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「写真で動画を作る」に4年かかった話

こんにちは、こんばんは
フォトグラファーのクロカワリュートです
ふと気づいたら前回のnoteから2ヶ月ほど経ってしまっていました。
気づいたら還暦、なんてことにならないよう気を引き締めてちゃんとnoteを書いていきたい次第です...
noteに書こうと思ってるネタは山程書き溜めているので、がんばります

さてさて、タイトルの通り今回は苦労話です笑
そもそもなにを作るのに4年もかかったのかというと、こちらです

これを作るのにかかった4年の話をつらつらとしながら、「ひとりの写真家が動画の時代にどう挑もうとしているのか」を、もう少し大きく言えば「クリエイターが新作を作るときにどんな事を考え、どんな苦悩やヒラメキがあったのか」をお伝えしていければなーと思っております

ちなみに、めちゃくちゃ長文(6000文字超)ですのでご了承ください...

◆遡ること2018年春

2022年現在より4年も前にはじまりがあります。
すでに「動画の時代」なんて言われ始めていたので、表面上すかした顔してたと思うんですが、内心ドキドキでした。
周りのフォトグラファーは「写真撮れます!動画もいけます!」とカメラに備わった動画機能をフルに活かしたり、動画専門機を導入したりしていましたから。
そんな中、僕は「動画の時代 = 動画を撮る、だけじゃないのでは〜」と斜に構えて考えていました。

いわゆる天の邪鬼であり、差別化マインドですね。
良くも悪くも、他人が多くやっていることはやりたくないのです。
でも動画の時代という本流には乗っかりたい。
時代の本流の中で、人と違うアプローチで差別化を図りマイノリティでいようというのが僕の考えのベースなのです。

ということで、色々を動画についてYouTubeを漁る日々が続き、「写真家だし写真を動かしたら面白いんじゃ」となるわけです。
「写真を動かす」にもいくつかアプローチがあるな、ひとつひとつ試してみよう!
こうして「写真を動かす」プロジェクトがスタートし、プロトタイプつくりが始まりました

◆2018年9月 プロトタイプをまずは3つ

まずは写真に動くアニメーションを足してみよう!と技術的アプローチから調べてみました。
自分の視野に入ったものだと大きく分けて2つ。

A. AfterEffectsでエフェクト作る
B. 手書きのコマアニメを1フレームずつ描く

以前Flashをいじっていたりプログラミングでアニメーション作っていたので、AfterEffectsに関してはちゃんと勉強すれば習得できるなって温度感はあったのですが、自分の好みであるアニメや漫画っぽい表現だとちょっと違うな、と。
アルゴリズム的、数学的アプローチならよさそうですが、写真の作風的にもペタっと2次元的なので、平面的なアプローチには手描きのアニメーションがよさそうでは、と。
ということで、手描きでプロトタイプを3つほど作ってみました

アニメーションだと1秒間に24フレームくらいがメジャーっぽいんですが、1秒のアニメーションに24枚描くのはつらい!あくまでもプロトタイプだし作り切るのが大事だ(言い訳)というわけで、たしかこれらは12フレームで描いてたはずです

ーーーー 新しく何かを作るときのコツ(余談) ーーーー

作り切るのが大事だ、につながる余談です。
何かを作る上で、どんなものでも家庭がありますよね
アニメーションを描くとしたら

  1. 準備
    どのアプリケーションを選ぶか
    どれくらいのフレームレートで描くか
    どんなワークフローにするか
    etc...

  2. アニメーション策定
    どんなアニメーションを描くか
    それは画力的に掛けるのか
    何秒くらいか
    どんな動きの抑揚が気持ちいいか
    etc...

  3. 実作業
    写真を選ぶ
    アニメーションの下書きを書いて動きの確認
    中割り等で動きの調整
    本番を描く
    動画で書き出す
    チェック
    etc...

とまあ、それなりにやることは多い。
そしてそれが自身にとって新しいことなら全行程に試行錯誤が入る
なので、新しいことをやるときは時間がかかるのでクオリティは一旦無視
全行程やりきったあとで
・ワークフローの最適化
・クオリティアップ
をやっていけばいい
各工程、20点くらいのクオリティでとりあえず作り切るのがベスト。
ひとつひとつの工程を順に70点にしようとするといつまでも完成しない。
そして諦めてお蔵入り、なんてのはよくある話なので、まずは作りきって全体像を把握するのが吉です。

ーーーー 余談おわり ーーーー

とりあえず「写真に動く何かを足して動画を作る」はクリア
クオリティはやはり気になったので、もうちょっとブラッシュアップしたいなと思ってたはずで次のプロトタイプに続きます

2019年5月 プロトタイプ ver 2

前回から半年ちょっと時間が経ちました
お仕事が忙しくて、なんて言い訳もありますが、実態としては前回のプロトタイプであまり手応えを感じなかったんですね
もうちょっと言うと自身がワクワクできなかった
クオリティを後回しにしたとはいえ、あのクオリティではさすがに仕事につながる感じもしないし、写真+アニメーションという切り貼り感が否めなかったんです

そしてちょっと気分を変えて被写体をスニーカーにしてプロトタイプを作り始める。
今回は、もう少し描き込みを増やして陰影とか、動きに気を配る
このあたりを意識してたと思います

写真とアニメーションの切り貼り感をへらすため、アニメーションによって写真に変化をもたらすよう、ペンキでスニーカーに色をつけるようなアニメーションにしてみました
前回のプロトタイプよりはクオリティアップ、写真とアニメーションのつながりも強くなり、必然感もましたかなと。

とりあえず「写真に何かを足して動かす」は見えてきたので他のアプローチを増やそうと次作に繋がります

2019年6月 写真でパラパラ漫画を試す

普段、撮影して写真をセレクトしているときに、写真を次へ次へと送っているとモデルさんがパラパラ漫画みたいに動いて見えるんですよね
それを動画にしてみたら...と今までと違ったアプローチを試し始めました

このパラパラ動くやつは写真を並べるだけなのでかんたんに作れるのでいくつか作った記憶があります。
作ってみた感想としては「ああ、パラパラ漫画だなぁ」くらいで、とくに大きな感動はなかったです。想像通り、といいますか

しかしながら、スタンダートで普遍的な表現だからこそ、お仕事に結構つながりました
「クロカワさん、あのパラパラ漫画みたいに動く動画広告やりたいのでスチールお願いしていいですか?」
こんな感じのお仕事が結構あって、動画の時代に写真で動画のお仕事を作ることができたなぁとそれはそれで嬉しかったです
売上もたっぷりありましたし笑

とはいえ、割とよく見るもので目新しさもなく予定調和的、いちクリエイターとしては目新しさが欲しくなってきました

◆モヤモヤ模索期に突入

「目新しさと言ってもねぇ」とモヤモヤと考え始めます。
脳内はこんな感じであっちを考えたりこっちを考えたりと、右往左往です

絵的な問題

これはもう単純にどんなクリエイティブを作ると楽しいか、ワクワクするか、カッコいいか。
今まで自分が写真でやってきた作風をどう展開させつつ、新しい表現にしていくか。
漫画・アニメ・イラスト・映画・絵画、色々インプットしまくってました。
特に漫画やアニメは昔から好きですし、やっぱこの世界っていいなーと憧れもありました。
考えてるときは文字や言葉じゃなく、絵をひらめくような感じで、脳内に絵を想像して割と視覚的に考えます。
単体作品というよりは、作品群を作っていきたいので、わかりやすい統一された世界観、つまりは作風をどう作るかって考え方です

マインド的な問題

最初の動機は「動画の時代に写真からアプローチしたい」というところでしたが、それだけだとなにか弱いなと感じていました。
ステートメント、文脈、自分がやる意味、それらをしっかり持たないと芯のない作品、膂力のないクリエイティブが生まれてしまうんですよね。

ちなみに、僕の写真のシリーズは SugarMePop という名前がついていまして、「お化粧をして服を着て、まるで糖衣するかのように自身をパッケージしていくファッション文化をポップにデフォルメして写真で表現する」というステートメントがあったりします。
ポップに糖衣なので、SugarMePopと…

表面をたくさん着飾って一見かわいいけど、その分本心が見えないという意味でモデルさんの表情は基本的には笑顔はないよう構成しています。

作品を作る上での理由や明確な方向性をきちんと言葉に落とし込み、人に伝えたときに「なるほど」が少しでも引き出せるよう、意図がなるべくまっすぐ伝わるようステートメントを考えるのです。

市場的な問題

シンプルに「お仕事になるか/なりそうか」です。
職業として写真家をやっている以上、何をやるにしても基本的には「お仕事になるか/なりそうか」を考えます。癖みたいなものです。
餅は餅屋マインドが強いので、動画は動画を長年やってる人がやるのが正解と思ってはいますが、それでも時代の流れに沿うと動画の世界にチャレンジしなくてはいけないので、歴戦の猛者がうごめく動画の世界でどう差別化して自分の生きられるブルーオーシャンが見つけられるか、はたまた作れるか、を考えるわけです。

文字にすると割とライトですが、答えのない問題を説いてるような、暗中模索、地図のない宝探し、そもそも宝はあるのか、という状態での思考なので結構苦戦しました。インプットを増やすほど迷う、動画の時代はどんどん進む、周りは動画案件やりまくる、YouTube試しに始めたけどなにか違う、などなどなどなど本当にたくさん考えましたね…

こんなことをぐるぐると考え、動画SNSの隆盛を横目に仕事をしたり離婚したりスケボーしたりとしていたら2022年ですよ。
本当、油断するとすぐ還暦になっちゃいそう。

◆2022年7月 作風が決まりドライブがかかる

ご時世的に人混みを避けるようになって、2022年の初夏は箱根の色々な美術館に何度か遊びにいきました。人も少ないし、涼しいし、ドライブがてら東京から箱根ってのはちょうどいいですね。
インプットって意味もありますが、気負いすぎると眉間にシワ寄っちゃうので楽しみつつ〜と思いきやいろいろ発見が多かったです。
ピカソもラリックも今となっては美術界の巨匠な見え方ですが、その時代の商業をしっかり捉えてきちんとお金稼ぎまくっていたんですね。
僕はあまりそういうの詳しくなかったので、アートと商業を別物と考えていましたが、現代で言えば村上隆さんも「芸術起業論」という書籍を出してますし、アートと商業というのはとても密接なんですね。

商業、現在の世の中の実需かー、動画の時代ねぇ、やはり気を引き締め直して取り組まなきゃならんなと、そう思うわけです。

村上隆さんの「芸術起業論」の中で、「自分は今に至るまでのアートの歴史の積み重ねの先にいる、その文脈を持ってしてその歴史の先を作るべし」のような話がありまして(確かあったはず)、結構ハッとしたんですよね。

雑ですが、脳内イメージはこんな感じ

なにかこう、表現として自分も新しいチャレンジをして、アートの歴史の積み重なりに小石だとしても一つ置いて、未来への可能性を積んでみたい。
そう思うようになりました。
うまく伝わるでしょうか。
歴史(過去)の積み重なりの上に自分(現在)がいて、未来への道を自分も少し作ってみたい、というような。

そしてそれはきっとなにか突拍子もないアイディアをゼロから作るのではなく、過去の偉人超人巨匠たちと同様に、何かに影響され、自身にインプットし、組み合わせ、自分なりに変化を、ときに進化をさせて新しいなにかを生み出していくことなんだろう、と思いました。

そしてステートメントとしても、「自分(現在)」という立ち位置を改めて自己分析し直しました。
日本生まれ、東京育ち、漫画やアニメで育ちetc….

結果的にできたステートメントがこちら

写真家が写真の文脈で動画全盛期の時代にどう写真の新たな可能性を模索するかを軸に、写真ならではのリアルさを活かしながらも、日本の写真家としてアニメ・漫画のジャパニーズカルチャーを取り入れた、リアルとグラフィックの間、2.5D的な作品を制作する

めちゃくちゃ簡単に言えば、
写真家として写真を軸に、漫画・アニメで育った日本人としてジャパニーズカルチャーを取り入れ、動画の時代に写真を持ってそれらを融合させた動くクリエイティブを作るぞってことです

ここまで決まればあとは実制作での試行錯誤

ありがたいことに、「クロカワの作品撮影の裏側を、動画と静止画で撮りつつ取材したい」というお話もあり、新作に使う写真の作品撮影をする機会ができました。

モデルは間宮まにさんにお願いしました。
撮影、そして試行錯誤が始まります

間宮まにさんかわいい

まずは写真と漫画・アニメの間を探るため、写真の輪郭を抽出して線を入れる。まだまだ写真。ただの「輪郭に線が入った写真」
よく見ないと線が入っているのがイマイチよくわからない。

漫画のような枠線のあしらい、人物と背景の境界は太い線を入れはっきりさせる。この手法はミュシャがよくやってるし、近年のイラスト作品でもよく見られるもので、取り入れてみた。
良くなってきたものの、写真特有の生っぽさはまだ強い。

インプット用に画集買い集めてました

色の階調を探る。いわゆるアニメ塗りのように、細かな陰影を省いて行くとペタッとした色の扱いになり、少し写真から離れる。
しかし顔にそれをやりすぎると一気にイラストに近づき、もはやイラストでいいじゃんになってしまうので、服はアニメ塗りに寄せて人間の体は写真的陰影を残す、というアプローチで「写真が軸だがイラスト調」のバランスに落ち着かせることができた。

ここの試行錯誤で実際はものすごいバリエーションがあるが、割愛。
おおよそこういったステップを踏んで絵作りの方向性を作っていきました。

次に動き。
手描きのアニメーションを入れるのはいいとして、もっと動かしたいなと思い、以前から技術的にオモシロイと思っていた Live2D というアプリケーションを使うことにしました。

これは、イラスト素材を動かすという技術でして、いわゆるまぶたのレイヤーとか前髪のレイヤーとか、動く素材をレイヤー分けしてそれぞれポリゴン貼って動かすというもの。

これを写真でやろうというわけですが、写真なのでもちろん前髪やまぶたや目玉などはレイヤー分けされてるものじゃないので、持てるレタッチ技術を総動員してPhotoshopで写真をパーツごとにバラバラに。
まばたきさせようものなら目が閉じた状態をフォトショで捏造する、前髪を揺らすなら前髪が揺れたときに見えるおでこをフォトショで捏造する、というように、写真でLive2Dで動かそうとすると相当な根気が必要になります。
超大変。
それを見越して実は撮影時にモデルさんにお願いして目を閉じた状態の写真とかも撮らせてもらってたりはするんですが、細かい制作過程を撮影時は把握しきれていなかったので目を閉じた素材は使えず、フォトショで頑張ることになりました。

そしてアニメーション。
以前やった手描きのアニメーションの他に、漫画の要素を取り入れようといわゆる「描き文字」を当て込みました。
ドンッ とか ザッ みたいなやつですね

「ザッ」好きです勢いあって

そして描き込みもプロトタイプの12フレームではなく24フレームで1コマずつ細かく、かつ形や描き込み度もプロトタイプを超えるよう頑張って描き込み…完成となりました

長文、拝読いただきありがとうございました、そしてお疲れさまでした!
さ、改めて見てやってください笑

そんなこんなで、思い立ってから作品・作風ができたと呼べるレベルに至るまで4年ほど経ってしまいましたが、またひとつ面白いものができたのではないかなーと思っています

クリエイターやアーティストの作品って、パッと作ってるようで色んな試行錯誤やステートメントがこもっているんだな、と少しでも思ってもらえたら6600文字書いた苦労が報われます笑

では今回はこの辺で。

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