ドラゴンクエスト・ユアストーリーを観終わった後に感じたやるせなさと、その先

自分は「リュカ」という名前をハンドルにしてずっとお世話になってきているし、久美沙織さんの記した小説ドラゴンクエスト5の影響も受けているので、一筆残しておこうと思った次第。

各所で様々なレビューやコメントが出てる(*1)ので大筋はそちらに譲るとして、ここでは、映画(及びそのノベライズ)のドラゴンクエスト・ユアストーリー(以下、ユアスト)に対する良し悪しの評には力点を置きません。
正史と、記憶に基づく小説ドラゴンクエスト5の話を多分に含みます。映画で描ききれてなかった部分について、そのままにするのは忍びないなという内容です。

先入観なく映画を観たい(*2)なら、ここで時間を使う必要はないです。わりとネタバレもあります。


それでも読むかい?
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 虜囚を経て王たりうる本来の "リュカ" の人物像

DQ5で "リュカ" という名前を聞いた時の印象はどうでしょうか。
小説ドラゴンクエスト5を読んだ人なら、ゲーム中で物言わぬ主人公と比して、"リュカ" と書かれている人物に確かな個性をイメージできるはず。

彼の人生は幼年期から青年期(前半・後半)と、それはもう酷くて、ドラクエ歴代主人公の中でもトップクラスの幸薄さを誇ります。
生まれてすぐ母親さらわれるし、目の前で父親殺されるし、10年奴隷(小中高と朝から晩まで死人が出るレベルで力仕事させられたと思うべし)だし、故郷は焼き討ちの憂き目にあってるし、嫁さらわれるし、石化して8年も過ごすし、後なんだっけもうなんなの、と。そんな不遇の主人公なのですが。

決して傲慢にならず、人や、まものの境遇を親身に感じ取って本質的な価値を見出す感性だったり、
自分も他人も裏切らない、期待に応えようとする誠実さだったり、
人魔を問わない分け隔てない慈悲だったり、
父像を夢見た武勇、戦闘技術や知略もさながら己の信念に従って行動を起こす勇気だったり、
正しいことを成し遂げようとする正義感だったり。でも、決して完璧超人・聖人じゃなくて。
力不足だったりうまくいかなかったりして、それでも耐え忍び、良くも悪くも正しくあろうとする生き様だったり、と。

いずれも、久美沙織さんが "リュカ"(="リュケイロム・エル・ケル・グランバニア") として描いて、読み手の記憶に刻み付けてきたものだと思うのです。


映画の尺に合わせた、ユアストの描写とのギャップ

副題にもあるとおり、DQ5を元にしつつも異なるナニカの話であろうこと。
そのナニカが小説ドラゴンクエスト5の "リュカ" でないことは、予告の時点でわかってたことで。
土台、映画の時間内で全部入れ込むとかムリですし。それはもう仕方ないし、求めてない。
それでも、あの "リュカ" の人生譚の一部でも感じ取れたら..というのが最初の期待だったのかなと思います。
その期待に(ある意味予想通りに)反して、映画でリュカを名乗る人物の描写に、たくさんのギャップがあったのも事実。

10年の奴隷生活で数えきれない死に立ち会った上で、軽い口調で「大変だったんだぜー」なんて言わないよな、とか。

父の志を継ぐことを糧に耐え抜いてきた人生で、その手がかりを得た時に「僕には無理だ」とか放り投げるようなことは、口には出さないだろうな、とか。

長い年月を経て再開した相棒と「ビアンカのリボン」という絆で改めて結ばれるシーンがなかったり(もちろん、凶悪そうな地獄の殺し屋への "恐れ" から180度回ってダッシュで逃げるなんて、ない)。
野に捨て置かれてからずっと父の剣を守ってきた相棒の思いとか、モンスターというだけで思考停止する村人への静かな怒りとかもね。見たかったな。

勇者じゃないと悟った時のある種の逡巡、父の期待に自分自身が応えられなったちょっとした無念さのようなものもないなぁ、とか。

奥手ではあるけど、恥ずかしがって何も口に出てこないタイプではないし。

映画でのブオーンを服従させるようなスタンスも、違うよね。例え魔王であったって、慈愛をもって接するぞ、"リュカ" なら。

グランバニアに帰還しないのにグランバニア名乗ってたのもなんかなーと思うし。

双子の話も、デモンズタワーで散っていった仲間たちにも思いを馳せたかった。

ドラゴンオーブをすり替えた時なんて最たるもので。
彼にとっては、ポワンがくれたチャンスと、そのチャンスを無にしてでも父と自分の過去を変えられる "if" を想わずにはいられない、ものすごい決断を迫られる状況だったはずで。
尊敬してやまない、非業の死を遂げた父をもしかしたら救えるかもしれない。
わかってる、それは今の自分にとっては決してよい選択にはならない。
葛藤する中、"リュカ" は一縷の望みをかけて父親にできる限りの話を試みちゃうんだよね。

「ラインハットに行ってはいけません」

て。
あぁ、なんて人間らしい。
当時、小説を読みながらすごいドキドキしたのをよく覚えている。もしかして、これで親子三代生きたまま冒険開始!?みたいな。
でも、結局はかなわない。「妻に似た目をした人」の言として忠告は気に留めておく、と、多少気に留めてもらった程度で。
過去は変えられないってことを悟って、実感して、せめて「お父さんを大切にするんだよ」と残して、それでも自分のなすべきことをなしてきて、ポワンの前に戻ってきて、話中にただ一度だけ涙を流す。そりゃ泣くよね。
決して、子どもの頃の自分がどうだったかだけを振り返るシーンではないはずなんだよね。

勇者としての息子、小説では "ティミー" も、ゲマやイブールを倒してなお、魔界に乗り込んで巨悪を討つところも見たかった。
「だって、そいつら封印してもまた出てきちゃうんでしょ?そんなのダメだよ、マーサおばあちゃんも安心できないし。自分は勇者だから、そんなのやっつけてやる!」(って感じだったっけ)って。天空の剣を放り込んで封じたらいいや(*3)、じゃなくて、勇者としてどう振る舞わないといけないかを自覚したからこそ天空の剣も応えてくれたんだよね、とかね。

・・と、やっぱり、映画は評さないと言っておいて、どれだけ "リュカ" という名前から期待値を上げてしまってたのかと、改めて思った次第。(もちろん、尺の問題だし、映画で同じストーリーができるなんて思ってないんだけど。)


それでも尚、スクリーンでドラクエの世界が描かれる感動

各キャラクターの動き、躍動感ある戦闘シーン、もちろん音楽も、本当に本当に演者とスタッフの思いが詰まってるようで、素直に魅せられました。
私は子ども(奇しくも、映画版のリュカ息子と同い年)と一緒に見ましたが、やっぱりさ、剣技や魔法(しかも、メラゾーマ!とか、ベギラゴン!とか、ギガデイン!とかさ)の綺麗な描写はファンタジー好きの心を打つんですよね。単純に、魅せられたんじゃないかな、と思います。
// 「最後のはなんだったの?」って聞かれて困ったが...


やるせなさの理由と期待、本当に欲しかったもの

本当にほしかったもの、今後への期待、あるいは世に投げかけておきたいこと、など。

・映画の枠組みの中でメタなストーリーを展開するのは、否定されることじゃない(はず)。
・でも、これだけキャラクター像が作られてきた "リュカ" じゃなくても、よかったんじゃない。
"リュカ" と呼ぶなら、久美沙織さんの "リュカ" を描いてほしかったよ。
・もし、DQ5を元にした物語に初めて触れる人がいて、この映画のリュカが記憶されるとしたら、せめて、"リュケイロム・エル・ケル・グランバニア" という別のキャラクターが根源なんだよ、ということを知ってほしい

・・・というのが、"リュカ" に触れてきた人たちの思い(*4)なんじゃないかなと想像しています。

なので↓

久美沙織さんの "2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会さまを相手方とする提訴についてのお知らせテキスト.txt"
https://t.co/nKRTB2bHzc

現行法の中では積極的に保護されてないからこそ、信義にもとることをしちゃだめじゃない、という話だと思うのですよね(*5)。

ニュースで取りざたされているような「クレジットを入れてくれ」という単純な要求じゃなくて、小説で描かれた "リュカ" がいるってことを知る機会を作ってほしい、という要求だと思うのですよね。訴えなので、現行法で取りうる手段を以て、説明のロジックは必要だったのだろうけども。

言葉で表現された言語的なキャラクターはイメージ・アイデアだから著作権が認められないんです、だから著作権侵害にならないんです、じゃなくて。

固有名詞として十分な特色・識別性(*6)があって、ストーリーを構成しているキャラクター(="リュケイロム・エル・ケル・グランバニア")は、むやみに改変されていいものじゃないよ、という話なのかなと。
これを何権と呼ぶべきか、わからないですが、人様の心を揺さぶる何かが保護されなくていいんだっけ?(*7)と。

勝手な想像をたくさん書きましたが、、
結論を見守りつつ、みんなの思いが届きますように。


その他、所感

・堀江雄二氏が「ドラクエは王道だから、ユーザが嫌がることをやってはいかん。難しすぎる謎、いやらしすぎるダンジョンはドラクエでは出してはいけない。こっちに宝箱があるんじゃないかな...と思って回り道したら報われる、そんなバランスにしないといけない」という趣旨を某ドキュメンタリーで述べていた記憶があるので、最後にどんでん返しがあるよ、という "大筋" には合意したと思うのだけど、細かな演出まで合意したとは思えなかったのが本音。
・「終わってみればそういう話だってわかる」よ、大人だから。理解はする。けど、「説明してるから納得してもらえる」と思ってたなら、それは作り手の傲慢じゃないの、という気持ちは拭えなかったり。
・議論を呼びたいがために、極論や強い表現に頼るのは信義にもとる、と思うし、こういうこと(https://togetter.com/li/1385775)言えちゃう神経は正直、わからないですね。
・なお、私はドラクエ大好きです。理由は特にない。


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*1 : 映画.com ドラゴンクエスト ユア・ストーリーのレビュー・感想・評価
https://eiga.com/movie/90776/review/

みんな期待値がデカすぎたり、誰かのストーリーじゃなくて天空の花嫁としてのDQ5に期待してたんだろうな、と。
ただ、小説版ドラゴンクエスト5を読んで影響を受けてる人のそれはちょっと違ってて、別にDQ題材にしてメタな映画作ったことに対しての文句だけじゃないと思うんですよね。

*2 : "先入観なく映画を楽しみたいなら" と書けなかった自分は割と正直者。

*3 : 今回、はエスタークか!地獄の帝王か!と思った自分は甘かった。

*4 : 生煮えでパクった料理を「あたらしい!最高傑作!まじうま!」とか言って食べてる人がいたら、いや違うっしょ、そりゃ食べ物なんだから美味い部分はあるだろうけど、元祖のほうはもっと全然、段違いで、深いんだよ。

だからその、同じ名前の別物を、ソレと思わないでくれよ。

...って言いたくなる心情が比較的近い。気がする。

*5, *6 : この投稿における記載は当該案件に関連する法律および訴状について関連する法令等の解釈を行ったものではなく、またその意図もありません。...ただ、要するに「どれだけそのキャラクターをイメージしやすいか(識別性があるか)」がポイントで、当然に文字だけなら不利だけど、文字だけならダメっていう基準じゃなくない?という思いはある。し、日本国外ではそういう趣な国もある。と、思う。

*7 : 煽り運転で事故ったけどうまいこと裁ける法律はありません、とか。個人情報じゃないので大丈夫です、とか。今の枠組みが正しいなんて限らないよね。

UltimaOnline, Wakoku Yew生まれ。今は無きギルド The Knights of Round [K-R] SubGM。2012.08 かれこれ10年ぶりに戻ってきて、昔を懐かしむ日々。最近はよく、アストルティア(DQ10)にいます。