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『小さな家の思想-方丈記を建築で読み解く』文春新書を出して⑧長尾重武

書評については、新聞、週刊誌に掲載されるものが、出版の初期に出ますが、雑誌はとなると、少し遅れて、これからも出ることでしょう。そうしたなかで、『建築技術』8月号(2022.7.15発売)の書評欄に、短いものですが、早くも取り上げられました。雑誌としては特別早いのに注目です。

『方丈記』の有名な書き出しが掲げられて、鴨長明の『方丈記』で無常を学んだ、と書かれています。そして、

「建築史では、現代でも見ることができる寺院や神殿などの大建築が語られてきた。本書では、古代以来、日本にある庵のような「小さな家」の歴史に着眼し、「小さな家」とは、人間が生きていくための最小限の家で、特別なものではなくありふれた家である。しかし、住む人が明らかな目的を持つとき、「小さな家」は住む人が自分の人生で本当に必要なものを形にしたものであり、そこで実現可能な生き方をあらわすという。」さらに、

方丈庵を中心に、江戸期の松尾芭蕉の芭蕉庵、良寛和尚の五合庵、葛飾北斎の画室、ソローの森の家、現代の戦後日本の最小限住宅や東孝光の塔の家まで俯瞰している。豊かさを読み解く最良の書。」このように締めくくっています。

本のタイトルにある通り、『小さな家』について考えることが、本書の重要なテーマでした。古代から登場するたとえば「庵」とは何か、建築史の本ではほとんど取り上げられていません。寺院や神殿、宮殿などの記念碑的な建築に比べれば、全くとるに足りないものにすぎません。

しかし、方丈庵ついて調べていくうちに、それが時代の思想・宗教などの基底となる心性に導かれていきました。建築としてはどんなに小さくても、その時代の深い思想へと掘り下げられていく面白さを体験したのです。言い換えれば、建築は単なる箱だとしたら、つまらないではありませんか。

今回、鴨長明が重視してきた「数寄」という概念で見ていくと、その後に、「数寄」のために作られた建築の系譜が見えてきました。それは茶室にまで連なっていきます。あるいは江戸期のいくつかの庵が浮かび上がり、外国に眼を転じると、アメリカ開拓時代のソローの森の家、戦後の最小限住宅などが注目されます。しかし、この辺りの系譜についてはまだラフスケッチの域を脱していません。さらなる探訪が必要であり、深化が要求されると思っています。


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