手記千号

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物書き。哲学・心理学・法学に興味があります。学びを摂取、発信していきたいです。とりわけ哲学の存在論から目を離せません。「存在している」とは一大事ではないでしょうか。 ※ Amazonアソシエイトを利用しています。

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    哲学します!

  • 法哲学、憲法、刑法など

    原理的な話を書きたい。法に対して哲学的な興味がある。なぜそれは正当化されているのか、由来はどこにあるのか。

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    ちょっとした考えや徒然なるままに書き連ねた文章たち

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    手記千号が進化論についてまとめた記事たちです。議論の骨格をわかりやすくまとめることを意識しています。

最近の記事

〈いま〉ある時間【哲学エッセイ】

場所と時間 いまある場所にはいろいろある。いまある世界は〈ここ〉に限らない。北海道があり、岐阜があり、沖縄がある。 いまある時間はどうだろう。いまある世界は〈いま〉に限るのか。西暦2000年はなくなり、西暦3000年はないのか。 時制をまじめに取らない人がいる。 そういう人に言わせれば、時間も場所と似たようなもの。 いま岐阜にいる人にとっての沖縄と、いま2024年にいる人にとっての2000年は存在としてかわらない。距離は遠くにあるのだけれど、〈いま〉も生き生きと存在

    • 国家はどうして正当化されるのか? シンプルな説明【憲法学】

      国家はどうして正当化されるのか。なぜその命令に服従しなければならないのか。 「従わないと罰せられるから」では正当性の説明にならない。例えば強盗団に拳銃を向けられたらたいてい人は服従する。しかし服従する義務があるわけではない。強盗団は正当化されない。 では改めて、国家はどうして正当化されるのか。全て市場に任せてはダメなのか。 この疑問にはさまざまな答え方がありえる。 私は現状、憲法学者である長谷部恭男の説明に納得している。 氏によれば、 A 社会的相互作用の調整 B

      • 自由獲得の努力の成果としての基本的人権【憲法学】

        基本的人権のあらましについて、義務教育で習う内容は非常に限られている。そのため勘違いや混乱がよくみられる。 本記事では基本的な理解を書いておく。 1 基本的人権 基本的人権の思想は、一つの世界観である。 基本的人権は、 ・人間が生まれながらにして平等に有する。 ・時代と場所を問わない普遍的権利である。 これは自然権の思想と一致する。基本的人権とは自然権であり、国家に承認されるまでもなく存在する。そういう世界観なのである。 基本的人権=自然権の思想を受けいれることは、

        • 自由意志と理不尽2:暴力と刑罰【哲学】

          前回の記事では、自由意志に対して否定的なことを書いた。 しかし自由意志否定論に恐怖を感じることもある。 自由意志否定論が事実だとすると、私は自由に手を上げることができない。「まぁ、それでもいいか」と流せるときも多いが、たまに恐怖してしまう。 ◆犯罪被害と災害被害は同質なのか? 自由意志否定論が正しいとすれば、全ての理不尽は誰にも止められないどうしようもないものだったことになる。自由意志でどうにかできるものは塵一つなかったし、今後もない。だってこの世に自由意志はないのだ

        〈いま〉ある時間【哲学エッセイ】

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        記事

          理不尽な自由意志1:均されない運と努力神話【哲学】

          自由意志概念は難しいので、論理の正確さを気にし始めると何も書けなくなる。理由は以下の記事参照。 自由意志をめぐる葛藤2:学んだ末に迷路。本の紹介など。 https://note.com/s1000s/n/na359cd983768 これからいくつかの記事では自由意志概念を分析するのではなく、なぜ私が自由意志問題にねちねち拘っているのか関心の由来について書きたい。 一言で表すなら〈理不尽〉である。 自由意志は存在しても理不尽、せずとも理不尽、そういうものだと思っている。

          理不尽な自由意志1:均されない運と努力神話【哲学】

          「私のたった一票」の無意味と意味を考える【選挙】

          1 一票をめぐる事実 「あなたの一票で政治が変わる」 という嘘がある。 嘘でよかったと安堵すべきだろう。この言葉が真実だとしたなら、責任は極大、「あなた」はとんだ独裁者である。私だっておちおち投票していられない。 「あなたの一票で政治が変わることもごく稀にありえる」なら事実を言っている。市区町村の議会議員選挙においては、一票差で決着がつくケースや、票差がゼロとなりくじ引きで当落が決まるケースも存在する。 しかし、自分の市区町村における選挙がこうしたレアケースに該当

          「私のたった一票」の無意味と意味を考える【選挙】

          自由意志をめぐる葛藤2:学んだ末に迷路。本の紹介など。

          自由意志に関する議論を集中的に読んだり考えたりしていたが、あまりに厄介なのでこの話ばかりに関心を向けるのは休止することにした。考え続けるが、他のことも考える。 ここではなぜどのように厄介だと思ったのかについて書いていく。あと本の紹介もする。 特に結論はない記事である。 自由意志の意味とは? 定番の議論 まず自由意志の意味を掴む時点で難しい。 自由意志とは①他行為可能性や②源泉性(自分次第性)を意味すると考えるのが定番らしいが、どちらも腑に落ちないところがある。

          自由意志をめぐる葛藤2:学んだ末に迷路。本の紹介など。

          コロナに感染発症した感想

          新型コロナに感染発症しました。軽症でした。 症状が辛いときSNS上のコロナ経験談をぱらぱらと読んで心が軽くなったので、私も書いておこうかなと思います。 印象的だったのは次々に症状が切り替わっていくこと。 いまは 間接痛ひどい いまは ずっと高熱 いまは ひたすら喉が痛い いまは 咳がごほごほ 一つ出て、一つ引いて、また一つ出て。 全症状が同時に来るよりはマシなのでしょうが、「また新手かよ、何体いるんだこいつら」とうんざりさせられました。身近でもコロナ感染者はたくさん

          コロナに感染発症した感想

          なぜ暴走するトロッコは誰かが死ぬまでとまらないのか? トロッコ問題の利用法

          トロッコ問題がX(旧ツイッター)ではしょっちゅうトレンド入りしていて驚きです。 この思考実験が有名になったのはサンデル白熱教室の影響でしょう。 サンデルの著作の中でもとりわけ売れた マイケル・サンデル著 鬼澤忍訳『これから正義の話をしよう』早川書房 2010年 でもトロッコ問題は論じられています。しかしこの本でトロッコ問題について論じられているのは第1章の32-35頁。本編10章345頁のうちのたった4頁。導入でちょっと触れられてるくらいの話なのです(2011年文庫版

          なぜ暴走するトロッコは誰かが死ぬまでとまらないのか? トロッコ問題の利用法

          友情・序列・権力――チンパンジーの政治社会『ママ、最後の抱擁』【読書】

          メインで考えているテーマは進展に欠ける。とはいえ一カ月に一つくらいは記事を残したい。そこで読書メモを投じておくことにした。 フランス・ドゥ・ヴァール著、柴田裕之訳『ママ、最後の抱擁』紀伊国屋書店 2020年 ◆ チンパンジーは友だちをつくる。 誰と誰が仲良しなのか知っている。喧嘩もするが、他人の喧嘩をなだめることもある。仲直りだってする。それどころか仲直りしたフリだってできるのだ。例えば周りの目があるところでは抱き合って和解を演じておいて、二人きりに戻ると喧嘩を再開す

          友情・序列・権力――チンパンジーの政治社会『ママ、最後の抱擁』【読書】

          自由意志をめぐる葛藤1:物理法則との折り合いつくのか編【哲学】

          自由意志をどう考えるべきか悩み続けてきた。結論は見いだしていないのだが、何をどう考えてきたのかをいくつかの記事に分けて記録しておく。 物理法則と自由意志 中学時代。ずっと気がかりなことがあった。 ● 物理法則というものがあるらしく、それが世界の根本法則らしい。 ● 物理法則に反する事象は起きないようだ。 ● 物質は物理法則に従って運動している。 ここまでは大人たちもみんな同意しているようにみえた。ただ子どもながらこの時点で不穏さを感じていた。次の主張も正しい気がしてい

          自由意志をめぐる葛藤1:物理法則との折り合いつくのか編【哲学】

          ゾウの賢さが分かるほど人間は賢いのか?【読書】

          人間は人間の賢さについてさえよく分かっていない。人間とは異なる生活をしている動物たちの賢さについては、なおさら分かっていない。分かったつもりで、ひどい勘違いをしたりする。 人間が動物の賢さを誤解してきた歴史か詳しく紹介されているのがこの本 別記事内では著者が人間原理を誤解している点を批判したが、学びは多かった。 序盤にでてきて印象的な話を一つとりあげよう。 ゾウは鼻でモノを拾っている。小さいモノから大きいモノまで。そこで、ゾウが道具を使う能力があるかを確かめるために、

          ゾウの賢さが分かるほど人間は賢いのか?【読書】

          人間原理とマルチバースでこの宇宙の不自然さを説明する【哲学】

          この宇宙は不思議で満ちている。素人だからそう感じるだけ? いやいや、宇宙物理学の専門家からみても、この宇宙は不自然にみえるらしい。むしろ専門家の場合は、ただ漠然と不思議がる素人と違って、宇宙の根本の部分に対してはっきりとした不自然さをみてとっている。 現代宇宙論では、この宇宙の不自然さを「人間原理」と「マルチバース」によって説明することがある。 何がどう不自然なのか。人間原理とマルチバースはその不自然さをどう説明するのか。本記事では、それらの解説を行う。 人間原理とは何

          人間原理とマルチバースでこの宇宙の不自然さを説明する【哲学】

          論理一辺倒の危うさ【雑考】

          論理一辺倒の人がいる。異様にみえるほど論理の一貫性を追求するのだ。 その人が論理に傾倒する理由は論理以外の何かにある。というのも論理の体系からは「論理的に思考しよう」という提案は出てこないからだ。論理は形式だけに関わっている。 論理にこだわるのはなぜだろう? 執拗なまでの論点整理が問題解決に繋がることがある。だから、その人は公共心に溢れているのかもしれない。 あるいは、偏見や常識からの解放、すなわち自由を求めているのかも。または単純にパズルを解くような楽しさを追求して

          論理一辺倒の危うさ【雑考】

          無と存在の意味を考え中【哲学】

          本記事では、「無」と「存在」の意味に関して現時点で考えていることを書き残しておくことにしました。探求の方法論についての話なので無味乾燥にみえるかもしれません。「なぜ世界が存在するのか?」に関する実質的議論には(無謀にも)こちらの記事で取り組んでいます。 なぜ世界はあるのか【哲学】 https://note.com/s1000s/n/ne5e4bbb0e0a4 さて、本記事の内容ですが、なんだか当たり前のことを長々書いている気もします。この方向性だと常識や科学と両立した上で

          無と存在の意味を考え中【哲学】

          なぜ世界はあるのか【哲学】

          note開設当初から私のプロフィール欄には「哲学の存在論から目を離せません」などと書いてあります。にもかかわらず、今までその話題に関わる記事を書きませんでした。 思索と読書は続けていたのです。しかし、学ぶほどに「学ばねばならない論点」が逐次追加され続けて収拾がつかなくなっていったのでした。とはいえ、ここ最近になり執筆欲がでてきたので、現時点での見解を強引にでもまとめておくことにします。 今回のテーマは「なぜ世界はあるのか?」 もう少し具体的には、二つの問いを検討します。

          なぜ世界はあるのか【哲学】