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「Winny」 あるエンジニアの闘い


叙分


先日「Winny」という映画を観ました。

何かで堀江貴文氏がみんな見るべきと仰っていたので、mustですか!と早々に映画館へ足を運びました。

タイトル名は、プログラマーである金子勇氏が2002年に開発したソフトの名前です。
Winnyという画期的なソフトウェアを開発した金子勇氏が逮捕されるという話です。

いや、なんで?と思うでしょう。
私もなんで?と思って書いてます。

Winnyの誕生


Winnyとは、Peer to Peer(P2P)技術を応用したファイル共有ソフト、電子掲示板構築ソフトです。

当時このP2P技術は画期的なものでした。

P2Pとは、従来ホストサーバを経由しなければならなかった通信技術とは異なり、不特定多数の端末(スマホなど)がサーバを介さずに、端末同士で直接データファイルを共有することができる通信技術です。


情報元の非開示、通信の秘匿性や匿名性などの優位性だけに目を向けられていますが、各端末での保存によるデータ分散管理やアクセス分散によるゼロダウンタイムの実現など、Winnyは当時のソフトウェアの未来そのものでした。


しかしながら、この匿名性にフォーカスした利用者が映画・音楽の違法アップロードや児ポデータのやり取りにWinnyを利用し始めます。


そして京都府県警は、違法アップロードをした利用者2名と、このWinny開発者である金子勇氏の逮捕に踏み切ったのです。

この事件はネット界隈で非常に大きな話題を呼びました。

“包丁を使った殺人事件が発生したとして、包丁を作った人を罪に問えるのか?”


元々金子氏は、著作権法自体が現代にそぐわないことを予見しており、さらにはクリエイターに対してもしっかりと利益が得られる新たなビジネスモデル構築まで視野に入れWinnyを開発したそうです。

プロトタイプが2チャンネルに投下されると瞬く間に話題を呼び、金子氏(2チャンネル内では47氏)は神として崇められていました。


そして、2004年に京都府警に著作権法違反幇助の疑いで逮捕されてから、7年間裁判を続け2011年に最高裁で無罪を勝ち取る。
その間、Winny開発の一切を禁じられていました。

技術者にとっての7年、どれほどのものか。


金子氏が無罪を勝ち取ったその日、「Skype」「LINE」「youtube」など、様々なP2Pを利用した技術が世に生まれていました。

仮想通貨「ビットコイン」もP2Pの仕組みに取引履歴を残す機能を付与しただけです。(ビットコインのシステムを開発した謎の人物サトシ・ナカモトは金子勇なのではないか?なんて噂もあるそうです。)


なぜ特定できたか?



映画を観て疑問に思ったことがある。

最強のP2Pツールと呼ばれ、匿名性が非常に高かったWinnyの利用者をどのようにして特定したのか?


裁判で検察側はこのように話している。

「Winnyは、ファイルの送信者を特定することが困難であるというきわめて匿名性の高いプログラムであった。府警はウィニー本体に対して暗号解読も試みたが、歯が立たなかった。このため別の方法を探したのです。」


別の方法とは。

まず、BBS(Winnyに組み込まれた電子掲示板機能)から違反者のIPアドレスを特定。

府警側パソコンのファイアーウオールの設定を変更し、Winnyの使用するポートには特定したIPアドレスからの通信だけが通り、他のWinnyユーザーからのデータはブロックするよう設定する。

これによって違反者のパソコンと府警のパソコンはそれぞれ1対1で繋がる。
そして府警は、発信されるデータすべてをキャッチしたのである。

「1対1でパソコンが接続されていたため、そのパソコンから違法ファイルが送信されたことが証拠として残った。公判維持できる見通しがやっと立った」と捜査関係者はいう。


つまり、当時のBBSでは違反者達が違法アップロードをいつ行うかを告知していました。

警察はここに目を向け、予告時間までに警察所内で起動したWinnyの通信を、指定した違反者IPとの通信しかできないようにし、ダウンロードが行えたこと=特定IPが違法行為をした、という証拠として立件したのです。


なぜ金子勇は闘うことを選んだのか?



地方裁判所での罰金150万円の有罪判決から、金子氏はなぜ戦うことを選んだのか?

見方を変えれば、150万円払えばその才能を遺憾なく発揮できたはずだ。
技術者にとって、研究対象に触れられないことより恐ろしいことがあるだろうか?



実際に、Winnyの悪用を阻止するための運営側による違法ファイル消去の機能を既に考えついていたが、拘留された為開発ができず犯罪を食い止めることができなかった。


開発者として一番の制約を受けることよりも優先されたこと。


それは、この後に続く技術者達の未来を守ることだった。
この裁判の結果によって、これから最先端の領域に挑戦しようとする技術者達が委縮してしまうことになる。


「ある時、これは自分のことだけでは済まされず、日本中のソフトウェア開発者にとっても影響の大きな話だということに気づいたんです。ソフトウェアの開発そのものが、罪に問われてしまっては、発明やイノベーションは生まれてこない。そこからは、一所懸命に戦うと心に決めました。」
金子勇


跋文


世界を変えるほどの先進的な技術を作るには、未知の領域へ足を踏み入れ進まなければならない。

そんなとき、
誰にどのように使われるか、どんな弊害が生まれてしまうか、なんて考えてられますか?
性悪説で、歩みを躊躇する必要があるのでしょうか?

金子氏が言うように、この世に”悪”にしか使えない技術は存在しません。


この事件は、出る杭を潰すことしか考えない法制度と国民性が、自らをダメにした典型例と言われています。


このWinnyは金子勇の偉大な功績の一つに過ぎません。
フライトシミュレータのNekoFlightではアニメマクロスのような弾道を描く演算アルゴリズムを作り、Ai格闘ゲームNekoFightでは、重力値までをAiで演算できる仕組みを作りました。


そんな技術者の7年間が奪われ、2011年の勝訴後、東京大学に特任講師として復職してから半年と経たずして心筋梗塞によりお亡くなりになりました。


当時、京都府警やメディア、国民の正義はどこにあったのか。
ここの結論は語られないまま映画はエンディングを迎えた。


Winnyを潰したい警察、利益を守りたい既得権益者。フィクサーは?扇動するマスコミの正義は?罪を犯す利用者達、守られる著作権者は?迎合する世論は?

この悲劇は、一体誰の喜びとなったのか?


「Winny」を潰してしまった日本と、「youtube」を育てたアメリカ。


出過ぎた杭があるならば、打ち込むのでなく、それに倣って享受することに挑戦しなければ。


「多くの発明がそうであるように、AIは良い目的にも悪意ある目的にも使われる可能性がある」

数日前、ビルゲイツ氏が自身のサイトでこう綴った。
オープンAI と組み、新たな領域へ挑戦するマイクロソフト。
変化は必ず痛みを伴う、それを受け入れた先に未来が拓かれる。


無知ほど罪なものはない。
金子勇氏が技術者生命を賭して切り拓いた環境で、次の先駆者をどう迎えられるか、心構えが必要だ。



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