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令和5年予備試験論文式試験民法答案

第1、設問1
1、BのAに対する本件請負契約(民法(以下略)632条)に基づく報酬請求権としての250万円支払請求は認められるか。
(1)たしかに本件請負契約は締結されているし、本件損傷により甲は修復不能となっていて(412条の2第1項)、かつこの本件損傷はAが甲を屋外に放置するといった不適切な方法で保管したことによるもので、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」(536条2項前段)に当たる。
 したがって「債務者は、反対給付の履行を拒むことができない」ため、上述のBのAへの請求は認められるようにも思える。
(2)なお、本件損傷が生じたのは本件請負契約締結の前であると考えられ、本件請負契約締結時点においてはすでに甲は修復不能であったが、いわゆる原始的不能は契約の有効性に影響を与えないため、これをもって本件請負契約が無効だとするAの主張は失当である。
(3)しかし、Aは甲が修復されていない以上報酬を支払うのは不当である旨主張している。
ア、上述の536条2項前段により、BはAに対して報酬支払を請求できる。
イ(ア)しかし、536条2項後段は、「債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債務者に償還しなければならない。」とする。その趣旨は、危険負担についての両当事者の実質的な公平を図ろうとする点にあると考えられる。
 また、不当利得制度(703条)や不法行為制度(709条)からして、債権を全額行使させるのが信義則上不公平(1条2項)で許されないこともある。
 したがって、536条2項後段に従い、請負契約が履行不能となったことで注文者が反対給付の請求をできないで、請負人が一方的に報酬請求をなし得るときでも、その範囲は自ずから限定されるべきもので、請負人は報酬の全額は請求できない。
(イ)上述の通りたしかに本件ではAの不適切な扱いにより甲は修復不能となり、Bは本来報酬全額を請求し得る。しかし、Bは甲の修復不能により、甲を修復する債務を免除された事となっている。すなわちその分の利益をAに償還すべきである。具体的には、報酬250万円の内、材料費等としてすでに出費してしまっている40万円を除いた、210万円はAに償還すべきである。
 言い換えるとBは40万円の限度で報酬を請求できるにとどまる。
2、以上より、BのAに対する請求は認められるが、それは40万円の範囲で認められるにとどまる。
第2、設問2(1)
1、DはCに対して所有権(206条)に基づく返還請求権としての乙の引渡しを請求することができるか。
(1)たしかに乙は現在Cが占有している。
(2)では、Dに乙の所有権は認められるか。
ア、たしかにDがBから乙を購入した(555条)時にはすでにBの販売権限は消失しており、DはBと他人物売買契約(561条)を締結したにすぎないこととなる。そのためDは所有権を有しないようにも思える。
イ、では、Dは乙を即時取得(192条)しないか。
(ア)192条の「占有」には、外観上の変化を伴わない占有改定(183条)を含まない(判例同旨)。
(イ)本件でDはBと乙の売買契約をした後、Bが乙をDのために保管することとして、占有改定による引渡しをしているにすぎない。
 よって192条の「占有」が認められず、Dは乙を即時取得できない。
2、以上より、Dは乙の所有権を有さず、上述の請求をすることはできない。
第3、設問2(2)
1、DはCに対して所有権に基づく返還請求として乙の引渡を請求することができるか。
(1)現在乙はCが占有している。
(2)たしかに、設問2(1)同様、Dは即時取得もなし得ず、乙の所有権を有しないようにも思える。
(3)ア、もっとも所有者CはBに本件委託契約で乙の販売権を与えており、「代理権を与えた」と同視できる(112条1項)。
イ、また、BとDの契約は本件委託契約の範囲内のものである。
ウ、さらに、Dからして、Bが乙の販売権限を喪失したと疑う事由は存せず、DはBの販売権限喪失につき善意無過失である。
(4)よってDは112条1項の適用ないし準用により保護され、乙の所有権を取得すると考える。
2、以上よりDの上述の請求はすることができる。

以上

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