。すべてイメージをもとに、下絵(エスキース)を農業や庭の手入れの合間に描いていた。

「絵を描くからには、個展をやらなければならない」

そう言っていたBenzoさんは14年かけて完成させた絵はたったの1点。2012年に92歳で亡くなったとき、大量のエスキースがあったものの、遺言には彼が暮らしていた小屋を潰してくれと書かれていたため、奥山さんが預かれるものだけ受け取った。

それから7年。フィルムが劣化しないうちに、なにかにまとめないと写真がもたないと考え、作った写真集がみすず書房に目が止まり、書籍の出版にまでいたった。トークショーで、Benzoさんにとって、奥山さんにとって個展を開くことを聞いてみた。でも、奥山さんは「なんでなんだろうね。わからない。Benzoさんが亡くなってから7年も経って、この個展が開催になった。この7年間、なにをしていたかも覚えてない。僕もなんでなんだろうって思います。」

奥山さんのトークショーのテーマの1つは”記憶”だった。Benzoさんという他者と過ごした記憶、彼から聞いた人生の記憶。生きれるのは自分一人の人生しかない。でも、他者の記憶を取り入れることで、なにか豊かになるのではないか。

そして、もう一つは”わからない”ということ。Benzoさんに生前何度も絵を描く理由、自給自足する理由、空想の母と娘をモチーフにする理由を聞いても、煙にまかれて答えを得られなかった。きっと、Benzoさんにも答えがなかったかもしれない。奥山さんがBenzoさんとの関わりを通して、”わからない”ことがあっていいと気付いた。

奥山さんにもわからないことがある。14年間もBenzoさんを追って撮影を続けたことだ。「通うのが普通で当たり前になっていた。考えもしなかった。」彼がBenzoさんに会いにいく理由も本人もわかっていない。そして、それでいい。

Photo by Yu Kusanagi


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