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今、ひとりの書店主として、伝えたいこと 期待していた経産省のプロジェクトのヒアリングの中身を知った後、日書連からのアンケートに「取り組んで欲しい課題について」書いた

日書連からのアンケ-ト
【設問】
経済産業省に「文化創造産業課(クリエイティブ産業課)が設置されね「書店の振興プロジェクトチ-ム」が活動を開始します。今後、取り組んでほしい書店の課題を記入して下さい。

                       

【取り組んで欲しい課題】

1.本は、単なる消費物ではない。特に現在のように、デマ扇動が頻繁に渦巻くネット上において何が真実なのか、ファクトチェックが、しづらい時代には、当事者や、知見ある専門家の書かれる本には、伝えなければならない真実がある。
テレビなどの電波媒体では、スポンサーの存在や放送法による脅しなど、限界があるが、唯一、書籍にはまだ言論の自由が担保されていると言えよう。

2018年、2019年に、フランスのシェイクスピア&カンパニー・アメリカのニューヨークのグリーン・ブックスや、ドイツのハンブルグなど、本のイベントを頻繁に行っている本屋で、話を聴いた。

フランスのシェイクスピア&カンパニーのマネージャーからは、「本」だけではなく「本」を扱い、それを伝える活動や、イベントをしている本屋も文化なんだと国が認めていると教えてくれた。

韓国でも「本」のイベントをしている書店に助成金が出されているという。ソウル図書館が敷地を開放し、書店がイベントを開けるようにしている。ソウル図書館の呉芝恩館長は「地域書店が売るのは、単なる本ではなく文化。図書館と書店が協力し、文化的な空間を市民に楽しんでもらいたい」と語る。

日本でも「本」を通じて国民にとって有益なことを伝える本屋のイベントへの助成について考えて欲しい。


2.小さな書店は、出版業界の理不尽な流通の仕組みに経営が脅かされている。

「ランク配本」

これは、販売した書籍の実績ではなく、書店の規模で決める配本だ。
戦後のように、本が唯一の娯楽で、出版業界が右肩上がりの時代であれば、配本されたものを、ただそのまま売れば経営は成り立っていただろう。

今は、そんな時代ではない。待っていてもお客様は来ない。「本」の内容を読み込み、伝えなければ本は売れない。そんな中、睡眠時間を削って読み込み、ご紹介することで、日本一販売した本がたくさんある。しかしながら、その著者の本を、いくら沢山販売しても、ランク配本で、配本は「0」だ。


取次が、ブックライナーという中2日で、入荷するシステムを構築したが、これは、取次が、7%も手数料を取る。利益が、2割7分ある大型書店と違い、中小書店は、そもそも利益が、2割2分から2割3分しかないので、そこから7%取られると1割5分になってしまう。これでは、もうやれない。



最近は、事前に、版元や、出版社、取次に、お願いして配本していただける本もあるが、すべて網羅することができず、漏れてしまって入荷しない本もあるのが現状だ。


取次に、この理不尽な流通の仕組みの改善を訴えているが、5年待ってくださいと言われてからすでに6年が過ぎようとしている。システムを変えるためには、莫大なお金がかかるという、その間に、多くの中小書店が廃業に追い込まれた。

優先的地位の濫用ではないのか。と思うが、雑誌などは、取次を使わないとやっていけない現状がある。

集英社・講談社・小学館・丸紅で、PubteX(パブテックス)という、取次を作る話が出ている、これは、著者別の実績配本が、可能だと聞いてはいるが、まだ実施には至っていない。

この間に、さらに経営は厳しくなってきている。一刻も早くこの理不尽な流通の仕組みを改善していただきたい。

まずは、私たち廃業の危機に追い込まれている書店に、ヒアリングの機会を与えていただいきたいと切に願っている。

3. 無人書店との違いについて
(無人書店も将来的には、必要となるかもしれない、すでに、自治体に本屋が一軒もないところには、有効な手段かも知れない)

隆祥館書店は、大阪のメインストリート長堀通りに面しているため、バイクでのひったくりにあった女性が、逃げ込んできたことがある。警察に連絡し、助けた。無人書店では、決してできないことである。

また、以前、エロ本を万引きした中学生がいた。小さな書店のため、常連のお客様が、入れ代わり、立ち代わり、彼に万引きがいかに良くないことなのか、話してくれた。

彼は、自分の置かれた環境をぽつりぽつりと話し始めた。母子家庭だった。お母さんは夜も働き孤独な子だった。

父は、警察には連絡しない主義で、学校に電話するといった。すると、彼が「学校の先生は、殴ったり、蹴ったりするから、やめてくれ」と訴えた。今度は母が、「犬や猫やあるまいし(犬や猫も暴力はダメ)、人間の子に、そんなことするねんやったら私が、先生に言うたる」となり結局、学校に連絡した後、母が先生に暴力を振るわぬように約束させた。

一週間後ぐらいだったか、学校の先生から店に連絡があった。彼は、不登校だったそうだ。それが、あの万引き事件から学校に登校するようになったというのだ。嬉しかった、皆で喜んだ。これも、無人書店では、決してできないことなんだ。

私たち地域の書店は、本だけを売っているのではない。毎年、職場体験で、中学生を受け入れている。聴覚支援学校の中学生も職場体験で、受け入れている。地域の方々とのコミュニケーションの場でもあるのだ。小さな頃から来てくれているお客さんが、親になり、また世代を超えて小さなお子さんを連れて来て下さることが嬉しい。


アマゾンのように莫大な営業収入を誇る大企業がある一方で、隆祥館書店は顧客、一人一人との「本」を通じて直接繋がり、金銭換算できない価値を追求している。


目に映る社会に起こっていることを自分ごととして疑問をもち、人々の命に関わる問題や、憤りを感じたことについては、それについての「本」が出るのを待ち、「本」が出るや否や、伝えなければならないと思ってイベントも企画している。

「本」と「本屋」だけが果たせる役割があるという思いを信じて行動している。

本屋は水道やガス、電気と同じようになくてはならない街のインフラだと考えている。

4.本に非課税、もしくは軽減税率の導入を
欧州などでは、再販制度が守られている。また、本は、消費物ではないという考えから非課税、もしくは軽減税率にしている。欧州を参考に書籍や雑誌などの出版物に軽減税率を導入したり非課税にしたりすることを検討していただきたい。

もう一度書かせていただく、、どうか私たち廃業の危機に迫られている書店の生の声を聴くヒアリングの機会の実施をお願いしたい。

勇気を振り絞って書きました。経産省に、この声が届きますように(祈り)

隆祥館書店 二村知子
https://ryushokanbook.com


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