愉快ジン#33

最近またラジオを聴きはじめた。ラジオってすごいよなあ、なんで言葉だけであんなに面白いんだろう、といつも関心させられる。僕がはじめてラジオを聴きはじめたのは大学生の時。毎週金曜日の25時オンエア、TBSラジオ「バナナマンのバナナムーンGOLD」。ひとりでゲラゲラ笑ってた。深夜に一人で。それと同時にラジオの可能性を感じていた。それまでは災害用とか野球中継用とかそんなイメージしかなかった。だけど会話が、言葉だけで面白い思わせることがとにかく衝撃的だった。
なんで再びラジオを聴きはじめたかというと、最近読んだ脳科学の本いわく、ラジオを聴くことは脳に良いからと書いてあったからである。(もちろん面白いからっていうのもある)
ラジオは聴覚、理解力、記憶、感情を司る脳の部分を刺激するらしい。なんか難しいな。とにかくラジオは言葉を頭の中でイメージするという体験が連続する。言葉を脳内イメージで補完することで楽しいという感情につながるとのこと。まあ想像力が養われるってことなのかな。あとは言葉の伝え方を学ぶにもいい機会になるなと思っている。

そんな時に耳が聞こえない人はラジオを楽しむことなんてできないだろうなと思い、「ある人」が頭に浮かんだ。それは僕の働くところに度々やってくる女性である。御年75歳。髪色はパープルになったりグリーンになったりと、あれ、以前もこんなこと書いたよな?という気分にさせられる。
この方は先天性聾啞者である。耳が聞こえないから言葉が伝わらないということである。だから僕とのやり取りは基本的にボディーランゲージである。僕も当然手話なんてできないから、出会って間もない頃は意思疎通が取れなくて結構ガミガミされていた。しかし今では共通理解できる独自のやり方で「会話」している。『例えば「似合っている」と思った時は頭の上に両腕で◯を作って教えてあげたり、似合ってないと思った時は腕で×を、断りたい時はあざとく泣いてるポーズ、感謝する時は力士のように手刀を切るポーズ、メンズは親指を上げて、レディースは小指を上げて、会計はピースサインを使ってなどなど』。その積み重ねの結果、この女性はすこぶる優しくなった。正確には心を開いてくれるようになった。今では僕を見つけるなり過度なスキンシップで迫ってくる。正直助けてほしい時もあるのだが、他のスタッフにもこの方の接客に関しては全フリ(見て見ぬフリ)されてるので自分が応えるしかないという状況だ。あの人は言葉をどのようにイメージしているのかなあ。深夜にぴったりの疑問であった。

そして次の日。
久しぶりにこの女性が来店された。まさかだった。いつものように僕の顔を見つけると全力で手を振ってくる。僕も同じテンションでそれに応える。すると顔がにこやかになる。その顔のまま店の中へ消えていった。しばらくするといくつか洋服を持ってきて、いつものように沢山の質問を投げつけてきた。「この服のサイズはどうだ?」「私に似合うか?」「このプリントされてる人誰だ?」などなど。言葉にならない言葉で訴えかけてくる。以前の僕なら意思疎通が取れなくて困惑していただろう。しかし、そこからボディーランゲージを身に付けた。そして今となって何が言いたいのか口の動きや表情だけで読み取れるようになってきた。己の成長を感じざるを得ない。こうして特に慌てることもなく、最後はハイタッチして店を去っていった。女性の満足気な表情を見られて僕も嬉しい気分である。

そして今日、映画館で観た「CODA」という作品が聾啞者をテーマにしたものだった。ここもまさかだった。はっとさせられた。映画を見終わってわかったことがある。言葉は通じないけど想いは通じると。ラジオは楽しめないかもだけど、人と直接会って関わり合うことで楽しいをイメージしているのだろう。しばらくは映画の余韻に浸っておこう。
あ、そういえば昨日はオレオレな店長が接客を試みていたが全く相手にされていなかった。やっぱり言葉が話せない分あらゆる感覚が研ぎ澄まされているのだろうと思った。その洞察力は正しい。申し訳ないがクスクス笑った。なんならゲラゲラしそうになったが鋭い目が飛んできそうだったからやめといた。

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