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地獄の√HE66 (体験版)

💀HELL地獄のスリーアウト制💀
HELL地獄では一日に二回まで死んでもその場で生き返ることができます。三回死ぬと強制労働所へ送られ三十日の強制労働を課せられてしまいます。後は実際に経験して覚えろ。

新人地獄人のための手引き ~ヘルカム トゥ ユートピア~より抜粋

《YoYoYo!待たせたなお前ら。俺様DJス9ラッチのLA・バックショット・ラジオの時間だ。いつも通り長ったらしい挨拶なし。リリースされたばかりの出たばかりの最高にホットでクールな新曲達を流していくぜ──》

ラジオからクールなサックスソロが流れると同時に、左側面に追いはぎ野郎の黄色い車両が衝突。ガンッと耳障りな雑音が混ざる。

「くそっ、曲が聞こえねえじゃねえか」

相手の動きに合わせてハンドルをうまく左右に切ってやると、追いはぎ車両がバランスを崩して後方へ下がった。

「ざまあみろバカ野郎!へいヒート、ラジオの音量を上げてくれ」

「外のバカを何とかしたらね。これ以上わたしの綺麗な肌に傷がつく前に」

「そんなこと言わずに頼むよ」

「いや」

どうやらヒートは──この車両に積まれた専用人格AIで俺の相棒──この状況にご立腹の様。手動で音量を上げようとしたが、ノブは硬くロックされていた。

「分かった。それじゃあ、自動小火器システムを──」

「故障中よ。誰かさんが一向に直してくれないから」

フロントガラスに映し出されたARディスプレイに『故障中……あんたの頭もね、お馬鹿さん』と波打つサイケデリック色の文章とドレッドヘアーの男のデフォルメイラスト──俺を表しているのだろう──が表示された。相当怒っている。

「わかった、わかったよハニー。LA(ロスト・エンジェルス)に着いたら直すから」

「そうしなさい。どちらにせよ、わたしができることはないから。さっさと何とかして頂戴」

後ろに軽い衝撃。ディスプレイに周囲の状況を映すと、追いはぎ共のボロ車が俺を囲もうと動いている。

面倒だがやるしかないようだ。いいタイミングで曲が攻撃的な曲調のメロデスに変わった。

右手を助手席の上に伸ばしてハチの巣ショットガン──拡声器のように先端が広く、無数の銃口がハチの巣のように並んでいるオーダーメイド製。グリップに『エイト・0・エイト』とカッコよく刻み込まれている──を掴んだ。

「ヒート、奴らが横に並んだら俺の方の窓を下げてくれ」

「オーケィ」

ブレーキを思いっきり踏みつけた。砂の被ったコンクリートの上をギターのリフよりも激しい音を鳴らして滑る。

後ろの赤いボロ車が衝突。フロントバンパーを破壊されてスピン。

左手に黄色いボロ車が並走する形となり、ベストタイミングで窓が降りる。細かい砂が車内に入り込み、ヒートが文句を言う。

右手をハンドルを握った左手の上に乗せ、さらにハチの巣ショットガンを窓枠に乗せて安定させ、驚愕の表情でこちらを見ている間抜けめがけてぶっ放した。

文字通りハチの巣から飛び出るヘルバチのように凶悪な散弾が黄色いボロ車の前半分を引きちぎる。

操舵を失った黄色いボロ車はふらふらと蛇行して道路上に鎮座していた大岩にぶつかり爆発した。スリーアウトはしないだろうが追ってもこれないだろう。

爆風が飛び込む前に窓が閉められた。恐れをなしたのか残りの一台は離れていく。

「っへ。√HE66も大した事ねえぜ」

「なにかっこつけてんのよ。こんなの序の口でこれからもっとひどい目に合うんだから。今からでも別の道を進んだ方がいいと思うけど?」

「なあに、どんなトラブルでも俺とヒートなら問題ないだろ?」

「はぁ……どうなっても知らないわよ」

ヒートが黙り、代わりにラジオの音量が上がる。ソフトなピアノのチルい旋律が車内を満たす。

俺はハチの巣ショットガンを助手席に転がし、

「手が空いてたら点検をしてくれないか?」

「はいはい」

すぐにモーター音が鳴り、助手席前のパネルが開いた。中から数本のマジックハンドが出てきてハチの巣ショットガンを掴む。

俺は座席に深くもたれかかる。ラジオから流れる音と荒れた道路から感じる振動。

『どいつもサイコーだったよな。さてここで、スペシャルゲストの紹介をするぜ。勘のいい奴は気づいてるんじゃねえか?』

MCが黙り代わりに聴こえてきたのは、これまでに何百回と聞いたかわからない、腹の底を揺らすキックと攻撃的なスネアによるドラムソロから始まるヘヴィなメタルサウンドだった。

「おいおいまじかよ」

興奮でハンドルがブレ、隣を走行していたバンに軽く衝突。「ちょっと!気を付けて頂戴」とヒート。バンは抗議のクラクションを車線を変更していった。

俺はジーンズのポケットから丁寧にチケットを取り出し、目の前に掲げた。

《今夜、俺たちの街L・Aでライブをぶちかます──D・S・Mのマークが来てくれたぜ》

《よろしく。今日は呼んでくれてありがとう、ス9ラッチ》

《それはこっちのセリフだぜ。それと今夜のライブ、俺も行くからな》

《それはうれしいな──》

「俺も行くぜ。ベイベー」

「無事にたどりつけるといいけどね」

しばらく平和で退屈な走行をしていると、前方に3つの看板が現れ、続いて3つ又に分かれた道が視界に入る。

【ポークチャムSA】【√HE66】【マン・ハンター】

どの道の先も蜃気楼がかかったようにあいまいになっている。これが噂に聞いていた√HE66のランダム分岐路か。

「残念、外れね」ヒートが冷たく言った。

「そう簡単に引けるとは期待してないさ」

内心で舌打ちを打ちながらも、そのまま直進を続けた。

そして、あいまいな道に入ったと思った、空間がねじれ一瞬の浮遊感を感じ、次の瞬間には同じ風景なのだが何かが違う道を走行していた。

2

数時間前──

すえた不愉快な匂いによる不愉快な気分で目覚めた。世界は逆さまで吐きそうなほど気分が悪い。

すぐに、頭はゴミが散らばる床で、ケツから下がスプリングのへたったソファに乗っている体勢で寝ていたことに気づいた。

そしてすぐそばの床の上で、たわごとレイフィがうつぶせでいびきをかいていた。匂いの原因はレイフィの胃から吐き出されたXXXだとすぐに分かった。クソッ。

レイフィのXXXやゴミに触れないように起き上がる。

バキバキの身体、二日酔い特有の頭痛、汗と酒とピザソースで汚れたシャツ。16畳ほどのスペースの地下室で行われる定例のバカ騒ぎ、通称『クソッタレ・ナイト・フィーバー』の結果。

いつも通りではあるが、何かが頭の片隅に引っ掛かっていた。が、その何かはモヤで隠されている。

「昨日は最高に盛り上がったねエイト」

地上へとつながる扉脇のトイレからピンクのボクサーパンツ一丁のデイダラがでっぷりと肥えた腹をかきながら出てきた。

「ああ、いつも通り最高にクソッタレだったな」昨夜のことは半分程度しか思い出せないが。

「なんか飲む?」

「コーヒーをくれ。とびっきり濃いやつを」

「あいよ」

デイダラが黒いスニーカーでビール缶を踏みつぶしながらキッチンへ向かう。

その間に、誰も寝ていないベッドの上に、比較的綺麗な『私 Love ヤニー』とプリントされた白いシャツ──背中側には紙巻タバコをモチーフとした奇妙なキャラクターが描かれている──を見つけたので着替える。汚れたシャツはゴミ箱に投げいれた。

ソファに戻り、テーブルに足を乗せて天井を眺める。死にかけのヘルタートルのようにトロトロ回るウィンドファンにクラッカーの糸が引っ掛かっている。弾痕の数が増えているのは昨晩誰かが悪ふざけでぶち込んだのだろう。

「ほら」

「せんきゅ」

デイダラからコーヒーの入ったカップを受け取り口に含んだ。

ヘドロのように濃い半液体が舌の上で転がると、過剰なほどのコーヒーの苦みと砂糖の甘味が脳みそにスパークを入れる。

異臭の不快感も二日酔いの苦しみも一瞬でぶっ飛ぶ。寝起きに取るには危険すぎる衝撃に心臓がバクつきそのまま一死しそうになる。

デイダラの入れるコーヒーは下手なドラッグよりも効く。

「っか~~!たまんねえな」

「豆がいいんだよね。WN(ホワイトノイズ)はどこから仕入れてくるんだろうねえ」

「さあね。殺し屋らしいし色々コネがあるんじゃないか」

カップをテーブルに置き、両手を頭の後ろで組んでソファに持たれる。

「ところでよ、今日って何かイベントなかったか?」

「イベント?知らないよ」デイダラが言った。

「だよなぁ」

シャキっとした脳みそは何かを思い出そうとしているが……。

無意識でジーンズのポケットに右手を突っ込んだ時、何かが指の先に触れた。それは、二つ折りになっている薄くてやや硬い紙の様だった。俺は普段、ポケットにモノを入れることはない。つまり、俺の知らない間に誰かが入れたか、よっぽど重要なものか。

指が紙をつまみ、ゆっくりと引き抜こうとしたその時、地下室の扉が開き、タンクトップ姿のビッキ──この家の主の鮫女。元ドラッグディーラー──が現れた。

「あれ、あんたまだいたの」

「ずいぶんな言い草じゃねえか。そんなに早く帰ってほしいのか?」

「いや、そうじゃなくて。今日は何か大事な予定があるから朝一で出るって言ってなかった?」

「俺が?」

「そう」

ビッキそれだけ言い、キッチンに入り冷蔵庫からコーラ瓶を取り出した。ドスン。足で冷蔵庫の扉を勢いよく閉め、ギザギザの歯で蓋を外して飲んだ。

デイダラがシンクにカップを置くと、チリチリと甲高い音が鳴った。

黒。ドスン。チリチリ。脳みそのどこかでカチリと歯車が合わさる音がした。

「ああ!」

心臓が高鳴り、身体が跳ね上がった。

俺は今夜LA(ロスト・エンジェルス)で開催される、俺が心から愛してやまないヘヴィメタバンド【D・S・M】のビッグライブに行かなければならないのだ。

恐る恐るポケットから紙を取り出す。黒い紙にシルバーの文字で、今日の日付とD・S・Mの超生かすロゴが記入されている。

このバカ高い最前列チケットを手に入れるためにどれほど苦労をしたか。

「うぁ、なに?」

レイフィが起き上がったが相手にしている暇はない。部屋の時計を見るとすでに昼を回っていた。今から愛車をかっ飛ばしてもおそらく、いや、確実に間に合わない。

「なぁ、夜までに、LAに着く方法、ないか?」

デイダラとビッキが顔を見合わせた。

「今からって」「ヘルジェット……嘘嘘、言ってみただけ」

絶望でコーヒーが胃にせりあがってくる。

「√HE66」

突然、予想外のところからの援護射撃が飛んできた。レイフィの声だった。俺たちは一斉に視線を向けた。

「√HE66を使えば今からでも余裕でしょ」レイフィがニヘラと笑い顔を作る。ヤツがたわごとをぬかす時のおなじみの表情。

「……確かに。√HE66ならここから30分もかからず乗れるし」とビッキ。

「でもスリーアウトが頻繁に起きる危険なんでしょ?」とデイダラ。

√HE66、HELL地獄中のありとあらゆる場所へつながっていると言われている謎道路。

そこは時空がゆがみ、まるで瞬間移動したように目的地にたどり着けるという。ただし、無事にたどり着けたらの話だが。

定期的に分かれ道が現れるが、どこにつながっているかはその時にならないとわからないらしい。だから、永遠と目的地にたどり着かないこともあるらしい。

また、車両強盗や快楽殺人鬼、凶悪な野生動物も多く、荒事が苦手なヤツはもれなくスリーアウトする危険地帯だとか。

「エイトは使ったことあるの?」

「使ったことはねえ。けど他に選択肢もねえな」

ライブチケットを丁寧にポケットにしまい、残りのコーヒーを一気に飲み干し身体に活を入れる。

忘れ物はないかざっと見渡し、

「じゃあなお前ら!」

床に散らばるごみを蹴散らしながら、デイダラとビッキの脇を小走りで抜け部屋を後にした。

「グッドラ~ック」背後でレイフィの眠そうな声が聞こえた。

3

今──

√HE66も案外大したことがない。3つ目の【√HE66】を通過しているとき俺はそう思っていた。

周りに何もない荒れた平地を数台の一般車両と同じのんびり走っていた。

確かに√HE66では車両強盗やギャングが現れ小競り合いが起きたり、道路上に危険物が転がっていることはあるがその程度。

もちろん俺含む一般人がお互い撃ち合ったりはしない。だからラジオに耳を傾けている余裕があった。

《──で、どうしたんだ?》

《シュガーバレットがバンから予備のガソリンを取り出して、頭から被ったと思ったら火をつけやがったんだ。これで暖がとれるだろって。俺たちは慌てて雪をかぶせて消火したよ。汗だくになってね》

《ハハハ。そいつはイカれてるな》

《あいつはいつもイカれてるんだ。ま、確かにそのおかげで身体が温まって──》

『エイト、ガソリン半分切ったわよ』ヒートが割り込んだ。

「早くねえか?」

俺は首をひねった。今日のために、ガソリンは『クソッタレ・ナイト・フィーバー』の数日前に満タンにしておいたはずだ。

燃料ゲージを確認。ヒートの言う通りだった。

『√HE66に乗った瞬間から燃費が悪いわ』

「小競り合いのせいか?」

『それもあるけど、この空間のせいかしらね。他にも同様の症状を訴えてる子も多いらしいわ』

「へぇ」

『というわけだから早く補給してね。こんなところで立ち往生なんてあんたも嫌でしょ』

「オーケイ」

なんてことを話していると、もはやおなじみの看板が見えてきた。

【ガソのデススタンド】【狂気の海近辺】【√HE66】

こういう時に限ってSAを引けない運のなさを恨む。

「ガソのデススタンドってなんだ?デスのガソスタンドの間違いか?」

『サーチしても出てこないわ。どうするの?』

少し考えた末にハンドルを左に切った。

「ガソスタじゃなくてもツキがあればガスを手に入れられるだろ」

『運というものがあるとして、あなたは持ってる方なの?』

「さあな」

・・

ワープ先は、すでに道の先に【√HE66】の看板が見えるほど短い荒野の一本道。俺の前を走っている奴はいなかった。

『左』

「分かってるよハニー」

アクセルを緩め速度を落とし、惰性で進むのに任せた。

少し先の左手、道路から少し離れたところにポツンとみすぼらしい小屋が建っている。小屋の手前には大きな看板が、小屋の奥には大型の水タンクがある。そして、道路と小屋の間に、3台の車両が並んで止まっている。

愛車は水タンクの手前で停止した。ディスプレイに小屋の方を映す。いつでも飛び出せるようにアクセルの上に足を置いておく。

「ガソのデススタンド、ねえ」俺は看板に書かれた文字を読み上げた。

『明らかね胡散臭いわ。ここは避けて先に進んだ方がいいんじゃない?』

《そう、辺鄙な裏路地に記者がいるわけがない。今思えば明らかに怪しかったんだけど──》

時刻を確認。この空間でも時間は進まないようだ。だからと言って無駄に長居する気はない。

「そうだな──」

《そしたら奴さんは突然ペン型マイクを──》

BANG!

小屋の方角から激しい銃声。右手でハチの巣ショットガンを手に、様子をうかがう。体感で一分ほど経過したが何も動きはない。

「ヒート、なにか──」

BAAANG!!!

より大きな銃声。

『何かは起きてるわね』

「……確かにな」

《それはマイクに見せかけた銃で、ヤツは強盗だったわけなんだ──》

さらに一分ほど経過したのち、小屋の入り口からジェリ缶を手にしたサラリーマン風の男が慌てた様子で出てきた。

《それから俺たち全員、ヘルバイスでライブをするときは常に護身用の武器を持ち歩くことになったよ》

男は一番きれいな車両にガソリンを入れると、ささっと乗り込んでフルスロットルで走り出し、危なっかしい挙動で俺の脇を走り抜けていった。しばらく様子をうかがっていたが、男を追って出てくるものはいなかった。

「あの男、ガソリン入れてたよな」

『まさか行く気?』

「とりあえず、話を聞いてくるわ」

『気を付けてよ』

一旦ハチの巣ショットガンを手にしたが、考え直して別のものを持っていくことにした。

グローブボックスの中に手を突っ込み、一見小さな鉄パイプのように見える棒ガンを取り出す。散弾モードであることを確認してからズボンとベルトの間に差しこんだ。

「のんびりしていてくれ。できるだけ早く戻ってくる」

『はいはい』

愛車から出て、運転のしっぱなしで凝った体をほぐすように動かす。小屋からは何の音も聞こえてこない。

「さて、行きますか」

4

小屋に一歩踏み入れると、木の床板がミシッと音を立てた。一瞬ドキッとしたが罠が仕掛けれれている様子はなかった。

中は薄暗く、硝煙とタバコの臭いが充満している。モノの入っていない棚がいくつかと、正面奥にバーカウンターがあるだけで他にも何もない。あまりにも殺風景で、店として機能しているととは考えられない。

外れだ。

そう結論づけ、小屋を後にしようとしたとき、バーカウンターの向こう側にある扉から咥えタバコの禿げた片目の老人が出てきた。

「おや。今日は客が多い日だねぇ。いらっしゃい」

「ここは店なのか?」

「そうだよ。ワシの店だよ。お客さんは何が望みだい?」

「あーっと、ガソリンが欲しいんだけど置いてないかい?さっきここにいた男が持ってたのを見たんだけど」

「ガソリンね。もちろん。うちは何でもあるよ。ゲッゲッゲ」老人は何が面白いのか耳障りな笑い声をあげた。

「ガソリンは奥に保管してあるが、この通りワシはもうヨボヨボで重いモノを持てない。一緒に取りに行ってもらう必要があるのだが」

「ああ、問題ない」

「それはいい。……時にお客さん、銃の類はここに置いていかないといけない決まりなのだが」

「銃なんて持ってないさ。護身用の鉄パイプならあるが、これは問題はないか?」

と両手を広げてアピールした。棒ガンのことは当たり前だが黙っていた。

「結構。まあ、持っていたところで意味はないがね。それでは着いてきなさい。お客さんは運がいい。すでに先客がいるからすぐに始められる」

「始める?どういうことだ?」

老人は俺の問いに答えることなく、扉の向こうへ消えた。

扉の先は四畳半ほどの小部屋で、地下へと続く階段がつながっていた。階段から例の臭いが濃く漂ってきていた。手が無意識に棒ガンの位置を確かめていた。

階段を降り石畳の短い廊下を歩いた先、裏酒場と研究所が合わさったような奇妙な部屋が広がっていた。

中央にやけに大きな木製の丸机と、丸椅子が二脚。片方の椅子に赤いバンダナを頭に巻いたタンクトップの男が座って俺を静かに見ている。壁のいたるところにある焦げた跡はどことなく見覚えがあったが何かは思い出せない。

部屋の奥には一枚のガラス窓がはめ込まれている。

さらにその奥に、水や食料、衣服や衣料品がずらっと棚に並んでいた。俺の求めているものもそこにあった。

「なんだこりゃ」

「やあやあ来たね。さ、座って座って。あまり待たせちゃ悪いからね」

老人はガラス窓の前にあるDJブースのような機械をいじりながら言った。

俺は言われた通り警戒してバンダナ男の向かいに座った。バンダナは俺の顔をジロリと見た。

「やあ」と俺は言った。

「よお」とバンダナはかえしてきた。

「あんたは?」

「そっちと一緒さ。欲しいモノが手に入るって聞いてきたんだろ?」

俺はうなずいた「一体何が始まるんだ?」

「今にわかる。……どうなっても俺を恨むなよ。俺もあんたを恨まん」

「ああ?」

それはどういうことだと聞こうとしたその時、でかい音と共に地面が揺れた。

「ああ?」

あっという間に天井へと伸びた。俺達と老人を分けるように床からガラス窓が出てきて、あっという間に天井に達した。

さらには部屋の四方、天井からスピーカーとカメラ、セントリータレットが降りてきた。

『待たせたね、お客さんたち。こんな短時間に"4"人もお客さんが来たのは初めてから準備に手間を取ってしまった。許してくれ』

スピーカーから老人の声が聞こえた。

「なあ、これはなんだ。一体何が始まるのかいい加減説明してくれないか」俺はさりげない口調でそういいつつ、こっそりジャケット越しにベルトの棒ガンに手をやった。

『もちろん。もちろん。安心してくれたまえ。このタレットは保険だ。いまだかつて使われたことは数回しかない』

「イカレ野郎め」バンダナが言った。

『さて。先に来ていたお客さんは知っているだろうが改めて説明をしよう。よく聞いてくれたまへ』

機械音。天井が開き、何かがゆっくりと降りてきて、丸机の上に三本の棒状の物を置いた。それは銃身の長さが違う三本の銃だった。

『お客さんたちには、そこの散弾銃で殺し合いをしてもらおう』



「その冗談は面白くないぜ爺さん」

「冗談じゃないぞ」とバンダナ「俺はついさっきまでそれ見てた、いや、見せられていたから」

『そういうことだお客さん。さて、説明を続けるぞ』

老人による説明はをまとめると、

・俺たちはこの場にある散弾銃だけを使うことができる、

・先攻後攻は老人がランダムで決める。

・銃身の短い散弾銃は1/2の確率で一死する弾が、中のモノは1/3の確率で二死する弾が、長いモノは1/4の確率で三死する弾が出る。

・弾が出ようが出まいが一発撃てば射撃権は相手に移る。

・どの銃を使うかは発射権を得るたびに選択する。

・途中退場はおろか、この話を聞いた時点で逃げることは不可能。逃げ出そうとしたらタレットにスリーアウトするまでハチの巣にされ続ける。

・自分の番に散弾銃を打つ以外の動作で相手を攻撃しようとしたり、相手の銃撃を避けようとした場合も、タレットにスリーアウトするまで撃ち殺される。

・ギフト───稀に持っている奴がいる特別な能力。もちろん俺は持っていない──は使用不可。

・相手がスリーアウト(三死)すれば勝ち。

・勝者は賞品として、上の階で老人に伝えた望みの品をもらえる。

・まったくもってふざけた話だ。


【続きは製品版で】

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