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音にすれば一文字、「ネ」という呼ばれ方をされている職業がフランスにある。魅惑的な香水を作り出す仕事である。日本では調香師ということになるらしい。この調香師にスポットをあてたドキュメント番組が放映されていた。

特に、私が印象に残ったところを少し紹介させて頂くことにする。

インタビューに応じた有名な調香師の名前は忘れたが、生まれはイタリア、フランスの大学の理学部化学科を卒業して、フランス有数の化粧品会社に勤め、十数年後に調香師として独立をした。

インタビュアーは、彼に、「新しい香水は、どのようにして作られるのですか」と、ごくごく当たり前の質問を投げかけた。

「朝、目を覚まします。その瞬間に、香りを感ずることがあります」「その多くの香りの中に、とてもいい香りがあることがあります」
「この香りは忘れません。後は、様々な材料と、今までの経験を生かして、この理想の香りに近づけていくことが毎日の仕事です」

「目的の香りを作り上げるのには、どのくらいの時間がかかるのですか」とインタビュアー。

「1年間から2年間ぐらいかかることが多いですね」
これが、私が印象に残ったインタビューの部分である。

目を覚ました時に、香りを感ずるというのは、とても常人では考えられないことで、さすがに調香師という特殊才能の持ち主ならではと驚いたが、香水作りをあれやこれやとしている時に、素晴らしい香りに出会うということでなく、始めにしっかりと理想の香りのイメージが存在し、その理想の香りにひたすらに近づけることが日々の仕事で、そこに妥協がないということに、私は深く感じた。

これを自分の仕事を頭に浮かべながら、まずは、目標とする理想像が自分の頭にイメージできるか、そして、その理想像が、仕事を進めていく上で、レべルダウンして行くことはないかを考えてみた。

調香師の仕事とは違い、多種類の条件、いろいろな人との関わりがある仕事では、目標とするとろが可能か否かを自然にと考えていることが多く、シンプルに理想像を描くことさえが難しい。理想像を描いたとしても、それが非現実的であることを悟る。そして、その結果として、ある程度妥協をした半理想像に落ち着き、それに向けて仕事を進めることになる。最終的には、さらにレベルが下がり、4分の1程度の理想像を上出来とすることが実際に多いような気がする。

おそらく、職人的な仕事をする人の一部の方でない限り、理想像をイメージして、それにひたすら近づけることのみに没頭することはできないだろうと思う。ほとんどが、理想像と現実の姿の大きなギャップに悩み、いや、仕事慣れをしてくるとそれを残念に思うことさえ忘れていくかもしれない。そんなことが多いと思った。

実社会に出れば、このようなことを何度となく実感することになるが、それだけに、いつも無条件の理想像を描くことを忘れず、そして、それに近付けようとする意識と行動を続ける必要があるのではないだろうか。

そんな気持ちを持って進めても、現実は、それとは遠いところでおさまる。しかし、その気持ちがなければ、作業的に仕事を進める毎日になる恐れは十分にある。

仕事に向かう基本を教えてくれた番組であったような気がしている。


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