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米国で再燃~人工妊娠中絶の問題

来月11月には、米国でバイデン政権の今後を占う中間選挙が行われますが、あることをきっかけに、劣勢が予想されていた民主党に追い風が吹いてきたそうです。そのきっかけとは『人工妊娠中絶の問題』。

6月29日のnote【日本は『分断しない社会』なのか?】
https://note.com/s_kohyama/n/nf6f33a66547cでもとりあげましたが、米連邦最高裁判所が今年の6月24日、人工妊娠中絶に関する『ロー対ウェイド判決』を覆す判断をしました。『ロー対ウェイド判決』とは、それまでアメリカで違法とされていた人工妊娠中絶を『女性の権利』と認め、中絶を規制する州法を違憲とする1973年の判決です。中絶を規制するかどうかは、憲法上の問題ではなく、それぞれの州の判断に委ねられるということを意味し、最高裁での判断を契機に州ごとに中絶禁止法が施行され、8月1日の時点で中絶を原則禁止したのが9州、今後も増える見込みとのこと。それが、にわかに中間選挙の争点に浮上してきたものです。

全ての女性が中絶擁護派というわけではありませんが、今回の選挙では女性票が鍵を握るともいわれています。アンケート調査によると、人工妊娠中絶の原則禁止と答えた人は米国民全体の約3割。そのことが民主党にとっての追い風になっています。中間選挙と同時期にペンシルベニア州の州知事選挙も行われます。同州は現在、議会は中絶反対派が多数を占めているものの、州知事が擁護派であるがゆえに、知事として拒否権を発動することで州法に禁止する規定を盛り込むことを食い止めている地域です。その知事選挙の様子も報じていましたが、反対派の州知事候補の「命を守るための戦い」との訴えは、私には受け入れ難いものであり、中絶の是非が選挙の争点になること自体に違和感を禁じえませんでした。

デモの現場などでは「中絶は女性の権利だ」「自分の体のことは自分で決められるべき」という中絶擁護派と、「命は受精の瞬間から命」「中絶は殺人」という中絶反対派が、激しく言い争います。中絶を行う病院の前では、病院に来る車を中絶反対派が妨害したり、病院に入ろうとする女性に対して中絶を諦めさせようと説得したりすることもあるそう。選挙が近付くにつれ、さらに激しさを増すのでしょう。

州内で中絶できる病院がなくなり、最も苦しむのは、金銭的にも物理的にも州外に移動することが難しい貧しい女性たちであるともいわれます。ある医師がこんなことを語っていました。「中絶はなくなりません。なくなるのは、『安全な中絶へのアクセス』だけです。本当に助けを必要とする人を助けることができないのは、医師としてもどかしい」この医師が話すように、中絶が禁止されると、近くに中絶できる病院がなくなり、母体の命が危険にさらされるケースも出てくる恐れもあります。

胎児にも命が宿っていることは否定しませんが、だからといって「命を守る戦い」はあまりにも短絡的過ぎます。国外の選挙ではありますが、米国民がどのような判断をするのか、結果に大いに注目しています。

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