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第13巻:伝説のマスク!!の巻

第13巻データ・アナリティクス


掲載順は「真ん中より前」を維持

※掲載順は漫画作品のみ(特集記事、小説、記事広告、読者投稿ページは除く)。
「掲載順=人気」とは一概に言えないが、人気を測るバロメータのひとつとして参照する。
1号あたりの漫画作品の掲載本数は15〜18本。
単行本13巻の発行日は1983年9月15日。

「少年ジャンプ」は31号から新連載攻勢を開始する。31号は『やぶれかぶれ』(本宮ひろ志)、32号は『野武がゆく』(門馬もとき)、33号は『ジュン』(森下ひろみ)、34号は『翔と大地』(高橋よしひろ)。そして35号からは、19号を最後に休載していた『ストップ!!ひばりくん!』(江口寿史)の連載が再開される。
この新連載ラッシュの最中(34号、35号)を機に、掲載順が「前半」から「中盤」くらいに転じるが、基本的には「真ん中より前」を維持できている。

1981年45号から続いていた「7人の悪魔超人編」は、本巻収録の1982年31号「ミート生還!!の巻」で終了し、翌週の32号「伝説のマスク!!の巻」から新シリーズ「黄金のマスク編」がスタートする。その32号で『キン肉マン』は表紙に起用された。ネオンサインのようなトロピカルな色彩で描かれたスグルの表情は、実に80年代テイストあふれるイラストだ。

第13巻収録話の連載期間の出来事

31号からは、本宮ひろ志の問題作『やぶれかぶれ』の連載が開始する。本作品は、参議院選挙に出馬することを決意した本宮が、その過程を誌上ルポするという異色作(最終的には出馬は断念)。冒頭で目白の田中角栄邸に突撃して警備員に止められたり、まだ社民連合時代の菅直人(のち内閣総理大臣)が登場したり、最終的には田中角栄に直接会ってインタビューを実現したりと、なかなかセンセーショナルな内容になっている。

なお、35号で復帰した『ストップ!!ひばりくん』(江口寿史)は35号、38号、39号と立て続けに3回も表紙を飾っており、そのことからも、いかに人気が高かったかがうかがえる。

「黄金のマスク編」開幕

「黄金のマスク編」で語られる、キン肉族のルーツ

第13巻では「7人の悪魔超人編」が終了し「黄金のマスク編」が開始するので、本シリーズにおける役割(ロール)を確認しておきたい。
①主人公はキン肉マン、③対象物は金のマスク、④友人はアイドル超人軍団(ウォーズマン、ロビンマスク、ブロッケンJr.、テリーマン、ジェロニモ)。また、アイドル超人軍団からウルフマンが外れ、新規にジェロニモが参戦。ウォーズマン、ロビンマスク、ブロッケンJr.、テリーマンは前シリーズから引き続き④友人としての機能を果たす。
⑤好敵手は悪魔6騎士、⑥トリックスターはバッファローマン、⑦敵対者は悪魔将軍(もしくはサタン)となる。「伝説のマスク!!の巻」でミートが「サ…サタンだ……」「サ…サタンの仕業だーー!!」「ぼくはみたんです バッファローマンにバラバラにされる直前 もっと おそろしい悪魔の影を」と言っており、「7人の悪魔超人編」から引き続き、サタンが黒幕(=⑦敵対者)であることが示唆される。サタンと悪魔将軍の関係については、最終盤になって示唆されるが、シリーズ冒頭から途中までは同一視できるような扱いとなっている。

さて、「黄金のマスク編」の開幕となる「伝説のマスク!!の巻」では、キン肉族のルーツについて語られる。神様から黄金のマスクと銀のマスクを与えられたご先祖さまは、ふたつをはなればなれにすることなく安置し、やがてキン肉族が超人界のリーダーシップをとるようになると、ふたつのマスクはキン肉族だけでなく全宇宙の超人のエネルギー源となった、とのことである。
この逸話の元になったのは、古代ギリシアのアイソーポス(イソップ)が創作したとされる「ヘルメスと木こり」だ。日本では、いわゆる「イソップ童話」の「金の斧と銀の斧」で広く知られた寓話である。子供向けの絵本では泉から出てくるのは女神の場合が多いが、元の「ヘルメスと木こり」ではヘルメスは男神なので、キン肉族の父祖の前に現れた神は、むしろ原典に忠実と言える。

みずからのルーツについて触れるというのは、通過儀礼イニシエーションの物語構造においては、父親が外界でつくった世界(アナザーワールド)を知る段階にあたる。第6巻のレビューでも触れたように、かいつまんで言えば「実は父親は○○でした」。ここでは父よりもさらに遡った父祖の代の話が展開していき、物語の深度の深まりを見せている。
この「黄金のマスク編」になって、キン肉族に代々伝わる「肉のカーテン」が再び登場する点も興味深い(スニゲーター戦など)。この防御技は、キン肉タツノリ(スグルの祖父)が用いたものである(「肉のカーテン!!の巻」第9巻収録)。
なお、連載再開後の新『キン肉マン』における「完璧超人始祖編」は、この「黄金のマスク編」で提示された設定(キン肉族のルーツ、黄金と銀のマスクなど)を補完しつつ、重要な要素として物語に盛り込んでいる。このため、「黄金のマスク編」はより重要度を増したと言えるだろう。

アリキックとは?

キン肉マンと最初に戦う悪魔6騎士は、ワニ地獄(日本武道館)のスニゲーターである。
「恐怖のワニ地獄の巻」では、キン肉マンは空中に飛び散った6つの黄金のマスクを追って空を飛んでいくのだが、飛び立つ前に越中スタイルのふんどしがスグルの股間に巻きつき、そのままレスリングパンツへと変貌を遂げるシーンがある。これがどういう仕組みのものなのかは不明だが、妙に印象に残るシーンだ。

「地獄の封印の巻」では、キン肉マンは「肉のカーテン」で亀形態のスニゲーターの攻撃を防いでから攻勢に転じ、アリキックでダウンを奪う。
このアリキックとは、アントニオ猪木対モハメド・アリの「格闘技世界一決定戦」で猪木が披露したキックのことだ。この試合は、ルールミーティングで「スタンディングでの蹴りは禁止」とされてしまったため、猪木はアリの足元にスライディングし、マット上に仰向けに寝転んだままローキックを放った。これをアリキックという。
ただ、リアルタイム(雑誌掲載は1982年36号、単行本は1983年9月刊行)の読者からすると、「アリキック」が何を意味するのかわからなかった。そもそも「格闘技世界一決定戦」が開催されたのは1976年6月26日。この時点で6〜7年前の出来事ということになる。
『キン肉マン』の連載開始は1979年22号から。25号の「キン肉星を救え!!の巻」(第1巻収録)で格闘技世界一決定戦のパロディをやった頃は、「3年前の出来事」であったのに対し、連載が3年続いたこの時点では「6〜7年前の出来事」ということになる。『キン肉マン』が主要ターゲットとした小学校低学年にとっての6〜7年は、はるか昔である。
格闘技に関する知識が広く知られるようになった現在であれば、「アリキック」や「猪木アリ状態」なども知識として共有されやすいが、40年前の、それも読者の入れ替わりの激しい少年漫画の世界では「古いネタ」だった。

エリマキトカゲブームは『キン肉マン』が後押ししたかも、という推論

上記では「題材の古さ」について言及したが、反対に「新しすぎる」ネタについても触れておきたい。それはエリマキトカゲだ。スニゲーターは亀形態から蛇形態、さらにエリマキトカゲ形態へと姿を変える。

1980年代、日本では空前のエリマキトカゲブームが巻き起こる。樹上では通常のトカゲと変わらないが、威嚇する時にはエリマキ状の皮膚を広げたり、地上で直立して2本の後肢だけでガニ股走りしたりする姿には愛嬌があり、またたく間に日本全国で知られるようになった。当時のブームまでの経緯は、以下のサイトに詳しいのでリンクを貼っておく。

1984年、TBS系列の動物バラエティ番組『わくわく動物ランド』で取り上げられ、番組での人気動物ランキングを集計したところ、エリマキトカゲはパンダやコアラを抑えて圧倒的な一番人気であったという。その直後に三菱自動車「ミラージュ」のテレビCMで火がついた、というのが発端のようだ。そしてブームが起きてから、草津熱帯圏(群馬県吾妻郡草津町)が日本ではじめて展示したという。
ブームの最中には、上記サイトにあるように様々なグッズが発売されただけでなく、TBS系列『8時だョ!全員集合』では志村けんがコントの題材にしているし、秋田書店は「週刊少年チャンピオン特別編集 エリマキトカゲ まんが特集号」(発行日は1984年8月1日)という、エリマキトカゲを題材にしたマンガだけで1冊つくりあげている。この増刊誌には、『らんぽう』の内山まさとしなど、「週刊少年チャンピオン」にゆかりのあるギャグ漫画家が執筆した。

これらの事例からも、エリマキトカゲブームは社会現象と呼べるほどであったことがわかるだろう。
しかし、エリマキトカゲブームは1984年のこと。『キン肉マン』でスニゲーターがエリマキトカゲ形態に変態する「地獄の封印の巻」の初出は1982年36号(発行日は8月23日)。ブームより2年も前なのである。
アニメ版『キン肉マン』の「凶悪!! エリマキトカゲの巻」が放映されたのは1984年10月21日と、こちらは完全にエリマキトカゲがブレイクしたあとなので、「スニゲーターはエリマキトカゲブームに便乗したキャラ」と錯誤しがちだが、実際は原作スニゲーター登場回のほうがブームよりもずっと前だったわけだ。
それよりも時系列を整理すると、1982年8月「少年ジャンプ」でスニゲーター登場、1983年4月『キン肉マン』アニメ化で大ブーム、1983年9月「地獄の封印の巻」収録の単行本13巻発売、1984年『わくわく動物ランド』でエリマキトカゲを取り扱う……となる。そう考えると、「『キン肉マン』で見たあの動物、実物を見てみたい!」という子どもたちの声が、むしろエリマキトカゲブームを後押ししたのではないか、との推論も成り立つ。

では、作者はどこでエリマキトカゲを知ったのか。
直接のソースは調べようがないが、実はエリマキトカゲは、このブームよりずっと前から「珍しい生き物」として有名だった。
たとえば「少年サンデー」1970年17号(発行日は4月19日)の表紙は、エリマキトカゲの写真である。少なくとも1984年のブームより14年も前には、発行部数100万部を超える少年誌の表紙を飾るほどには、エリマキトカゲは知られた動物だったことがわかる。余談だが、この号は『デビルキング』(さいとう・たかを)の最終回が掲載された号でもある。
要するにエリマキトカゲは、後世の視点からでは、1984年にいきなり社会現象になったような印象を受けるが、それ以前から(少なくとも14年も前から)認知されており、テレビ番組やCMで実際に「動く姿」が捉えられて人気に火がついた、と考えるのが妥当なようだ。

雑学知識の盛り込み

スニゲーターに勝利したキン肉マンは、次に宇宙地獄(豊島園)のプラネットマンと対戦する。
プラネットマンの身体は水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星で構成されており、ミートは「太陽系の惑星ばかりだ!!」と解説する(「友情の断髪式!!の巻」)。
このうち冥王星は、2006年に準惑星に区分されたので、現在は太陽系の惑星は8個だが、『キン肉マン』連載当時は冥王星を含む9個でカウントされていた。
とはいえ、プラネットマン自身が「ご存知の通りオレさまは この体の九つの惑星のほかに太陽や月も武器に できるのさ」と説明する(「正義超人全滅…!?の巻」)ように、惑星以外に衛星(月)も扱えるので、新『キン肉マン』で再登場した際に従前どおりの身体設定(8つの惑星+ひとつの準惑星)であっても問題はないようだ。

なお、プラネットマンの頭部ははじめは地球であったが、その下には「太陽系十二番めの星バルカン」が隠されていたことが判明する。バルカンとは、作中では「地球の うら側にいたために いつも影となり大宇宙の暗闇の中に その姿をかき消されてはいたがな…」(「ナゾの星バルカン!!の巻」)と説明される。
実際のバルカンとは、水星よりさらに内側(太陽寄り)に存在すると19世紀に提唱された惑星のことで、現在ではその存在が否定されている。前述の「ヘルメスと木こり」と同様に、こうした雑学的な面白さを盛り込んできているのが、この「黄金のマスク編」の特徴である。

『デビルマン』ジンメンの影響

さて、この第13巻でキン肉マンと対戦するスニゲーターとプラネットマンには、ある先行作品からの影響が見て取れる。それは『デビルマン』(永井豪)である。
『デビルマン』は「少年マガジン」1972年25号から1973年27号まで連載された。全53話、最初に刊行された単行本は全5巻と、現在の基準では決して長くない連載であった。しかしながら、多くの読者や後世の作家に多大な影響を与えた。漫画史に残る傑作と呼ぶにふさわしい作品である。

スニゲーターとプラネットマンは、この『デビルマン』に登場する悪魔ジンメンが着想元だろう。ジンメンは亀が後肢で直立二足歩行した外見をしているので、スニゲーターの亀形態はフォルムが似ている。
そしてジンメンは、人間を食うと、甲羅のコブのひとつひとつが食われた人間の顔になる、という特性を持つ。甲羅に取り込まれた人間は、すでに死んでいるのでやがて消滅するのだが、それまでは意識を保ち続けている。ジンメンは、主人公・不動明(=デビルマン)を慕う少女サッちゃんを含む多数の人間を捕食し、甲羅に浮かび上がらせて、デビルマンに迫るのであった。
その際にサッちゃんは、「おにいちゃんこいつを殺してー!」「あたしは死んでる 気にしないでー!」「あたしは死人よ!」(講談社漫画文庫版『デビルマン(2巻)』永井豪)と叫び、結局、デビルマンはサッちゃんの左目を含む顔の左半分を拳で貫く。直後、サッちゃんの残された右目を、自身の爪で閉じてあげるところに、えもいわれるペーソスが漂うシーンである。

「正義超人全滅…!?の巻」のラストでプラネットマンが繰り出した魔技「人面プラネット」は、プラネットマンの体の各部の惑星(と準惑星)に正義超人の人面疽を浮かび上がらせる悪魔霊術である。その詳細は「戦りつの人面疽!!の巻」(第14巻収録)で、以下のように説明される。

どうやら魂だけをプラネットマンにすいとられたようだぜ…(テリーマン)

じゃから今のワシらはプラネットマンの体の一部を かりて生きていることになる(キン肉大王)

『キン肉マン』14巻 ゆでたまご(集英社)

キン肉マンはキン肉バスターを失敗し、左胸の人面疽(=ウォーズマン)の顔左上を傷つけてしまうが、人面疽へのダメージはプラネットマン自身も傷つけることを悟ったウォーズマンが、「わたしの顔をぶちぬけばプラネットマンは即死だーーーっ!!」と叫び、キン肉マンはウォーズマンの顔ごとプラネットマンの胸を拳で貫く。
漫画版『デビルマン』は、ゆでたまごのふたりが小学校6年生〜中学1年生にかけての多感な時期にかけて連載していた作品なので、多大な影響を受けたものと思われる。

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