見出し画像

人生を変えたゲームの最新作「ゴッド・オブ・ウォー:ラグナロク」クリア感想

普段の記事とは少し趣が異なりますが、是非書かせてください…!PS4/PS5向けに発売された超大作「ゴッド・オブ・ウォー:ラグナロク」をクリアした感想となります。

「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズは、私の人生を文字通り変えた運命のゲームです。ギリシャ神話の神々をその剛腕で容赦無くねじ伏せていく…その壮大な世界観と演出に当時中学生だった私は心を奪われ、ギリシャ好きの一歩を踏み出すことになりました。就活ではギリシャ好きエピソードの評判が良かったおかげで、第一志望の会社に入社することができ、その転勤先の土地で今の嫁と出会います。私の人生は、ゴッド・オブ・ウォー無しでは成り立たなかった…そう言っても過言ではありません。その最新作となれば、語らないわけにはいきません。

ゴッド・オブ・ウォーがギリシャ好きのきっかけとなったように、旧シリーズ(PS2~PS3)はギリシャ神話がベースとなります。しかし、新シリーズの2作品は舞台を北欧神話へと移し、主人公クレイトスとその息子アトレウスの人間ドラマに焦点を当てています。いつかの開発者インタビューで「旧シリーズをハルクの物語だとすれば、新シリーズはブルース・バナーの物語だ」と語られていましたが、まさにその通り。旧シリーズで評判の良かった壮大な物語やド派手なアクションはそのままに、ドラマ顔負けの細かな心理描写がなされ、全く新しい可能性が切り開かれておりました。
※ネタバレ注意!

破壊者から指導者へ

「偉大な物語だ」というのが、ストーリーをクリアした際の率直な感想でした。クレイトスが「破壊神」から「民を統べ導く神」へ成長する様を壮大に描き切っていました。欲を言えば、前作にサプライズ登場したアテナの亡霊やゼウスの幻影のように、旧シリーズでの過去がもっと絡んできてくれればギリシャ好きとしてもっと満足できたのですが…しかし、北欧における物語としては大満足の結末と言えるでしょう。

今作の副題の「ラグナロク」は、古アイスランド語で「神々の運命」という意味を有しています。つまり、神々の終焉へと行き着く運命のことです。北欧神話の原典「古エッダ」では、オーディン、トール、ヘイムダルと言った主要な神々が、いずれ訪れる大戦争で討ち死にする様が予言されています。今作でも、この終末戦争たるラグナロクを軸に、物語は進んでいきます。

クレイトスの息子アトレウス(またの名をロキ)は、早く自立し自らの力を証明したいが為に、ラグナロクを起こそうとします。しかし、クレイトスはラグナロクを起こしたくありません。神々との全面戦争を起こせば世界はどうなるのか、彼は身をもって知っているからです。戦争の負の側面も熟知しており、それを息子に経験させたくないのです。しかし、すれ違う父と子、迫り来る北欧の神々、オーディンの大胆不敵な策略…等々が交差し、結局ラグナロク勃発へと収斂していきます。

己の理性(=争いを避けたい)と本能(=神殺し)に葛藤する老境のクレイトスの描写は、実に見事でした。オリュンポスの神々との全面戦争を描いたPS3「ゴッド・オブ・ウォー3」のキャッチコピーは「強すぎる、という悲劇を闘え」でしたが、これが今作にも活きてくるとは。怒りに我を忘れて芸術的とも言える暴力で神々を蹂躙するかつての彼を懐かしみつつも、理性的なクレイトスも悪くはありません。だからこそ、アンガーマネジメントに失敗し、うっかりヘイムダル神を殺してしまうシーンは印象的でした。終盤では、北欧最強の雷神トールと死闘を繰り広げて勝利を収めつつも、殺さずに説得してしまいます。クレイトスはトールに殺されると予言されていたにも関わらず、です。この変貌ぶりは、「ゴッド・オブ・ウォー3」を遊んでいた当時の自分に言っても信じてもらえないでしょう。笑

苛烈な「怒り」の神だったクレイトスは、理性的な指導者へと成長していきます。さながら、古代ギリシャの叙事詩「イリアス」のアキレウスのように。アキレウスは怒りの英雄でしたが、怒りの行動とその結果を通して、公平で懐のある指導者たる風格を醸し出すようになり(23歌)、最後には怒りを鎮めます。クレイトスも、息子との冒険を通して、自らに付き纏っていた怒りと殺戮の力から、遂に解放されたと言えるでしょう。

特に素晴らしかった点

これは上述の通り、なんと言ってもストーリーが一級品でした。上述の通り、クレイトスの成長物語としても優れていますし、息子アトレウスの成長もきちんと描かれています。ストーリーに登場するキャラクターが個性的で、尚且つそれぞれに深い過去が用意されているのも、半ばオープンワールド化されている今作ならではの長所と言えます。

個人的に一番驚いた場面は、序盤に救出し、以後ずっと仲間としてお供していたテュール神が、実はオーディンの変身した姿であり、こちらの策が全て筒抜けだったことが終盤で判明したことですね。テュールが鍛冶屋ブロックの詰問に耐え切れず、突然ブロックを刺し殺し、オーディンの姿を現した時は脳の処理が一瞬「???」となった程です。オーディンの策謀を心底恐ろしいと感じた瞬間でした。

また、カメラ視点がキャラクターの背後近くに位置したTPS視点だからこその迫力・臨場感も特筆に値します。これは俯瞰固定視点の旧シリーズからの正当進化と言えます。特に序盤のトール戦は、「最初からクライマックス」という本シリーズの伝統に則り、まさに神々の頂上決戦という様相を呈するほどの大迫力でした。TPS視点であるが故に、トールに吹き飛ばされた時の絶望感が直感的にプレイヤーに伝わります。家から上空、そして見知らぬ土地へと吹き飛ばされ吹き飛ばしの肉弾戦は、これ以上無いほどに素晴らしかったですね。

ゲームシステムやグラフィックの良さは、言うまでもありません。両方とも前作の時点で確立されており、今作も正当継承と言えるものでした。

惜しかった点

しかし、完璧な作品というわけではありません。私の中では、本作は旧シリーズの「ゴッド・オブ・ウォー3」を(思い出補正もあると思いますが)超えることはできませんでした。というのも、純粋な高揚感・壮大さ・演出の面では、ラグナロクは「ゴッド・オブ・ウォー3」でのオリュンポス戦争に及ばなかったからです。

確かに、九界の軍勢が集結したり、ヨルムンガンドやフェンリル、スルトといった巨大な怪物たちが味方として現れたのは熱いものがありましたが、あくまでも背景の一部としての機能であり、直接的に関係することはありませんでした。「ゴッド・オブ・ウォー3」で巨人ガイアの体表に乗りながら、海に引きずり込もうとするポセイドンと戦ったあの神の如きシチュエーションには到底敵いません。これは、ラグナロクの被害を最小限に留めようとするクレイトスの動機上、仕方のないことかもしれません。しかし、ヨルムンガンドやスルトの巨躯を、壮絶なアクションのギミックに採用してほしかったのが本音です…。

上記に加え、「ゴッド・オブ・ウォー3」では高層ビルを超える大きさのタイタン族の大軍がオリュンポスに押し寄せたのに対し、ラグナロクでは上述の怪物を除けば、味方も敵も人型サイズの軍勢が主でした。この辺りも、どうしてもスケールダウン感が出てしまう要因でしょうね。

続編は出るのか?

指導者としての一歩を踏み出したクレイトスですが、この先の物語を描く続編は、おそらく出ないでしょうね。アトレウスのその後を追ったDLCが出る可能性はありますが、クレイトスの物語はこれで完結したと感じています。北欧の地にはもう主要な神々は残っていませんし、他の神話へとまた舞台を移すのも芸がないですしね…。

かと言って、アトレウスを主人公にした「ゴッド・オブ・ウォー」は作られない(というか作ってほしくない)でしょう。これはアトレウスのキャラクター性が不足しているというわけではなく、クレイトスの居ない「ゴッド・オブ・ウォー」はもはや「ゴッド・オブ・ウォー」ではないので…。

次にクレイトスが動き出すとしたら、旧シリーズのリブートではないかと思います。最新PSのマシンパワーでゼウスとの決戦をもう一度描いてほしいという願望有りきですが。笑 「ゴッド・オブ・ウォー」はSONY保有のコンテンツの中でも非常に評価が高く、最も売れ筋のタイトルである為、可能性は十分あると思います。

おわりに

本シリーズが北欧神話を舞台に復活すると聞いた時は、正直懐疑的でした。「ゴッド・オブ・ウォー3」で美しいエンディングを飾ったのだから、続編など蛇足だ、無理して北欧の地でリスタートさせる必要はないだろうと、そう思っていました。しかし、北欧神話のデビュー作である前作を遊び、「ゴッド・オブ・ウォー」の新たな可能性の虜となってしまいました。旧シリーズとは全く趣を異としていますが、そのテーマ(怒りや運命)を一部継承することで、その一体性を保つことに成功しています。

旧シリーズでは、運命を変える為に運命の女神を殺しました。本作では、自分自身を変えることで、運命をも変えていきます。北欧の運命の女神は、その人の性格・行動特性からどのような選択をしていくかを予想し、その将来予測を運命と呼称していることが中盤で明かされます。(ギリシャの運命の女神のように、時空そのものを操る強大な存在は北欧の地にいないとフレイヤ&ミーミルによって語られます。旧シリーズがどれだけぶっ飛んでたかが分かりますね笑)運命を変えることは同じでも、本作では手段が異なるのです。そしてそれが、クレイトスの成長へと繋がっていきます。

「惜しかった点」で上げたように、旧シリーズと比べるとどうしてもスケールや演出の面で見劣りしてしまいますが、クレイトスとアトレウスの細かな心理描写・成長物語こそが本作の真骨頂です。総合的に見て本作はPS4/PS5の歴史に燦然と輝く傑作であり、芸術とも呼べる作品ではないでしょうか。

この記事が参加している募集

全力で推したいゲーム

拙文をお読みいただきありがとうございます。もし宜しければ、サポート頂けると嬉しいです!Περιμένω για την στήριξή σας!