ピアノを広い視野で

 ピアノは、コンピュータの前身と言われることがある。1オクターブを12等分している十二平均律そのものが示しているし、また、自動演奏ピアノの内部に仕組まれるロールを見れば、そのことがもっとイメージできる。ロール紙には、音が「鳴る」「鳴らない」の情報が穴によって示されていて、それはオルゴールも同じことが言える。話しは戻って十二平均律は簡潔で合理的!そう、合理的こそがピアノなのだ。ここでは詳しく書かないけれど、実際には均一ではない音の間を程よくコントロールすることで12個の音を平均的で応用しやすい関係にし、転調や移調などの応用がきくということ。もう何年も前になるけれど、神奈川県立音楽堂にて行われた「21世紀における芸術の役割」というシンポジウムで、ピアノは最も古いグローバリズムの姿だ、と実際に仰っている学者がいたのを思い出す。響きを平均にし、西洋から各国に、そして各家庭にと量産されていったのだ。
 
 前回の日記に書いた「音×織」プロジェクトでは、伊藤悟さんともう一人一緒に活動している方がいて、その方が西陣織の織匠が創業した会社、「紫絋」の野中くん。野中くんは「紫絋」創業者の故山口伊太郎氏のお孫さんにあたる。故山口氏は、日本で最初にコンピュータを仕事に導入したのだ。つまりは、どの先端企業よりも、伝統を重んじる京都の織職人が先見の明があったということになるのではないだろうか。
 実は織機もコンピュータの前身と言われる。
「織る」「織らない」の情報を紋紙の穴で示しているのだ。加えて海外から輸入したジャカード織機を日本仕様に使いやすく改良し活用している。のちに紋紙は、不要になったときに大量の廃棄物となってしまうため、コンピュータの発展、応用とともに使用する必要がなくなり、情報を記したものがフロッピーに変わり、近年ではチップとなって最小化している。この流れは自動演奏ピアノにも全く同じことが言え、ピアノと織機は兄弟姉妹のようなプロセスを経て現在に存在している。
 

 今でこそコンピュータが当たり前に普及し、使用していない業界なんてないほど必要とされているが、そのコンピュータがピアノや織機をモデルにして発展してきたことを振り返ると、「音楽」そして「ピアノ」が持つ仕組みはとてつもなくすごいことだと興奮する。
決して「音楽」という決められた1分野にとどまらず、社会の動きを見渡せるものであり、あるいは先導しているものとして考えると、ピアノほど面白いものはないと思っている。もちろん表現するためのものとして、純粋に音を追求し良い音を奏でる楽器ではあるけれど、ピアノをもっと広いところで展開していけるのではないだろうか。1分野のものではなく、経済にも影響するほど長期的な視野を持ったものなのだと思う。


          写真は、初期の自動演奏ピアノ




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