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台湾総統選 藍と白が組んで緑を追う

こんな変化球のタイトルでは、台湾政治をウォッチしている方でないとサッパリ分からないな…と思いつつ、インパクトの強さへと流れてしまいました。
記事の内容はいたって真っすぐですので、ご心配なく。


「藍白合作」

台湾総統選(24年1月13日投票)に向けた動きが加速しています。
これまでの世論調査では、一貫して与党・民進党の総統候補である頼清徳(らい・せいとく)副総統がリードしてきました。
一方、「反民進党」の陣営は分裂していました。最大野党・国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)新北市長、民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)前台北市長、そして以前にこのnoteで紹介した鴻海精密工業の創業者・郭台銘(かく・たいめい)氏の3者が立候補。民進党への批判票が分散しては勝ち目がないという焦りが募っていました。

そこで国民党と民衆党の間で候補の一本化をめぐって交渉が続いていました。ですが、どちらも主導権を握りたいので譲らず、中国語でいうところの「合作」、双方の連携は、もう無理だという見方が大勢を占めていました。

が、もう候補者届け出の期間(11月20日から24日まで)が迫る中、双方の「チキンゲーム」は限界を迎えました。15日、候補の一本化で電撃的に合意したのです。

国民党のシンボルカラーが「藍」、民衆党が「白」であることにちなんで、「藍白合作」と呼ばれています。かつて日中戦争で国民党と共産党が争いをやめて手を組み、共に日本軍と戦った「国共合作」を連想させます。
民進党のシンボルカラーは「緑」なので、「藍」&「白」vs「緑」という構図になりました。
そこに郭台銘氏も加わるので、全体としては三国志のような… やや大げさですかね。

民意に決めてもらう

頑として総統候補の座を譲ろうとしなかった「藍」と「白」が合意できたカギは、総統候補を決める方法にありました。日本なら最後まで派閥の長らが密室で談合し続けるでしょう。しかし、国民党と民衆党は世論調査に委ねることにしたのです。
11月7日から17日までに公表された各種の世論調査の結果を(世論調査の)専門家たちが精査し、そこで出た結論を基に18日に総統候補を発表するということです。
具体的には、世論調査の結果次第で、国民党の侯友宜氏と民衆党の柯文哲氏のどちらかが総統候補になり、もう片方が副総統候補にまわります。日本だとちょっと考えにくいですよね。ですが、例えばアメリカ大統領選でも世論調査で支持が伸びない候補は撤退していくなど、世界的にみれば、候補者の調整に世論調査が大きな役割果たすケースはあります。

合作の裏に中国?

と、ここまで読まれると「さすが民主主義が機能している台湾」との感想も漏れそうですが、台湾での受け止めはそうスッキリとはしていません。
この「藍白合作」は、裏で中国が糸を引いたのではないかという見方が民進党側から出ているのです。
ポイントは、合作を仲介したのが馬英九(ば・えいきゅう)前総統だということ。

国民党の馬英九氏は、総統時代、非常に「親中派」のスタンスをとったことで知られています。台湾経済のためだというロジックで中国に接近し続けました。それは確かに経済を後押ししたものの、「自分たちは大陸の人たちとは違う」というアイデンティティーを持つ若い世代から猛烈な反発を受けます。最終的には「ひまわり学生運動」となって若者たちが立法院(議会)を占拠し、国民党の退潮に直結しました。

その馬英九氏が、北京の意向を汲んで今回の「藍白合作」を取りまとめたというのが民進党の主張。
状況証拠(?)は、あります。
今年3月、馬英九氏は中国大陸を訪問しました。台湾の総統経験者では初めてです。

大陸に滞在中、馬英九氏は台湾と中国は「いずれも中華民国であり、中国だ」といった発言を繰り返しました。「一つの中国」という大原則を掲げる中国共産党はもちろんもろ手を挙げて喜び、台湾ではかなりの物議を醸しました。

また、台湾の週刊誌「鏡週刊」は、馬英九氏の事務所(「馬英九基金会」)の幹部が11月2日から5日にかけて北京を訪れていたと伝えています。
世論調査の推移をみて、習近平政権が「このままでは『反民進党』陣営の票が割れて、大嫌いな民進党が政権を維持する」と苦虫を嚙み潰したような思いでいたのは間違いありません。そこで中南海が「馬英九基金会」を通じて今回の合作に介入した…と民進党は見ているわけです。

現時点で真相は分かりません。
ただ、もともと世論調査に依拠する方式に関しては、民衆党が支持、国民党は反対でした。その国民党を説き伏せるという「寝技」めいた芸当が可能であったのは、国民党長老の馬英九氏をおいて他にいなかったとはいえそうです。

最後に、台湾情勢をめぐって、日本では民進党を「独立勢力」とみなして不安を強調する向きがあります。台湾有事の恐れから逆算しての見方なのかもしれません。
それはやや短絡的ではないか…とモヤモヤした思いでいたところ、台湾に精通するジャーナリスト・作家/大東文化大学教授の野嶋剛さんがnoteでそうしたモヤモヤ感を分かりやすく解き明かしていたので、ご紹介します。お時間があれば、ぜひご一読を。


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