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成瀬巳喜男「めし」

かえるちゃん成瀬巳喜男も原節子も好きなんだけど、「めし」だけは無理。
原節子の髪型チリチリで似合ってないし、しんねりむっつりとしたヒステリックなキャラ設定にも共感できるところがない。
原作は林芙美子の遺作なんだそうだけど、林芙美子だっていつも100%の仕事するわけじゃないよね、どんまい。
あと島崎雪子扮するさとこちゃんがSの字のイニシャルついた服着てるのも趣味悪いと思う。
とまぁこのくらい苦手な作品なんですけど、それをうっかり人前で言うとすごい勢いで叱られるんですよ。
曰く、戦後成瀬の復帰作だ、とか、キネ旬年間第2位だ、とか。
かえるちゃん別にキネ旬に権威感じてないからそんなこと言われてもハイハイなんですけど。

できのいい作品とは思わないけど、いいところもたくさんあります。
上原謙が演じる証券会社のサラリーマンが靴を盗まれて右往左往するシーンは好きです。
戦後の日本人は他人の靴を盗むくらい心が荒んでいたんですね。

主人公夫婦が住む長屋や小路は全部セットで作られていたのに驚きました。
成瀬はロケ嫌いだそうで、大ヒット作「浮雲」の屋久島シーンもセットで撮ったそうです。

で、長屋のご近所さんで、さとこにちょっかい出すイカレポンチの青年が「オー!ミステイク!」って言うシーンがあるんです。
ここは通俗的な描写を控える成瀬にはめずらしい演出ですね。
このオー!ミステイク!って言うのは当時の流行語で、もともとは日大ギャング事件と言うのがありまして、20歳そこそこのアメリカかぶれの山際青年がガールフレンドのまあまあいいとこのお嬢さんで19歳の佐文って娘さんを共犯にして強盗事件を起こし、捕まった山際が逮捕時に言ったのがオー!ミステイク!なんです。
この事件はアプレゲール犯罪として多くの人の耳目を集めたので、成瀬の映画に「オー!ミステイク!」が登場した時には観客が沸いたと想像します。

笑うポイントもあるし大阪見物のシーンもあるので比較的活発な作品と思うんですけど、やっぱり原節子のねちっこさと二の腕の太さがかえるちゃんには無理なんです。

成瀬の映画でかならず脇に出ている中北千枝子と言う貧相な感じの女優さんがいます。
こう言う脇にかならず出す役者さんには監督の好みがはっきり出ます。
たとえば小津安次郎なら三宅邦子です。
三宅邦子は美人ではありませんが聡明さと清潔感が際立っていて、小津らしい好みだと思います。
対して成瀬の中北千枝子と言う選択も「らしいな」って思うんです。
地味で圧のない日本的な風貌の女優さんなので、どんな設定にも馴染むんです。
「めし」ではワンシーンのみの出演となっていますが、原節子が行った職安の前で戦争未亡人の中北千枝子と立ち話をするシーンがあります。
原節子もこのシーンでは我を張らず共感力を高めていて感じのいいシーンです。

無理と言ってもトラウマになるほどのひどい描写がある映画なわけでもないので何度か見てはいるんです。
けどやっぱりラストの汽車の窓から書いた手紙をちぎって捨てるシーンで、この女学習能力ないな、ってがっかりするんです。

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