愉快ジン#25

頭の上にすっと何かが落ちてきた。
雪だ。
この日は初雪だった。
「うあ、雪だ」と喜ぶかと思いきや、そんなウキウキしていたのは遠い昔。今では真っ先に心がぐったりとする。雪が嫌なのだ。嫌な理由は沢山あるが、とにかくウィンタースポーツをするわけでも外で雪遊びをするわけでもない自分にとっては、交通の邪魔になるし、靴は濡れるし、傘を差しててもノーガードで身体に付着するしで何も良いことがない。生まれ育った場所では当然の光景なのに大人になるにつれてどんどん敬遠度合いが増してきている気がする。これから雪が好きになる日が来るのだろうか。少年の心を思い出したいものだ。
しかし、そんな僕とは対照的に「彼」はしんしんと降る雪空を見上げると真っ先にスマホを取り出し彼女に連絡しはじめた。その表情は何やら嬉しそうだ。

ただいま僕の界隈では絶賛「韓国ドラマブーム」である。今やコミュニケーションに欠かせない話題となっている。流行りのドラマの展開についてはもちろんのこと、登場人物についてだったり、台詞やファッションについても満遍なく話題となる。少し前までは「愛の不時着」や「梨泰院クラス」で持ちきりだったが、半年も経たずに「イカゲーム」や「わかっていても」など次々に話題の中心が変わってきている。そして1ヶ月もあればブームが大きく変わる。もう次のドラマについての話題がふつふつと上がってきているほどだ。そんな韓ドラブームの大きな唸りをひしひしと感じる毎日である。もはや若者にとってNHKよりもNetflixの登録のほうがマストではないだろうか。

そうそう。わかる人にはもうお気づきだろうが、先程登場した「彼」も絶賛韓ドラの沼にハマっている。だって「初雪を見たら大切な人を連絡する」これは韓国にあるジンクスだから。

彼は一緒に働いているフリーターだ。
日中は仕事し、夜は音楽活動を行っている。
ジャンルは違うが、僕と共通点があるところから意思疎通にはあまり時間がかからなかった気がする。彼の良いところはとにかく吸収力が強いところだ。よく素直な人は「スポンジみたいな人」と表現されるが、まさしくそれなのだ。
というのも、ある日僕が勧めた作品が彼に多大な影響を与えてしまったからだ。それまで韓ドラを敬遠していたというが、その日以来、口を開けば「いま〇〇って作品の第△話」と進捗状況を教えてくれるようになってきた。それにしてもドラマを見るスピードが凄まじく早い。それはそう、ハマり具合が異常だから休憩時間はもちろんのことトイレ休憩で個室に篭っている時でさえドラマを見ているという。僕が衝撃を受けたのは勧めたドラマが2日もあれば全話見終わってしまうことだ。仕事と音楽の時間以外は寝る時間も削ってまでドラマ鑑賞しているという。その夢中っぷりにただただ感心してしまう。
そんな彼と僕の距離がぐっと縮まったのは「梨泰院クラス」だったと思う。お互い夢に向かって努力するための後押しになってくれた作品だったからだ。いまでも度々「パク・セロイ」は話題に出てくる。こんな青春×復讐ドラマは傑作である。と、アツくなっているがそれよりも僕たちのトレンドは別にある。それはパク・セロイの同級生役で登場していた「オ・スア」がとにかく可愛いということである。やっぱり可愛い女性の話題は世の中の男性諸君にとって英語と同等の共通言語に違いない。

いつまで経っても可愛い女性について話をしてしまう自分たちはいつまで経っても今を青春しているなとしみじみ思う。
ただ僕が彼と違うところは初雪に連絡をする相手がいないところだ。

ああ、今年も雪が嫌いだ。

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