36.7℃の心が傍にあるから#04

昏睡から目覚めてから
世界を憎んで呪っているそんな自分に初めて出会った。
その時の気分は、ちゃんと黒い自分が
存在したんだな。という、不思議な感想。
雪みたいに融けちゃいそう。
雲みたいに掴めない。
そんなふうに言われることがよくあった。
目を覚ましてから、次第に深まる家族の溝は
思えば僕がどんどん掘っていってしまったものだった。
なのに僕は周囲のせいにしていた。
話を聞いてなかったあいつが悪い、人の傷みがあいつはわからない、あの人はいくら話しても話にならない、そんな風に1頁捲って理解できる漫画や
小説や教材なんてあるわけないのに
自分がいつだって正しいと信じていた。
どの瞬間を切り取っても、そうだと。
わかっているわけではない。
100%の自信はない。
99%の自分への信頼のみ。
残り1%ではあれど、無いようなものだと
決め込んでいた。

あの子に出逢って、価値観は根底から
変わっていった。
誰にも話すことができなかった、これまでの
人生を初めて深く掘り下げて、振り返って、話した。話せた。
強く追求されて、不本意な形で引き出されたものではなく、自ら進んで。
応えるように、あの子も自分のこれまでを
教えてくれた。
そのひとつひとつが二人の過去の思い出に色をつけていった。埋めるように隠すように生きてきた20年程度の物語。誰も知らない物語。
話しても話さなくてもいいような他愛もない話もよくした。
それなのに、まだ話せないことがあった。
冷え切っていた心を温めてくれるあの子に
伝えなくちゃいけない。
やっと人肌に戻りつつある、僕の心温。

そう、認めたくない。認めたくないけれど 
そう僕は病人で、いつまで僕が僕でいるのか
なんの保証もない。
ずっといられるかもしれない。
はたまた、明日が最期かもしれない。

あの日、
夢季(ユキ)
キミは言ったよね。
僕は唖然とした。

「私が絶対護るから。ずっとずっと護るから。
これはね、來夢(ライム)に約束してる訳じゃない。それはごめんね。
どうしても約束はできない。私は私とだけ、約束をするの。私は私にだけ誓いを立てるの。誰でもない未来の私と。」

そんな考え、僕にはなかった。
約束は誰かとするものだと思ってた。

僕は言った。

「未来のユキはもっともっと素敵な人になっていると思う。その時、僕が隣にいるかどうかは僕もユキに約束できない。でも、僕も僕となら、まだ望みはあるかもしれない。
星にも架けないし、どこにも描かない。
何をしてるかも正直、わからない。でも未来の僕に願うことにする。
一縷の望みを賭けてみる。
僕はここから、そいつを応援する。」

「私たちの未来はきっと明るい。
あの日の月よりも、もっともっとね、煌めいてると思うの。」

「ユキが言うと、なんだかそんな気がしてくるから不思議だ。」

「違うよ。そうなるの。決まってるの。ずっーとずっと前から
あの日、出逢うことも、二人で泣いたこと笑ったこと、今こうしてることも
いつか、もしかすると離れることも、それでもまた出逢うことも全部決まってる。だけどその全てに台本なんてない。もし、あったとしてもそれを私は認めない。」

「明日の自分を創るのはいつだって僕ら、だもんな。僕ら以外にそれは
できない。幸も不幸もいつだって僕ら次第。このホットサングリアも
無限じゃない。永遠も要らない。だからこそ、。」

「目に映る総てが愛おしいよね。」

赤腹黒い自分がここにいていい。
このまんまでいていい。
僕が僕でいていい。
それ以上でも以下でもなくていい。

追い込みをかけたバスケ、病人とみなされたそれからの
飲みたくない薬、受け入れがたい現実。
大嫌いだった、煙、それらを愛していると思い込むことでの生の実感。

生まれてから初めて生きたいと願った。
いつか人生には終わりが来る。最期を知ることが出来たなら
生きたいと願うのだろうか?窓の奥に広がる夜景を見ながら
よく考えていた。答えは 生きたい だった。
この宣告された余命。ほぼ諦観していた未来。


初めて何かじゃなくて誰かに好意を抱いた瞬間だった。
そして女の子に護られるなんて、男って生き物は僕は
なんて弱いんだろうと思った。

誰かというか、月灯りの下で出逢ったキミに

ユキに。

今までは今まで、これからはこれから。

死ぬ?月一に1時間も会わず話さずの人間に僕のなにが解る?
馬鹿にすんな。いつだって僕の未来は僕が決める。
決められた決別?死ぬため?無駄な延長?なら薬なんて飲んでない。
周りの都合の為。生きていく上で一番の難問を透明化する為。

確かな摂氏36.7度が恒常的な明日をまたメイクする。
ユキが僕を普遍的なヒトにしてくれている。
僕もユキを護りたい。独りじゃ何にもできないけれど。ユキといられたら。
明日もユキの笑顔が見たい。どうしても。

その為にはまず自分が変わらないと。
昨日よりも2㎝でもいいから邁進したい。

今日明日の自分の為にも。
考えに考えた。

それは至ってシンプルなことでただ歌うことだった。
音楽は嗜む程度には元来好きだった。
いまさら楽器を本格的にプロレベルまでにはすぐには出来ない。

今更だろう。でも動き始めた。
インターネットカラオケマンからのスタートだった。









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