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地域の力を信じ、検証し続ける

政令市移行10年を迎えた熊本市が、「今後どうあるべきか」を考える時、私は政令市を目指そうと近隣市町村に合併を働きかけ始めた『スタート地点』に立ち返ります。「合併して人口が70万人を超えなければならない」という条件が、当時、政令市を実現するために越えなければならない厚い壁でした。

熊本市長に就任直後、合併特例法が定めた合併の期限が迫っており、可能性のある市町村議会での議決や住民投票の結果に期待しました。しかし、最後の益城町での住民投票も含め、熊本市に突き付けられた結果は全て「NO」。「単なる数合わせ」「政令市になるために利用されるだけ」「財政的に不安のある熊本市とは一緒になりたくない」等といった辛辣な言葉の数々を浴びることになりました。

確かに、それまで近隣市町村との共同事務や具体的な連携事業などもなく、合併協議ができるような関係ではありません。そこからの再スタート。財政を立て直し、近隣の市町村へ足繁く通い、都市圏域の市町村長が揃った協議会を設置し、都市圏ビジョンを策定。「そのビジョンを実現するためには政令市も必要」と協議会の総意を得ることができました。

実際に他の地域と比較する場合には、熊本市単独で他都市と比較するより、都市圏として他の都市圏と比較した方が、熊本市(魅力が高まるのが、市なのか圏域なのかで追加の有無を検討ください)の魅力と力強さが明らかに高まります。「政令市移行は目的ではなく手段であり、その潜在的な部分を引き出すために必要だ」と改めて心に誓いました。

具体的な合併協議で挙がった「熊本市の周辺部になるために、目が届かなくなるのでは」「行政が遠くなるのでは」などの不安を払拭するためにも、丁寧に協議を進めました。真っ先に熊本市との合併に手を上げてくれた旧富合町との協議。同町の人口は1万人に満たず、合併しても70万人に届かないことから「もっと他の市町村を探しては」との指摘を受けることもありましたが、熊本市の合併に対する姿勢を、富合町以外の近隣市町村にも示す必要がありました。

協議を進めながら再認識したことは、「合併される側の住民の不安は、合併を繰り返し政令市に手の届くところまできた熊本市の住民が現在抱える不満でもある」ということ。「政令市は合併して市域がさらに広がるが、新たに設置される区役所を拠点に、住民にもっと近い存在でなければならない」そう心に深く刻みました。そして富合町に続き、城南町、植木町との合併が成就し、5年間延長された特例法の期限ギリギリに全国で20番目、最後の政令市が誕生したのです。

改めて「熊本市が今後どうあるべきか」を考えると
「市民にとって信頼される身近な行政を目指す」ことを基本に
「もっと都市圏での存在感を高め、圏域に共通する課題解決や魅力の向上のためのリーダーシップを発揮する」
その2点に集約されると考えています。

今後10年、20年を見据えると、人口減少と都市部への集中の流れは続くでしょう。熊本県内における熊本市や市周辺への集中はさらに進み、格差は広がることになります。そうなれば熊本都市圏では都市的な課題が、それ以外の地域では過疎的な課題が深刻さを増すことは必然。それらの課題は市町村の境界を越え、単独での解決は難しくなる一方です。

これまで我が国の歴史では市町村合併を繰り返すことで対応してきました。今後もそれを続けるのか、私はそれ以外の道を切り開いていく必要があると考えています。市町村の境界を越える広域的な課題に誰が向き合うのか、人口減少の止まらない市町村を誰が補完するのか、政令市10年の節目に検証することは、その困難な課題に向き合うことだと考えています。

都市圏においては政令市が広域的な役割を果たす一方、県がそれ以外の地域の補完的役割や広域調整の力を発揮することで、時代の変化に対応した柔軟な行政組織となり、全体を最適な姿に近づけていく、そのような方向が望ましいと考えています。

まだ「今後どうあるべきか」の答えには不十分なようです。
災害や感染症など、不測の事態が発生することがありますし、今後AIやDX等の技術革新も加速することになります。課題や条件は時流とともに変化しますので、解は一つではないのかもしれません。政令市という手段が絶対でもない。ただ、課題を洗い出し、検証し、答えを探そうとすることが、地域を強くするものと信じて止みません。

地方分権が聞かれなくなった現在も、私は地域の力を信じています。改めて、政令市という大都市制度を考えることは、市町村制を考えることであり、都道府県制を考えること。これからの私たちの暮らしを考えることであり、地域の将来を考えること。ひいては、この国の在り方を考えることでもあります。これが今回の検証を大事にしている理由です。これからも検証を続けていくつもりですので、引き続き皆さんのご意見をお聞かせください。

熊本日日新聞では、対談の様子をYouTube上で公開しています。
ぜひ、皆さんも動画を見てご意見をお寄せください。

【前編】熊本日日新聞4月12日朝刊掲載記事
https://youtu.be/0GtrdZvYuqs

【後編】熊本日日新聞4月13日朝刊掲載記事
https://youtu.be/TaP5QBytHOc

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