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習作1(その19):北の恋

短文を書きました。小説の一項になるにはどうすればよいかアドバイスをください。

北の恋

海が荒れて昆布漁に出られない日は、日がなやることがない。男3人、住み着いたもと空き家の中でごろごろすることになる。
漁がない日は、夕方から町の寄り合いが開かれる。漁に出られない憂さを晴らさないとやってられないということだろう。
寄り合いの名物は、漁港の奥様達のコーラスグループだ。中島みゆきが人気のようだ。
私より前にこの町に来ていた男。そうそうまだ、名前を伝えていなかった。相川昭夫さんという。年齢は、私と同じくらいか。国立劇場の経理をしていたという人だ。昭夫さんは、このコーラスが楽しみなようだ。だから、漁がない方が彼にとっては良いようなのだ。昭夫さんは船に乗って昆布を刈ってくるわけではないので、漁はあってもなくてもどちらでもいいのだ。

赤鬼の方は、自分の存在意義を示すことができるので、漁が楽しみなはずだ。私は漁にはいかないし、コーラスも聞いたことがないので、どちらでもない。
「歌ってのはいいね」
昭夫さんが言う。
「心が洗われるんだよ。」
3人でやることもなく、長い1日を過ごして、寄り合いに向かった。小さな町の集会所が会場だ。鍵はかけられていない。普段は使われていないので、ブレーカーを入れるところから始まる。中は長テーブル8卓と丸椅子40客程。床はコンクリートのままだ。酒やつまみは、各人の持ち寄りだ。
昭夫さんは、とても楽しそうだ。われわれも途中の商店でビールやつまみを買ってきた。コンビニではない。何でも打っていそうな町の商店だ。
特に乾杯もなく、集まった人たちが、呑みはじめ、語り始めた、小一時間経った頃だろう。コーラスグループが集まってきた。リーダー格の人が発声を合わせていている。8人くらいいただろうか。平均年齢はわからないが50歳代から60歳代がほとんどと見える。みな譜面を持って立っている。よそ行きのセミフォーマルな装いだ。
一人小柄な女性が、伴奏にキーボードを弾くようだ。
昭夫さんはこの伴奏の女性のそばに陣取っている。
私は後ろの方で控えて座っていた。
赤鬼も私のそばに腰を下ろした。
観客は20人ほどだろうか。
『時代』で始まり、『地上の星』、松田聖子の『瑠璃色の地球』と中森明菜の『飾りじゃないのよ涙は』を挟んで、中島みゆき『糸』に戻った。
昭夫さんは、伴奏の人のそばで楽しげだ。
アンコールになり、『翼をください』、再び、中島みゆきに戻って『麦の歌』で締めくくられた。
昭夫さんは涙を流しているようだった。


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