片想いも50年経てば宝物になるのよ
「あなたのこと抱きたいです。」
そんなこと言われたのは初めてだった。
名前も顔も知らない、SNSで繋がったひと。
彼がつかう言葉は、誰も傷つけず、ちょっと理屈っぽくて、ああ、いいなぁ、なんて思ってた。いいな、は好きとかじゃなくて人間的にいいなって。
そんな彼とメッセージでやりとりして、ひょんな事から連絡先を交換して。
そんな彼から、そんな言葉がきた。
誰でもいいから抱きたいわけじゃないと、彼は言った。
正直会ったこともないのにそんなことを言われるなんて、普通は気持ち悪い。
でも、なんだかそんなことは思わなかった。
むしろ、彼がわたしにだけ見せてくれる顔をしてくれているみたいでうれしかった。
でも一度会いに来ると言ったとき、わたしは逃げてしまった。
こんなわたしのこと、実際見てどうだろう。
怖かった。嫌われたくなかった。
自ら手を離して、
もう連絡は来ないって思っていた約半年後、
「最近忙しいですか?」と連絡がきた。
その半年、わたしは自分を好きになるために出来ることをたくさんした。
彼に嫌われたくなくて、自分を好きになりたくて。
今なら会えるかも、そう思った。
一度自分から手を離したから、相手は少し傷付いていた。
それでもわたしのことを抱きたいと言ってくれた彼に、わたしは会ってあなたがきっかけで変わることが出来たよと直接言いたかった。
「2月に会いに行こうと思います。」
彼に出会って約1年、やっと会えることになった。
どんな顔をしたらいいのだろう、もし来なかったら?
不安な気持ちが過ぎるがわたしはそれでも会いたかった。
実際に来た彼、黒の上下に白のマフラーでぱっちりとした目が特徴。
無口なのかなと思ったけど案外話してくれた。
でも恥ずかしいからと全然顔を合わせてくれなくて、なんだかかわいいな、なんて思った。
ほんとは色んなことを聞きたくて、色んなことを話したかったけど、彼に抱かれている時は一瞬のようで、夢みたいな時間だった。
「ずっとこうしてたかった。」
耳元でささやかれた彼のことば、
ずっとずっと忘れることないだろう。
「わたし、ずっとお礼言いたかった。」
終わってからぽつぽつ話したわたしに、静かに聞いてくれた。
ちゃんと伝わったかな、伝わってるといいな。
もう二度と会えないかもしれない彼に、
わたしはいつからか憧れていた。
バレンタインの夜、こんな時間二度とないなと柄にもなく思ったんだよ。
会いに来てくれてありがとう。
色んな感情は、胸に閉まっておくから。
どうかどうか、あのことばが少しでも伝わっていますように。
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