不幸じゃない不便なだけだよ⑦

音声

手話でのやり取りが少しずつ増え、意思疎通が出来る事も多くなってきた。
順調に進んでいる気がしていたし、このまま軌道に乗って行くのだろうと思っていた。
引き続き、支援学校の教育相談にも通っていたのだが、ある時、こんな話しをされた。

“難聴の人がどう言う音を聞いているのか、補聴器を通してどんな音が入っているのか、気にしたことはありますか?”

正直。全く気にしたことは無かった。

では、この音声を聞いて見てください。
《…それでは、明日の天気です。西高東低の気圧配置で…》
『どうですか?』
「え?普通に天気予報の音声ですよね?」
『そうです。これは普段私達が聞いている音声です。』
続いてこちらです。

《…それでは、明日の天気です。西高東低の気圧配置で…》
『これはどうでしょう?』
「モゴモゴと、こもってるような声ですが、なんとか聞き取れます」
『イメージではありますが、これが伝音性難聴の方の聞こえ方です』

『続いて、感音性難聴の聞こえ方です』
《…@#$%^&*?;`¿¥€£¢®℃℉°§№†…》
「え…???」
『まったく同じ内容の音声を流しています、どうですか?』
「全然何を言っているのか分かりません……」

衝撃的だった。
ほんとうに何を言っているのか分からない。
その後、説明をされた。

聴力検査でどのくらい聞こえているか、毎回検査結果を貰うのだが、音の高低、大小でどの辺りの音を聞き取れているのか、折れ線グラフの様に表されている。おチビは補聴器を付けても85db以下の音には反応をしていないようだった。

支援学校から貰った資料によると、バイクの音や花火の音がやっと聴こえるくらいらしい。
更に説明は続き、
『色が変わっている部分にアルファベットが書いてありますね?この部分はスピーチバナナと言って、会話をする為には、この部分の音が聞き取れる事が必要なんです。』

え…??全然足りてない。

『そしてアルファベットは発音を表してまして、例えば、魚、ローマ字でsakanaですが、sとkは高音が聞こえない人だと、ああな_a_anaと聞こえるんです』

これも衝撃的だった。
全然順調になんて行ってなかった。
このままでは言葉が出る訳が無い。
その日は肩を落とし帰ったのを覚えている。

肩を落として帰った日から2ヶ月後。
2018年11月。
大学病院での定期検診。
聴力検査の反応はいつも通り。大きな音にやっと気付くくらいだ。検査が終わり帰ろうとしたが、その日は先生からお話がありますと、診察室に呼ばれた。入ってみると、いつもの先生と違う。
補聴器の効果が出ていないという事と、4歳になる前までに音声を入れる事が、今後、言葉を発する為には必要と言う話しをされた。

(そんなのは分かってる!!支援学校でも聞いていた。でもどうしようも無いんじゃないのか?)

さらに先生は続ける。

以前のMRI、CTの結果で特に異常が無い事は分かっているので、人工内耳の手術をしてはどうでしょうか?

先生が言いたかったのはこれだったのだ。
それでおチビの未来に光が射すのなら、やらない理由はないよ。

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