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サクブン 米中会談@マルタ

米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と中国の王毅外相が週末に会談していたことが明らかになりました。場所は地中海に浮かぶ島国マルタ。事前にメディアには知らされず、ひそかにセッティングされたものでした。写真一枚でも旅情が掻き立てられるマルタですが、ここでは会談をめぐる米中双方の思惑や事情をサクッと分析したいと思います。

2日間で計12時間も話し合う

サリバン・王毅の両氏の会談場所としてマルタが選ばれたのは、もちろんメディアの目を避けて静かな環境で話し合いたかったためでしょう。二人は5月にウィーンでも会談していますが、そのときも事前に公にされることはありませんでした。前打ちの報道が出ると、互いに国内世論を意識して強い言葉を使わざるを得なくなるためだと思われます。

今回の会談は16日と17日の二日間、合計12時間に及びました。かなり突っ込んだ議論になったのは間違いありません。半導体から人権問題まで、多くのイシューで鋭く対立している米中ですが、最大の焦点は台湾情勢、そして習近平国家主席の訪米です。

会談後、ホワイトハウスは声明の中で「台湾海峡の平和と安定の重要性を指摘した」と説明。米側としては、中国との関係安定化を図ろうとする中であっても、最大の火種である台湾情勢に関して釘を刺すことは忘れていません。つまり、武力行使に走るなと。

The United States noted the importance of peace and stability across the Taiwan Strait.

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2023/09/17/readout-of-national-security-advisor-jake-sullivans-meeting-with-chinese-communist-party-politburo-member-director-of-the-office-of-the-foreign-affairs-commission-and-foreign-minister-wang/

ただ、全体としてバイデン政権は中国との関係をコントロールしたいという姿勢は一貫しています。先月末にはレモンド商務長官が北京を訪れて王文濤商務相らと会談。両国の政府高官と民間の代表が参加する「商業問題ワーキンググループ」を設置することで合意しています。

アメリカ側には、11月にAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議がサンフランシスコで開かれるという事情があります。そこでバイデン大統領が習近平国家主席を出迎え、首脳会談で両国関係のコントロール強化で合意するというシナリオは、彼の再選戦略にとっても大きな得点になるとの計算があるでしょう。

習近平体制には不安定さも

一方の中国。習近平体制が3期目に入ったことで「毛沢東以来の強権指導者」という評価が定着した感がありますが、ここ最近、小さくはない異変が続いています。秦剛外相の失脚は記憶に新しいですよね。習近平氏に引き立てられて外相就任という異例の出世を遂げた人物でした。それが、今や中国外務省のHPからも一切の記録が削除されてしまいました。どこで何をしているのでしょう…

そして、再び、似たようなキナ臭さが漂っています。李尚福国防相(兼国務委員)の消息が2週間以上にわたって途絶えているのです。汚職の疑いで捜査が行われているという報道も出ていて、既に解任されたとの見方もあります。15日、記者会見で李国防相が「消えた」ことへの見方を問われた米ブリンケン国務長官は、「中国政府が決める問題だ」と述べるにとどめました。自分のカウンターパートであった秦外相がいきなり切られる事態を経験しただけに、また同じようなことが起きても驚きはないのでしょう。

不安定さは、習近平氏の首脳外交でもみられます。習氏は先月インドで開催されたG20サミットを欠席しました。「潜在的なライバルであるインドに行くのを敬遠した」「経済の停滞で外遊どころじゃない」といった見方が出ていますが、真相の見極めは難しいところです。

実は、妙な兆候はその前から表われていました。先月22日、南アフリカで開かれたBRICS(新興5か国)首脳会議で、習氏は予定されていたスピーチをすっぽかしたのです。BRICSの企業関係者たちを集めたビジネスフォーラムで習氏は登壇して話すはずだったのですが、欠席。スピーチは王商務相が代読ました。これまた、理由の説明は、なし。

このように、盤石と思われた3期目の習近平体制ですが、中南海で少なからぬ権力闘争が繰り広げられているシグナルも発信されています。経済の停滞が中国指導部に何を思わせるかもポイントです。米国や日本と揉めている場合ではないと判断するか、それとも「弱腰だとみなされたら後ろから刺される」という中国共産党の内部論理から一段と吠えるのか…
果たして11月に習近平氏がサンフランシスコに行くのかどうかも含めて、米中の腹の探り合いが続くでしょう。

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