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方法論(メソッド)の意義と効用

企業には様々な業務があるが、方法論を活用することにより、生産性とアウトプットの品質が一気に高まるケースがある。方法論は、英語でMethodology、略してMethodと言われており、欧米では一般的な概念だ。日本ではまだまだ馴染みが薄い用語だが、「型」という意味に近いと考えてよい。
ここでは、方法論を活用する意義と効用について解説をしていこう。

どういうケースで方法論は使われるのか?

方法論の活用が有効なケースは、高度で複雑な業務に対し、複数の人間や組織が関わる際である。具体的な業務の例を挙げていこう。

  • アプリケーションの開発

  • 製品の設計

  • 工場の生産方式

  • マーケティングのプランニング

  • 人事制度の設計

  • 企業買収後の業務統合やシステム統合

  • アイデアや創造力の発揮が必要となるディスカッション

いずれの業務も、企業にとって付加価値の高いものである。これらは、最終アウトプットに至るまでの工程が長く、沢山の知恵とエネルギーを必要とする。またアウトプットを作成する人員だけではなく、複数の組織と人が利害関係者として関わってくる。
これらのケースにおいては、方法論を活用することにより、出てくるアウトプットのスピードと品質を上げることが可能になってくる。

方法論を持っているのは誰か?

本業として長年、上記のような業務を行っている会社では、必ず独自の自社方法論が存在する。システム開発を生業としている企業であれば、開発手法に応じた方法論を複数持っている。広告代理店は、クライアントが売りたい商品のプロモーションに際して、プランを立てるための方法論がある。トヨタの生産方式である“かんばん”も方法論の一つだ。
一方、滅多に自社では行わない業務について、自社で方法論を所有することは難しい。例えば「人事制度の見直し・再設計」のようなケースだ。その際は、専業のコンサルティング会社などに依頼するのが通常だ。

方法論の構成は?

方法論の構成自体はシンプルである。以下の四つの要素で成り立っている。

  • 方法論活用の目的・対象業務

  • 使用される共通言語の定義

  • アウトプットを作成するための枠組みと作成ガイド

  • アウトプット作成の工程と手順

重要な要素は、作業に使われる共通言語が定義されていることだ。ビジネス上の会話では、同じ用語を使っていても、過去の経験や出身母体によって、微妙に意味合いが食い違っていることがある。使う言語をしっかりと定義することで、認識の相違や理解不足を補うことができる。
作成するアウトプットの量は、工程に依存してくる。工程が長ければ長いほど、アウトプットの量は増す。基本的に一つ工程のアウトプットは、次の工程のインプットとなる。必然的に、前工程で作るアウトプットの質は、次の工程の質に大きく影響する。その品質を担保するのが、枠組み(フレームワーク)と作成ガイドである。

方法論とマニュアルでは何が違うのか?

手順が書かれているということで、方法論のことをマニュアルと取り違える人がいる。両者の違いを説明しておこう。
マニュアルは、書いてある通りにやっていけば、誰でも同じ結果になる代物だ。そこに人間の叡智が入り込む隙間はない。失敗や間違えを起こさないようにするための指南書が、マニュアルだと考えればよいだろう。
片や、方法論においては、手順はあるものの一つ一つの中身は空白だ。枠組みしかない。自ら考えて作業の結果を、その枠組みに埋めて完成させなければならない。その上で、初めて、次の工程に進める。方法論を使って出てくる最終のアウトプットは、その時々の知恵の積み上げである。当然、作業メンバーや作業環境が変わってくれば、アウトプットの内容は変化する。

方法論を活用する意義は?

「方法論のような面倒なものを参照しなくても、私には経験があるから必要ない」という考えを持つ人はいるだろう。一人で完結できる作業に対しては、その通りである。自らの経験則で行える作業は、自身の頭の中に“方法論もどき”のようなものが染みついているからだ。
ところが、複数の人間が共同作業で行う業務となると話は違ってくる。内容が複雑で高度になればなるほど、認識の相違やアウトプットの質のブレが大きくなる。考える枠組みや手順が明示されていない状況下では、個々人の能力と経験に依存してしまうからブレて当然だ。
方法論は、我流や属人性を排除するための「仕事の型」と理解すればよい。
もう一つの意義は、網羅性の担保にある。高度な業務は、様々な側面から検討する必要がある。抜け漏れをなくすための手段と考えてよい。

方法論開発のすすめ

終身雇用制でプロパー社員の多い企業では、方法論という概念がないことが多い。お互い知った仲で、共通の社内用語を使い、共通のやり方を踏襲しているから、用語を定義する必要もないし、仕事のやり方をドキュメント化する必要もないのだ。多少、認識がずれたとしても、擦り合わせで事が済む。
方法論が活かされている企業の特徴は、概して雇用の流動性が高く、付加価値の高い製品やサービスを提供している。自社のコアとなる業務に方法論を適用し、知恵と創造力を最大限に発揮させようとしている。
もし読者の会社に方法論が存在しないのであれば、自社のコア業務に対する方法論の開発にチャレンジすることをお薦めする。その開発作業の過程では、概念化する力と抽象化する力がついてくる。
そして、その方法論が晴れてリリースされた暁には、自身のためにも、所属する会社のためにもなるだろう。

FIN.   October 15th, 2022


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