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第17巻:死闘のかなた…!! の巻


第17巻データ・アナリティクス

作品の入れ替え少ないもイメージ刷新が図られた時期

※掲載順は漫画作品のみ(特集記事、小説、記事広告、読者投稿ページは除く)。
「掲載順=人気」とは一概に言えないが、人気を測るバロメータのひとつとして参照する。
1号あたりの漫画作品の掲載本数は16本。
単行本17巻の発行日は1984年9月15日。

第17巻収録話は、26号(6月13日付)から36号(8月22日付)までの合計11本である。この期間に「少年ジャンプ」に掲載された漫画作品は毎週16本。掲載されたのは18作品であり、この数字は『キン肉マン』第1巻から第17巻までのあいだでは最少だ。「少年ジャンプ」にしては珍しく入れ替わりの少ない時期と言えよう。
とはいえ、29号では『キャプテン翼』(高橋陽一)が第二章の最終話「ロベルトの置き手紙の巻」で小学生編のラストを迎えており、さらに『キン肉マン』は翌30号で「黄金のマスク編」が終結する。作品の入れ替えこそ少ないものの、読者からすれば誌面イメージの刷新が図られた時期だった。

第17巻収録話の連載期間の出来事

引き続き巻頭の企画記事が充実した期間である。30号では、21号に続いてカール・セーガン博士の特集が組まれる。第16巻のレビューでも触れたが、この時期にカール・セーガンがいかに人気だったか推して知ることができる。
この30号では「週刊少年ジャンプ創刊15周年記念スペシャルイベント」と題して「ジャンプ・コスモ・セミナー セーガン博士と宇宙をみつめよう!」との記事が巻頭を飾った。
しかしながら、21号のカール・セーガン特集号では表紙も宇宙を感じさせるデザインだったのに対し、30号の表紙は『ウイングマン』(桂正和)。宇宙とは無関係なだけでなく、表紙に「世界に広げようウイングマンのW」と、フジテレビ『笑っていいとも!』のパロディ(世界に広げよう友達の輪)のキャッチフレーズが踊っている。
『笑っていいとも!』は前年の1982年10月4日に放送が始まっており、「〜〜してもいいかな?」「いいとも!」が当時の流行語となっていた。ただし、放映がスタートしていた『キン肉マン』のアニメは日本テレビ系列で日曜午前10時から放送されており、日曜日の午前10時〜10時50分にフジテレビ系列で放送されていた『笑っていいとも!増刊号』(1982年10月24日より放送開始)は裏番組ということになる。『キン肉マン』的な観点からは、敵に塩を送るような表紙だったわけだ。

続く31号の巻頭は「マクロス感動シーンを再現 これがDIORAMAだ!!」。TVアニメ『超時空要塞マクロス』(1982年10月3日〜1983年6月26日放送)のプラモデルの特集記事となっている。ちょうど『超時空要塞マクロス』のTVシリーズが終了した直後であり、原作漫画が存在しないコンテンツは「少年ジャンプ」でも扱いやすかったのだろう。とはいえ、「少年ジャンプ」に掲載していないエンタメ作品の関連記事を巻頭に持ってくるのは、なかなかにレアなケースではないだろうか。
『マクロス』のプラモデルは前年に発売され、1982年の年末商戦では一部商品が品薄になるほどのヒットを記録したので、この時期のサブカル界隈における「覇権コンテンツ」だった様子が見て取れる。
前述の『キン肉マン』の裏番組(『笑っていいとも!』)への配慮がない点とあわせても、現代とは違ってコンテンツビジネスに対する意識がまださほそ高くない時代ならではの事象といえる。

そして32号の巻頭特集は、「少年ジャンプ」の歴史上でも屈指の異色記事「見ちゃおう!食べちゃおう!!シーラカンス」だ 。この当時『Dr.スランプ』で読者から絶対的な支持を得ていた鳥山明がシーラカンスを実食する企画ページで、堀井雄二が一緒に食べて事の顛末を記事にしている。このコンビがのちに『ドラゴンクエスト』を生み出すのかと考えると、実に興味深い。

35号は「Chiakiの体験ときめきフィッシング」、36号は「Chiakiのサマーキャンプ」と、夏休みを意識した企画内容となっている。Chiakiとは「シャワー」というアイドルグループ(活動期間は1981〜1982年)に所属していた女性アイドルのことで、この年ソロデビューした尾上千昌のことである。この「シャワー」には、村上里佳子(現RICAKO)が所属していた。

「夢の超人タッグ編」開幕!

忘れられたサタンの存在

キン肉マンが新技・キン肉ドライバーで悪魔将軍を撃破し、この第17巻をもって「黄金のマスク編」は終了する。
「猛威!九所封じ!!の巻」では、ストマック・クラッシュを食らったキン肉マンがなおも立ち上がり、さらにリング下の正義超人たちが再起し、悪魔将軍は「正義の力がこんなに偉大だったなんてーーーっ!!」と言い放つ。その際に「黄金のマスクの理性が悪魔将軍のヨロイを拒み始める」との説明がなされる。
また、「地獄のラスト・ワン!!の巻」では、テリーマンが「悪魔将軍はなん度やられても そのたびに友情パワーで立ちあがってくるキン肉マンやリング下の委員長たちの姿をみて 絶対だと思っていた悪のパワーに疑問をもち始めたんだーっ!!」と解説している。
こうしたことから、「キン肉マン個人の力で悪魔将軍に勝利した」というよりは「正義超人の友情パワーが悪魔将軍を倒した」といったアングルを取っていることがわかる。

それはさておき、前シリーズの「7人の悪魔超人編」からこの「黄金のマスク編」を通じて黒幕であったのはサタンであった。悪魔将軍とサタンは同一人物ではなく、黄金のマスクことゴールドマン(=悪魔将軍)がサタンにそそのかされて此度の変を起こしたとされているが、サタンの登場は「悪魔と神!!の巻」(第16巻収録)が最後となる。
「キン肉マンVS悪魔将軍」戦が決着した翌週の「失われたトロフィーの巻」では、アシュラマンとサンシャインが悪魔将軍の下から離れ、不穏な雰囲気を感じさせながら新シリーズ「夢の超人タッグ編」へとなだれこむ。
アシュラマンが「正義超人のパワー源である仲間同士の結束…つまりチームワーク」を奪い、読者の目をチームワークに惹きつけておいて、新シリーズでは宇宙超人タッグ・トーナメントが開始する……と、漫画的な「引き」としては素晴らしい構成だ。だが、この「夢の超人タッグ編」では、正義超人や残虐超人や悪魔超人とは異なる新興勢力(完璧超人)にフォーカスされることになり、以降、サタンは本編に登場しない。
2011年から開始した新シリーズでも「完璧超人始祖編」ではまったく登場しなかったが、続く「オメガ・ケンタウリの六鎗客編」でようやく登場。少なくとも初期シリーズにおいては、この「黄金のマスク編」以降、サタンの存在は“忘れられた設定”となる。

「夢の超人タッグ編」での役割確認

「夢の超人タッグ編」がスタートするので、本シリーズにおける登場人物たちの役割ロールをおさえておきたい。

登場人物たちが作中で担うロールの関係図。

①主人公はキン肉マンであり、タッグを組む師匠プリンス・カメハメは②付与者にあたる。カメハメは「パートナー決定!!の巻」で「なに者かが正義超人の友情の乱れをうまく利用して よからぬことをたくらんでおる!!」「ワシは そのたくらみを未然に防ぐために」「キン肉マンのパートナーとしてこのトーナメントに参加することにしたのだ!!」と参戦理由をキン肉マンに明かしており、②付与者として①主人公を先導する役を果たしている。

①主人公⑤好敵手(アシュラマン)と対立し、③対象物(奪われた正義超人のチームワーク)を取り戻そうとする。そして、シリーズ途中からプリンス・カメハメに代わってキン肉マンとタッグを組むテリーマンは④友人だ。

本シリーズでは完璧超人がラスボスなので⑦敵対者にあたるが、シリーズ途中までは、はぐれ悪魔コンビ(アシュラマンとサンシャイン)とヘル・ミッショネルズ(ネプチューンマンとビッグ・ザ・武道)のどちらがラスボスなのか判別できないような構成になっている。
②付与者カメハメを生害するのは⑤好敵手のはぐれ悪魔コンビ(アシュラマンとサンシャイン)なので、上表とはやや様相が異なる。これは、前述したように、はぐれ悪魔コンビとヘル・ミッショネルズのどちらが⑦敵対者になりうるのか、作者が決めていなかったからと思われる。というのも、もともとのトーナメント表どおりであれば、準決勝ではぐれ悪魔コンビとヘル・ミッショネルズがぶつかる予定だったからだ(準決勝前に綱引きが行われて対戦カードが組み替えられる)。

さて、本シリーズでは④友人に特徴がある。もともとキン肉マンの仲間であったアイドル超人軍(ロビンマスク、ウォーズマン、ブロッケンJr.、ウルフマン、バッファローマン)は、はぐれ悪魔コンビにチームワークを奪われたせいで「キン肉マン打倒」を口にするようになる。いったんは敵対するものの、のち友情パワーを取り戻してからはキン肉マンに助力(ロビンマスクはアドバイスをし、バッファローマンはロングホーンを差し出すetc.)するようになるので、本シリーズ上での彼らの役割は⑥トリックスターといえる。
テリーマンに関しては、「オレは他のみんなのように おまえと敵対関係になろうというんじゃない!!」と明言(「テリーマンの決意!!の巻)して④友人のポジションを維持し続けるが、キン肉マンに先駆けてはぐれ悪魔コンビと戦い、敗北を喫する。
これが、第6巻のレビューでも触れた「疑似主人公」だ。④友人だけが担える「失敗パターンを提示する」という役割である。
その後、②付与者カメハメと入れ替わって、二代目キン肉マングレートとしてキン肉マンとタッグを組むことになる。この入れ替わりは、マスクマンならではのギミックといえるだろう。なお、初代グレート(②付与者)と二代目グレート(④友人)の違いを、モンゴルマンが以下のように指摘している。

「以前のキン肉マンとグレートならば常にグレートがチームリーダーとして指示を与え 日ごろ人のいうことを きかぬ キン肉マンが グレートにだけは 一目おいていて まるで師弟のようだった!!」
「ところがこの試合でのふたりは まるで対等の立場だ!」
「どちらがチームリーダーともいえず まるで親友同士がチームを組んだようだ!」

「地獄のキャンバス!!」の巻(第20巻収録)

本シリーズにおける準決勝「マッスルブラザーズvsはぐれ悪魔コンビ」までのストーリーラインは、①主人公たちの③対象物(友情パワー)が奪われ、②付与者⑤好敵手(もしくは⑦敵対者)に殺害され、④友人①主人公を助けて⑤好敵手を撃破する。そして⑤好敵手(アシュラマンとサンシャイン)も友情に目覚める……と、完璧なプロットである。
一方でキン肉マンには、完璧超人たちとのあいだに因縁がない。完璧超人と敵対する理由がないのだ。このため準決勝「マッスルブラザーズvsはぐれ悪魔コンビ」の試合後から、ヘル・ミッショネルズをヒールとして仕立てるためのエピソードが積み上げられていく。アシュラマンへの仕打ち、2000万パワーズと戦い、キン肉マンの左腕切断などを経て、読者のヘル・ミッショネルズに対するヘイトを高めていくわけだ。プロレス的に言えば「アングルづくり」である。
そのひとつに、ネプチューンマンよる「マスク狩り」がある。超人オリンピック ザ・ビッグファイト決勝戦で、キン肉族は素顔を衆目に晒したら死ななければならないとの掟が明かされたものの、その設定は続く「7人の悪魔超人編」と「黄金のマスク編」では触れられることがなかった。相方のキン肉マングレート(カメハメ&テリーマン)にマスクマンならではのギミックを用意するだけでなく、キン肉マンの側のマスクにもフィーチャーすることで、今シリーズに1本の大きな背骨を通していく。「はぐれ悪魔コンビとヘル・ミッショネルズのどちらが⑦敵対者になりうるのか最初は決めていなかったからと思われる」と前述したが、後づけながらも「マスク」というテーマに収斂していくストーリーテリングは実に収まりがいい。
このように「夢の超人タッグ編」は、当初は「友情」をキーワードにストーリーを牽引し、なかばから「マスク」をフィーチャーし、あらためて「『キン肉マン』とはどのようなテーマの物語か」にフォーカスしたストーリーとなっている。

プリンス・カメハメ再登場キャンペーン

さて、本シリーズのプリンス・カメハメは、「超人への道!!の巻」で最初に顔見せをする。続く「相棒をさがせ!!の巻」のラストでもシルエットで登場して次回への引きとし、「パートナー決定!!の巻」で正体が明かされる。
このプリンス・カメハメ再登場につながる3エピソードの「少年ジャンプ」本誌での掲載号は以下の通り。
・「超人への道!!の巻」33号(8月1日付)
・「相棒をさがせ!!の巻」34号(8月8日付)
・「パートナー決定!!の巻」35号(8月15日付)

なお、この年の4月3日からはTVアニメの放送がスタートしており、この時期にアニメでは本編のどのあたりをやっていたのかというと、以下のとおりとなる。
・第19話Bパート「ハワイ! カメハメの謎の巻」(8月7日放送)
・第20話Aパート「7秒フォール! の巻」(8月14日放送)

雑誌の発売が表示日付より実際は2〜3週間は早くに刊行されることを考慮すると、「少年ジャンプでカメハメ再登場→TVアニメでカメハメ登場」と淀みなくリレーしていることがわかる。およそ1カ月かけて、ファンにプリンス・カメハメの存在を思い出してもらうキャンペーンを展開したわけだ。
『キン肉マン』という作品は、このようにメディア戦略をフル活用した作品であり、であればこそ一大ブームを生み出したわけである。そのことを、あらためて再認識させられるはずだ。

族長のモデルはワフー・マクダニエル

「テリーマンの決意!!の巻」「超人への道!!の巻」では、人間ジェロニモが超人へと生まれ変わるための試練に挑むことになる。
ジェロニモの出身地はアメリカ中西部オクラホマであり、チェロキー族のシャイアン酋長(現在は「族長」表記)の呼びかけに応じて超人の神が登場し、スーパーマン・ロードに三つの関門を用意する。ちなみに、この超人の神は、現在連載中の「超神編」では進化の神ジ・エクスキューショナーとして再登場する(コミックス第77巻参照)。
なお、ネイティブ・アメリカンの中には、成人への通過儀礼としてビジョン・クエストの儀式を行う部族がある。精霊と対話してみずからの使命に目覚める、というものだ。
本記事では「少年漫画=通過儀礼イニシエーション(少年としての自分と決別し、成人として社会の構成員となる)」と位置づけているが、第6巻のレビューで解説した内容は以下のとおり。

つまりこの定型は、みずからが所属する共同体の構成員(=大人)として迎え入れられるための通過儀礼イニシエーションを意味する。「生まれ育った故郷を後にして冒険に旅立つ」という行いは、みずからを守ってくれていた環境を離れることであり、すなわち親の庇護下を離れることを意味しており、文学的な意味においての「父殺し」が旅の本来的な目的といえるだろう。子供としての自分と決別し、大人として社会の構成員になるのだ。
要するに「少年が大人になる物語」なのである。

第6巻レビュー記事より

ジェロニモの「人間として死亡したのち、神から与えられた試練を乗り越えて、超人として生まれ変わる」構図は、まさしく通過儀礼イニシエーションそのものである。みずからを育ててくれたシャイアン酋長(に扮した超人の神)を手にかけるという「父殺し」を成し遂げて、超人へと転生するのであった。
この天空に伸びた階段を駆け上がって「三つの関門」に挑む一連のシークエンスに関しては、初出時から少しばかり既視感を抱いているものの、その正体は突き止められていない。なにか着想元があるような気もしているのだが……。
なお、この年にはクリストファー・リーヴ主演の実写版スーパーマンシリーズ3作目『スーパーマンⅢ/電子の要塞』が日本でも公開されている(日本公開は1983年7月9日)。公開時期は近いものの、スーパーマン・ロードを思わせるような展開はなく、本エピソードとの関連性は見いだせない。

ちなみに、シャイアン酋長のモデルとしては、プロレスラーのワフー・マクダニエルを挙げておきたい。ネイティブアメリカンのワフー・マクダニエルは1960年代からアメリカで活躍したレスラーであり、頭部の羽飾りなどのインディアン風のギミックでトマホーク・チョップを武器とした。1980年代初頭には全日本プロレスや新日本プロレスにも参戦したようだ。

バッファローマンの手紙の謎

「超人への道!!の巻」ラストでは、中国河南省のモンゴルマンのもとに、バッファローマンからタッグ勧誘の手紙が届く。その文面は以下のとおりだ。

史上最強の男が史上最強の男をさそいにきた キン肉マンと組んだのも一度なら私と組むのも一度 機会が二度 君のドアをノックすると考えるな

『キン肉マン』第17巻「超人への道!!の巻」

『キン肉マン」には、作中に名言が引用されている印象的なシーンがいくつかある。たとえば、テリーマンが子犬を救い、超人オリンピック ザ・ビッグ・ファイトの予選で失格となった際には、モンテーニュの『エセー』から「世の中には勝利よりも勝ちほこるにあたいする敗北がある」(「新幹線アタックの巻」第7巻収録)との言葉が引用されている。
あるいは作品の最後には、アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンの「友情は成長のおそい植物である。それが友情という名の花を咲かすまでは幾度かの試練・困難の打撃を受けて堪えねばならぬ――――」(「キン肉マンよ永遠に…!の巻」第36巻収録)との言葉が引用され、作品を締めくくっている。このワシントンの言葉は、小中学校の道徳の教材で使用される『心のノート』(あかつき教育図書)にも収録されたので、日本では広く知れ渡っているようだが、それがいつ、どのようなタイミングでワシントンから発せられたものであるのかは不明だ。

さて、バッファローマンの「機会が二度 君のドアをノックすると考えるな」だが、18世紀フランスのモラリスト(道徳主義者)で批評家のシャンフォール(Chamfort, Sébastien-Roch-Nicolas/1741〜1794)の著作からの引用とする説がある。
シャンフォールはモラリストとして世界史的な文脈でその名前が出てくることはあるものの、著作はほとんど邦訳されていない。

“Pensées,maximes et anecdotes”は、『格言と反省』のタイトルで大島利治の訳で出ており、1963(昭和38)年12月12日に発行された『世界人生論全集 9』(筑摩書房)に収録されている。国立国会図書館のデジタルデータで一読したものの、残念ながら該当する言葉は見つからなかった。

『世界人生論全集 9』(筑摩書房)

作者のゆでたまごは、おそらく「名言集」のようなものから引用したのではないかと推測されるが、原文がどのような文脈で発せられたものなのか、あるいは孫引きの孫引きなどで実は出典が存在しない可能性さえ拭えない。
ともあれ、このバッファローマンの手紙に関しては、とくに出典が明記されているわけではないので、「バッファローマンが何かから引用して手紙にしたためたのではなく、みずから発した言葉」と捉えてもいいのではないだろうか。
サタンに魂を売る前のバッファローマンは、スーツ姿でインテリジェントな装い(「完全無欠超人の巻」第12巻収録)なので、そうした一面もあって、気の利いた言い回しもできる……と考えると、バッファローマンの個性に深みが出るようにも感じる。

トーナメント・マウンテンの巨大迷路

最後に、超人タッグ・トーナメントの舞台となるトーナメント・マウンテンについて触れておきたい。「失われたトロフィーの巻」では、委員長ハラボテ・マッスルの口から「文献によると超人タッグ・トーナメントの最後の開催は1億4000万年前」と具体的な数字と起源が示される。
地球の歴史における1億4000万年前は白亜紀で、恐竜の時代である。まだ人類は誕生していないが、『キン肉マン』世界では超人がタッグ・トーナメントを繰り広げていたのであり、われわれの世界とははるかに異なった歴史をたどっていることが判明する。

トーナメント・マウンテンは8つのチームがエントリーできるようになっており(「失われたトロフィーの巻」の「少年ジャンプ」31号の初出時は16チーム)、そこに至るまでの内部は巨大迷路になっている。
「なぜ巨大迷路?」といぶかしがるかもしれないが、1980年代には日本では巨大迷路ブームが起こっていたのである。その火付け役とされるのが京都府京都市伏見区の「ふれあいスポーツDAIGO」の敷地内に建造された「醍醐グランメイズ」で、1985年9月の開設から1年間で38万人を集めた。
巨大迷路ブームの最盛期は1987年頃とされ、日本各地の100カ所以上に立体迷路が作られたという。つまり、『キン肉マン』では巨大迷路ブームが爆発する前に作品に取り入れていたことになる。こうした流行を嗅ぎ分ける力がいかんなく発揮されていたのが『キン肉マン』という作品で、「子どもの喜びそうなもの」への嗅覚の鋭敏さが作品のテンションと直結しているようなところがある。

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