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腹を割ったカードデッキ

『腹を割って話す』というのは実に言い得て妙な言い回しだなと思う。本音でぶつかりたい時、相手の本音を引き出したい時、そんな話が出来るくらいに相手と仲良くなりたいと思う時、腹を割って中味をオープンにして話をすることはとても効果的だ。

それはカードゲームに似ているなと思う。相手に強いカードを出させるためには、こちらも相応のカードを切らなければならない。逆に相手が強いカードを出してきた時には、こちらも負けじと強いカードを切るものだ。相手が恋愛相談を持ち掛けてくれたなら、「実は俺もさ……」と恋愛の話を返す。相手が学生時代の恥ずかしい失敗の話をさらけ出してくれたなら、こちらも昔のやらかしを返す。家族の話、死生観の話、芸術の話、下ネタ……そうそう話さないような突っ込んだ話をする時、それは互いにカードを切り合う等価交換でのみ成立するように思う。互いに腹を割って、手の内を見せ合う。そうしてコミュニケーションは成立している。

河原で殴り合ったあとに敵と仲良くなるのはいにしえの青春ドラマの定番だった。そんなことはドラマの中だけの出来事かもしれないが、腹を割って話すカードバトルの後はより深く互いのことを知って仲良くなるものだ。「お前、いいパンチ持ってるじゃねぇか」「お前もな」散らばったカードの上に寝転がって同じ空を見上げながら笑う。互いに腹を割って本音のカードを出し合ったからこそ生まれる友情や信頼だ。もしかしたら少し古いコミュニケーションのやり方なのかもしれないが。

大人になると、なかなかそこまで本気のレアカードを出し合える関係を築くのは難しいものだ。天気の話、仕事上の事務的なやり取り、有名人のゴシップ、そんな無難なカードで構成されたデッキでやり取りすることの方が多いように思う。せっかく集めたレアカードを腹を割って出し合えるような相手がいるというのは幸福なことなのかもしれませんね。

と、昨日の帰り道に仲間と話しながら思ったのでありました。

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