愉快ジン#30

起きる。
なんだかゆりかごに揺れて眠っていたかのような浮遊感がある。
この頃カラダがすこぶる軽い。最近気付いたのだが、夜ぐったりしている日に限って何かしら考えたり悩んだりしている日だ。脳が最もエネルギーを使うということを身を持って感じる。だから最近は意図的に考えることを減らした。そう、流行りのサステナブルな生き方を脳にも応用したのだ。いわゆる「SDGs脳」。語呂は悪いが効果抜群で、必然的に疲れにくいカラダになってきた。というか、元々考えながら生きてるタイプだ。嫌でも脳を働かせてしまうのに、それ以上詰め込むとパンクするのは当然である。

この身軽な気持ちのまま外に出る。向かった先は地元の小劇場。この日はある劇団の公演があった。会場に到着すると、チケットを購入し真ん中後方の席に座る。ざっと席数を数えるとおよそ20席くらいだろうか。だから決して客数は多くはないが、開演前の観客が作り出す、あの独特な、ドンとした、質量のある、ソワソワした空気感があった。これは映画館とはまた違う、なんだか緊張感がある。ああ、なぜかお腹鳴りそうだ。やめてくれ。
と、ここで暗転。漆黒の闇の中で盛大にお腹が鳴る。ナイスタイミングだ。
そして明転。白い世界。セットの椅子も木もなにもかも白い。木に掛けてあるショルダーバッグとベレー帽が黄色。なんだか意味ありげな雰囲気。そして正面には白い服を身に纏った1人の男性。黒髪で端正な顔立ち。服装は既成のものっぽいが、装飾が手作りだろうか。神妙な面持ちから始まる。静かな動き出し。だが軽快に台詞を言いはじめる。続いて両袖から2人の女性。優しい顔立ちと鋭い顔立ち。白いワンピース姿が真っ白な舞台と相まって天国を彷彿とさせる。やっぱり見た目通り。口うるさい女性とアニメ声のおとない女性の対比。そしてこちらもテンポの良い掛け合いを見せる。それからも男性2人がやってきて日常さながらの喧嘩を繰り広げる。ぱっと見でリーダー格とそのライバルみたいなポジション。正直序盤は何を見せられてるのかわからなかったが、生き生きとした表情からこの場がうまくいってることがなんとなく伝わってきた。そして物語は淡々と中盤から終盤へ。ここで突然ミステリー要素が垣間見れる。最初に植え付けられた登場人物のイメージはどんどん崩壊していくのだ。いつの間にかお馬鹿キャラの主人公の男の子が探偵のように振る舞う。姉御キャラな女の子が悪女になる。ステージから伝わる緊迫感と熱量が客席のむず痒さを取っ払う。気が付いた頃には猫背だった背筋は真っ直ぐ伸びていた。
頭を使わなくても話がすっと入ってくる。そしてバラバラだった関係は最後はまるでファミリーのようにまとまったところでめでたしめでたし。500円で観れるのがラッキーと思っていたのが、想像以上の完成度に500円しか払わないことが申し訳なくなった。そして湧き上がる、なんだろう、この悔しい気持ち。いや、なぜ悔しく思ったのかはわかる。
後説で出てきたキャストの皆さん。ここが1番緊張していたのか言葉が詰まる。やっと大学生らしさが見られてほっこりした。それにしても良い汗かいてるなあ。
こうして終演。
客席から拍手が起こる。でも音が小さめ。だから観客を誘導する気持ちも含めて大きな音で拍手をした。いや、そんなことを考えなくても大きな音で拍手を送りたくなった。
帰宅後色んなことを知りたくなって検索。すると、キャストが大学1〜4年生まで出ていたとのこと。こんなチームワークを作り出せたらもっと楽しいお芝居ができるのかな。さっきの悔しさはこれである。今後の課題を知る良いきっかけになった1日だった。

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