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イベントレポート:『本屋のミライとカタチ 新たな読者を創るために』北田博充 編 トークイベント① 登壇者:北田博充、山下裕、古賀詩穂子 場所:TOTEN BOOKSTORE 名古屋市

2024年2月3日(土)、名古屋市熱田区金山駅付近にあるTOTEN BOOK STOREにて『本屋のミライとカタチ 新たな読者を創るために』の発売記念イベントが行われました。
登壇者は編者である北田さん、書籍中の座談会に参加している山下さん、TOTEN BOOK STOREの店主である古賀さんの3人です。
参加者は正確には把握はしていませんが15人ほど?
途中休憩と質疑応答を含めて2時間ほど行われました。
この記事では私が参加してきたこのイベントについてレポートしたいと思います。

【お店の雰囲気】

イベントが行われたTOTEN BOOK STOREは店主古賀さんが3年前の2021年に熱田区金山駅沢上商店街の古民家を改装して立ち上げたブックカフェです。
1Fは約3000冊の新書を取りそろえた書店スペースと奥のカフェ&イベントスペース、2Fはイベントスペースになっています。
本はどれも店主の古賀さんがセレクトした本が並んでいます。
ジャンルは食、旅、デザイン、ジェンダー、マンガなど様々。
一般的な書店ではあまり見かけない本が多くデザイン性の高いものが多いと感じました。

デザイン性といえば、店内のデザインも秀逸です。
入り口は一見書店というよりは「昔ながらの駄菓子屋さん」のような印象です。
中に入ると淡い照明と木目基調の壁、クラシカルなインテリアから暖かい印象を受けました。
当日スタッフとして参加していた古賀さんの旦那さんに話によると、本棚はどれも岐阜の杉の木を使ったものだそうです。

2Fのスペースで印象的なのは天井です。
天井が大きく開けていて開放感を感じます。
1Fが本に溢れているため、余計に広々と感じました。
また、昔ながらの日本家屋の構造をより感じることができ、落ち着きのある雰囲気を醸し出しています。

【イベントの雰囲気】

イベントは終始和やかな雰囲気で進みました。
登壇者同士それぞれ気の知れた仲な様でしたので話がはずみます。
さながら、ラジオを聴いているような感覚でした。
台本があるようでないフリートークをしながらも、話の主題を進めていくといった感じです。
どんどん話が脱線していくんですが、北田さんがポイントで軌道修正されていました。
ところどころで笑いもあり、北田さんの「名ラジオパーソナリティ」感を感じられる内容でした。

参照:LIFULL HOME'S PRESS 『名古屋・金山に空き家を活用した「TOUTEN BOOKSTORE」が誕生! 人と本が集まる居心地のいい場所に』

【トーク内容】

トーク内容はまず、それぞれの自己紹介から始まります。
一般的に自己紹介は簡略に済ますイメージですが、この最初の自己紹介から話が展開していき、なかなか本の話には進みませんでした。
ただ、話を聞きながら感じていたのですが、この自己紹介自体が本の内容に大きくかかわる事だと感じました。
私の考えでは本の大きなテーマは

1.本屋の定義を考え直す。
2.本屋は狭義の本屋(=いわゆる従来の本屋)と広義の本屋(本を売る人だけでなく、教えたりPRしたりする人などを含める)に分かれており
3.広義の本屋の成功事例を多く取り入れ、狭義の本屋と広義の本屋が協力し、読書習慣がない方に本を買い、読んでもらうようにすることが今後大事になる

です。

そのため、長年出版業界に身を置いてきた3者にとってはこの本をベースに各々のキャリアを振り返ることは、これまで狭義の本屋で働いてきたことに対する振り返りや反省について考える前振りになっていたように思えます。
逆に言えば、3者が今行っている活動はまさに狭義の本屋の仕組みの中でもがいてきた結果ともいえると感じました。

では、彼らが挑戦した広義の本屋の問題とは何でしょうか?
まず、業界の離職率の高さ教育体制が挙げられていました。
山下さんが属している書店業界も古賀さんが属していた取次業界にしてもどちらもかなり高い離職率なようです。
その理由は業務量の多さにあるようです。
特に、書店については、山下さんのアルバイト経験から察するに、それほど賃金が高くないことも離職原因になっていると感じました。
また、教育体制についても離職を促しているとのことです。
書店業務はルーティーン業務や基本的な陳列法などがあるんですが、どのように書籍を売りこむかについては人それぞれだそうです。
山下さん曰く「売り方に正解がない」そうです。
そして、「正解がないからこそ、どれだけその書籍を愛せるかが重要」とも言っていました。
つまり、結局自分自身でやりがいを見つけ正解を見つけていくしかないといった環境のようです。

個人的な意見として、もともと書店というものがこのように俗人的なノウハウをもとにしていたからこそ、全国一律な流通体制を築く際ルールや型を重視する必要があったのでは?と感じました。
つまり、彼らの感じた「業界の壁」というものは書店の持つ俗人的な性質と全国一律に本を届けようとする戦後出版業界に求められたニーズの双方を天秤にかけた結果から生じたという事です。

しかし、戦後から70年、アマゾンが世界最大の書店となった今では、後者の「全国一律に本を届ける」といったニーズはすでにありません。
にもかかわらず未だにそのような体制を変えられずにいることが書店業界の低迷の原因となり、出版不況に陥っていると推察できます。

【イベントの内容まとめ①】

●それぞれのキャリアから「狭義の本屋」の中で「広義の本屋」を実践したり、取り入れることの苦労
●書店業界の離職率高さは業界の俗人的な性質によるところがある
●出版業界の改革を阻む壁は全国一律に本を届けなければならないという考えに未だに取りつかれている業界の慣習にある


【登壇者略歴】

北田博充:

梅田 蔦屋書店 店長・文学コンシェルジュ
20240116_kitada_02.jpg大学卒業後、出版取次会社に入社し、2013年に本・雑貨・カフェの複合店「マルノウチリーディングスタイル」を立ち上げ、その後リーディングスタイル各店で店長を務める。2016年にひとり出版社「書肆汽水域」(https://kisuiiki.com/)を立ち上げ、長く読み継がれるべき文学作品を刊行している。2016年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。現在、梅田 蔦屋書店で店長を務める傍ら、出版社としての活動を続けている。2020年には本・音楽・食が一体となった本屋フェス「二子玉川 本屋博」を企画・開催し、2日間で3万3,000人が来場。著書に『これからの本屋』(書肆汽水域)、共編著書に『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、共著書に『本屋の仕事をつくる』(世界思想社)がある。
参照:CCCサイト 

山下優:

1986年生まれ。青山ブックセンター本店店長。2010年、青山ブックセンター本店入社。アルバイトを経て2018年11月に社員になると同時に店長に就任。ロゴの刷新や出版プロジェクトAoyama Book Cultivationを主導。
参照:【本のあるところ ajiro】「本屋の店主が本を売りに。」(青山ブックセンター本店店長 山下優さんトークイベント)(3/15)

古賀詩穂子:
愛知県出身。出版取次で書店営業を担当したのち、転職を機に上京し本屋の企画運営に携わる。独立後、名古屋/金山にコーヒーやビールも飲める新刊書店「TOUTEN BOOKSTORE」を開業。2階にはギャラリースペースとカフェの席もあり、コーヒーやビール、ヴィーガンクッキーなどがたのしめる。読書会やトークイベントも多数開催。日々の生活の中で息つぎができる場所となるようなお店づくりをしている。コインランドリーがすき。
参照:TOUTEN BOOKSTORE(愛知・名古屋):連載「あの本屋に行こう」 

次週に続く


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