【書評】柚木麻子『終点のあの子』

今回は柚木麻子さんのデビュー作、『終点のあの子』の紹介をしていきます!オール讀物新人賞を受賞した、短編4編が収録されており、しかも、その4編の舞台が同じで、主人公の視点が入れ替わることで物語に深みを与えている面白い作品になっています。ライター・書評家である瀧井朝世さんが「なんだろう、この観察眼の鋭さは!」と絶賛するほどの作品…この作品の魅力を少しでもお伝えできればと思います。

本書の基本情報

基本情報

タイトル:『終点のあの子』
著者:柚木麻子
出版社:文芸春秋
価格:本体570円+税
ページ数:254p
ISBN:978-4-16-783201-8

あらすじ(裏表紙より)

プロテスタント系女子高の入学式。内部進学の希代子は、高校から入学した奥沢朱里に声をかけられた。海外暮らしが長い彼女の父は有名カメラマン。風変わりな彼女が気になって仕方ないが、一緒にお昼を食べる中になった矢先、希代子にある変化が。

引用元:『終点のあの子』裏表紙より

おすすめポイント

各登場人物の女子高生像がリアル

柚木麻子さんの観察がの鋭さが絶賛されていますが、具体的に何がすごいのかと言うと、スクールカーストや恋愛、「特別な何かになりたい」「誰かに認められたい」などという学生の普遍的な悩みを丁寧に描いており、更に、無印良品や相対性理論(アーティスト)といった固有名詞が多く使われていて、その選択というか使い方が非常に上手く、その固有名詞がより女子高生にリアル感を出していたように思います。
リアルだからこそ、共感できる。リアルだからこそ、感情がかき乱される。本作は、そんな感覚を味わえる作品だと思います。

視点が切り替わることによる物語の深み

同じ女子高を舞台に、また登場人物もほとんど変わることなく、短編ごとに主人公の視点が変わっていく、というのがこの作品の最大の特徴であり、魅力であると私は思います。
視点が話すことで物語に深みが生まれてきます。このキャラクターの視点では見えなかったものが別視点では見えてきて、一見不可解な行動とも思えるものが次第に説得力を増して、印象が変わっていきます。視点を変えることで少しずつ種明かしされていくようなワクワク感・爽快感みたいなものもありました。
この小説を読んで一番に思ったことは、人間にはその場その場の環境・状況で「そうするしかなかった」出来事があり、単に行為の善悪で判断するのは酷だということです。突然浴びせられる罵声、裏切り…その行動にもその人なりの考えや歴史が隠れています。行為だけを見て、人を判断することの暴力性に気付かされました。

まとめ

非常に読みやすい文章で、リアルな設定、視点の切り替えという斬新さで楽しく、そして共感しながら読み進められる、非常に良い作品でした。この作品を読んで、思春期の頃の感覚をもう一度味わってみるのもいいと思います!

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