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イベントレポート:『本屋のミライとカタチ 新たな読者を創るために』北田博充 編 トークイベント② 登壇者:北田博充、山下裕、古賀詩穂子 場所:TOTEN BOOKSTORE 名古屋市

前編からの続き

この問題(ネット書店の普及に対して時代にリアル書店が対応できていない問題)への一つの対策として北田さんがこの本で提示しているのが「個人の時代」です。
つまり、本屋の店主のパーソナリティーがファンを作り、本が売れていくという状態です。
それは従来の書店や出版社側が進める本を消費者が買うという事ではなく、店主が進める本だから、先輩が進める本だから、好きなユーチューバーが進める本だからという理由で本を購入する形とも言えます。
実際、北田さんはこの本の中でそういったケースの成功事例として、蟹ブックスの花田さん、Chapter書店の森本さん、元高校国語科教諭の嘉登さんの例を挙げています

また、質疑応答の際に話題になったことですが、今はもう必ずしも書店は出版社が発行した本を取次から仕入れるといった一連の流れに沿う必要がなくなってきているそうです。
このことは一人書店、つまり個人のパーソナリティーで本を勧めていける環境により近づいてきているとも言えます。
つまり、制作、仕入れ、販売もそれぞれ一人で行えるインフラが生まれ個人を活かした本屋業がしやすくなったことという事です。


ただし、北田さんはこのような環境だけでは不十分とも言っていました。
なぜなら、従来からある狭義の本屋がこのような新たな本屋の形をつぶしてしまうケースもあるからとのことです。
具体的な例は挙げられていませんでしたが、広義の本屋の革新的な取り組みを狭義の本屋が従来の枠組みに合わせるように加工してしまったり、利用したりするケースがあるそうです。
また、本でも取り上げていますが、広義の本屋に対しての批判的な意見が狭義の本屋側に根深くあるようです。
そのため、両者仲良く協力し合っていくべきというのが北田さんの最終的な提案でした。

【質疑応答】

質問1 本屋を始めたいが、業界未経験で取次にどうかかわればいいかわからない。正直、怖さすら感じる。

1つ目の質問については先に書いたように狭義の本屋の持つ業界のルールが外の人からしたらわかりにくく敷居の高さを感じさせる問題です。
このことに対しては現在では取次側も従来のルールを緩和してきており、開業の際は丁寧に対応してくれるとのことです。
これは出版不況の影響を取次はもろに受けているため、従来通りのやり方だけでは通用しなくなってきていると山下さんも指定していました。
しかし、北田さんが述べたように、今では必ずしも取次を経由する必要がなく本仕入れや売り方についてもバリエーションがあり、従来の業界の慣習はそれほど気にしなくてもいいかも?という指摘もありました。

質問2 書店が文具や雑貨などの販売が増える中で書店ではなくなってきていることを危惧している。


この指摘については、北田さんの話からするといい面と悪い面の両方があるようです。
そもそも書店が文具や雑貨を取り扱うのは利益確保が目的とのことです。
つまり、書籍だけでは利益が確保できないため他のものも売るといった事です。
これは、あくまで売る側の論理であり顧客にはその事情は関係ありません。
ですので、当然客は離れていきます。
これが、悪い面です。
では、いい面とは?
それは書店利益を高めつつ、新規顧客を呼び込むことです。
北田さんはそれ例として、書店でのタレントイベントの開催を例に挙げていました。
スペース貸しは利益率が高いうえ、普段は書店に来ない客を書店に呼び込めるため非常にいい施策なようです。

【イベントの内容まとめ】

●それぞれのキャリアから「狭義の本屋」の中で「広義の本屋」を実践したり、取り入れることの苦労
●書店業界の離職率高さは業界の俗人的な性質によるところがある
●出版業界の改革を阻む壁は全国一律に本を届けなければならないという考えに未だに取りつかれている業界の慣習にある
●出版、仕入れ、販売方法が多様になった現在では書店としてではなく本屋個人の魅力が重要になってきている
●今後は広義の本屋が活躍できる環境を狭義の本屋が作れるかどうかが課題

【全体の感想】

書籍のタイトル通り「本屋のミライとカタチ」を考えた2時間だったように思えます。
それもかしこまった感じではなく、終始フランクな感じで
そのような雰囲気になったのは3人の人柄ももちろんあると思いますが、話の内容が実際に経験したエピソードによるものだったからだと思いました。
だからこそ、重く受け止められる話になったり、逆に笑い話にもできる。
こういった内容は文字ではなく、同じ空間の中で声を表情から伝えられるオフラインイベントの醍醐味だと思えます。
自分自身も近い将来「本屋」になろうとしている者なので、先輩方に少しでも近づければと身が引き締まり、モチベーション爆上がりのイベントでした。

【登壇者略歴】

北田博充:

梅田 蔦屋書店 店長・文学コンシェルジュ
20240116_kitada_02.jpg大学卒業後、出版取次会社に入社し、2013年に本・雑貨・カフェの複合店「マルノウチリーディングスタイル」を立ち上げ、その後リーディングスタイル各店で店長を務める。2016年にひとり出版社「書肆汽水域」(https://kisuiiki.com/)を立ち上げ、長く読み継がれるべき文学作品を刊行している。2016年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。現在、梅田 蔦屋書店で店長を務める傍ら、出版社としての活動を続けている。2020年には本・音楽・食が一体となった本屋フェス「二子玉川 本屋博」を企画・開催し、2日間で3万3,000人が来場。著書に『これからの本屋』(書肆汽水域)、共編著書に『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、共著書に『本屋の仕事をつくる』(世界思想社)がある。
参照:CCCサイト 

山下優:

1986年生まれ。青山ブックセンター本店店長。2010年、青山ブックセンター本店入社。アルバイトを経て2018年11月に社員になると同時に店長に就任。ロゴの刷新や出版プロジェクトAoyama Book Cultivationを主導。
参照:【本のあるところ ajiro】「本屋の店主が本を売りに。」(青山ブックセンター本店店長 山下優さんトークイベント)(3/15)

古賀詩穂子:

愛知県出身。出版取次で書店営業を担当したのち、転職を機に上京し本屋の企画運営に携わる。独立後、名古屋/金山にコーヒーやビールも飲める新刊書店「TOUTEN BOOKSTORE」を開業。2階にはギャラリースペースとカフェの席もあり、コーヒーやビール、ヴィーガンクッキーなどがたのしめる。読書会やトークイベントも多数開催。日々の生活の中で息つぎができる場所となるようなお店づくりをしている。コインランドリーがすき。
参照:TOUTEN BOOKSTORE(愛知・名古屋):連載「あの本屋に行こう」
 


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