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ヤジ排除についてのもう一つの証言

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 さて、これまで僕の文章も含めて、ヤジ排除について3つの証言を載せてきたが、ここでもう一つ追加で、文章を紹介したい。

 以前、「ヤバいおじさん」の話でも出てきたC氏こと、桐島さと子の文章である。おそらく、これまで紹介してきたものの中で、もっとも「ゴリッ」としている内容と思われるが、ヤジの件について好意的(つまり「ヤジ飛ばしたのは良いことだ」)、ないしは排除に批判的な人の表現に対しても、一部苦言を呈しているところがある。単に「安倍 VS 市民」という枠を超えて、「日本社会の歴史性」みたいなところを踏まえて読むと、論点がクリアになってくるかもしれない。

以下、転載
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 安倍晋三が札幌に来るというので、演説場所の札幌駅前と三越デパート前をはしごすることに決まったのは、当日(十五日)の昼頃のことだったと思う。
 北海道民からすれば、やれ国会だ首相官邸だといっても、海の向こうの出来事だ。そういう所に住んでいる私としては、首相がじきじきにお見えになるとなれば、祝日だろうが、家でおとなしくしてなんかいられない。

演説の現場に行く

 行って何をするのか。もちろん、ただ黙っておとなしく安倍の話を聞いてやるつもりは毛頭なかった…とはいえ、どのタイミングで何をするのかといった具体的な計画も無かった。というのは、現場に行けば我々と似たような人たち(安倍の言う「こんな人たち」)が見つかるだろうと思っていたからだ。さらに、このような想定を大杉氏たちとも共有しているものだと、これまた勝手に思い込んでいた。ところが駅前に実際行ってみると、そういった集団は見つからなかった。油断した。

 のちに判明したのだが、なんと私だけでなく全員が、各自の思い込みを「みんな共有している」と各々なんとなく考えていたらしい。たとえば大杉氏は、「安倍首相が演説を始めたらみんな一斉にヤジを飛ばすだろう」と思っていた。私たちはそんな大切なことまで一切共有することなく、あの札幌駅前にいたのだ。なんというずさんさ!

 ともかくも周知のとおり、大杉氏は登壇した安倍に向かい独断で「安倍やめろ」と叫んだ。そのとき私は大杉氏のうしろに立っていた。さらに私のすぐうしろには、安倍政権を支持する旨のプラカード(スタッフが配っていたもの)を持った、屈強そうな若年~中年男性がいた。恐怖。この日に限ってピアスをつけてきたことがにわかに後悔された。「もし後ろから頭を横に殴られたら…ピアスの針がいいところに刺さるな…」 想像し、身がすくむ。私は、この国の民衆は条件さえ整えば「やる」だろう、と考えている。特に、相手を「(普通の)日本人」とみなさないときには(※1)

(※1)1923年の関東大震災の直後にこの国の民衆は、思い思いの武器を持ち、手分けして、朝鮮人を中心に大量の人間を殺した。社会主義者も(とくに非常時には)殺してもいい・殺すべきと考えられていた。

   だから、安倍晋三が演説カーに登って来た時、私はもはや安倍を見ていなかったし、話も聞こえていなかった。上の空というやつだ。

不透明な「お願い」

 我にかえったのは、「安倍やめろ!帰れ!」という大杉の声を聞いたとき。その瞬間、ドドッと音を立て、何者かの集団が私の後ろ側から割り込んできた。一緒に来ていたもう一人の友人(M氏とする)も、私のさらに後ろに回り込むようにして大杉を守るような体勢を取っていたが、数の差も力の差も圧倒的だった。私は、衝撃に備えて目をつむり、大杉の腹のあたりに両腕でしがみついた。割り込んできた集団が警察だろうが民衆だろうが、一人きりで持って行かせるものかと思ったから。そのまま我々は東の方角に引っ張られ、そこでようやく相手が警察だということがわかった。もみ合うなか、私の眼鏡が足元に落ちた。拾い上げる余裕などなくどんどん前に引っ張られていくし、あたりは混雑しているし、後方からはまだ警察が歩いてくる。何年か前に奮発して買った眼鏡。私は心の中で「お世話になりました…」と言った。

 もといた場所から二十メートルほど離れたところまで来たとき、やっと強い拘束が解かれた。すかさずプラカードをリュックから取り出し頭上に掲げ、大杉氏の「安倍やめろ」コールに唱和していたら、「桐島さん!」と、後ろから声がかかった。落として諦めていた眼鏡を、M氏がいつのまにか拾ってくれていたのだ。内心かなりうれしく、しかし忙しい(?)ので簡素に礼を言い、かれを見やると、なんだかニコニコ…というか、ニヤニヤしている。まったく緊張感のない人だなと思った。何日か後、「あのときニヤニヤしていたよね」と聞いたら、「こわかったからだ」と言っていた。同感だ。

 行きついた先でも、大杉氏が「安倍やめろ」と言うたびに警察がドヨドヨとした。口々に、「静かにして」「叫ばないで」「落ち着いて」「みんなびっくりするでしょ」などと言う。私はこんな状況で「安倍やめろ」に唱和することが妙に楽しくて、興奮していた。そのせいですっかり忘れていたが、こういうときには誰かが警察を撮影しなければならないのだった(警察の不当な行為を記録または抑止するため)。それに気づいてM氏のほうを振り返ると、相変わらず(恐怖で)ニヤニヤしている。私が撮るしかない…。急いでプラカードをリュックにしまい、携帯のカメラで動画を撮り始めた。

 ほどなくして、我々三人と警察たちでゾロゾロと信号を渡り、札幌駅南口前からさらに南側の通りにある駐車場の前に来た(連れてこられたのだったか?覚えていない)。そこでも、大杉の間欠的な「安倍やめろ」と警察のドヨドヨが繰り返されたが、その合間に、「どんな法的な根拠があってこんなこと(強制排除)をするのか」といったような議論もあった。警察ははっきりと「強制ではなくて、お願いに過ぎない」と答えた。もちろん「お願い」と言いつつ実力を行使するので、まさに無理が通って道理が引っ込んでいた。

 私も「誰のどういう命令でやっているのか」と、目の前にいた一人の警官に聞いてみた。いわく「命令とか、そういうことじゃない」と。私は驚いた。はたしてそんなことがあるだろうか。警察は組織であって、組織のメンバーが制服を着た状態で動くには、基本的に、決定なり指令なりが要るはずではないか (※2)。ちなみにその警官の腕には、北海道の形のなかに丸、そのなかに「機」と書かれた腕章がついていた。青っぽい、いわゆる「お巡りさん」的恰好をしているものの、かれは機動隊なのだ。機動隊ならなおさら、何の指令にも基づかない不規則な行動は取らないと思う。

(※2)それに、最初の排除の瞬間の映像を見ると明らかだが、大杉が叫び出してから拘束しに来るまでがあまりにも素早すぎる。何のためらいもない。拘束するかどうかを含めて現場でいちいち判断していたら、あんなにも素早く動けるものだろうか?

 余談だが、かれの態度は、私に対する敬意をーー大杉へのそれとくらべて相対的にーー明らかに欠いたものだった。大杉が人間で、私はそのまわりでキャンキャン吠える飼い犬。そうみなされていると、はっきり感じた。「国家の犬」は、「主人と犬」以外の関係のありようを知らないのかもしれない。もちろん、女の私が軽くみられるということもよくあることだ (※3)

(※3)一方、見た目が男性だと、明確な意思をもって行動していると見なされる。それゆえに職質に遭いやすかったりするのだろう。ところで「増税反対」と叫んだ女性は、警察に「お姉さん、酔っ払ってるの?」と言われたらしい。大杉に対しては「反安倍の活動家」の待遇、「増税反対」の女性に対しては「酔っ払い」の待遇。主張したのが女であれば、真剣に受け取ってもらえないばかりか、精神状態に異常がないかどうか確認されるのである。「ただちに犯罪者扱いされない」という点をもって、これを女への優待だと思うなかれ。同じシステムが、女性が何かの被害を訴えた時にも発動する。真剣に聞き入れられないのだ。ちなみに学問や文学を志した女性も、ほんの少し前までは本当に精神病院に入れられていたし、今でもフェミニストは「ヒステリー」と揶揄されている。

 ちなみにこのタイミングで、不審な人物に恫喝されたのだった。「オラァ!何撮ってんだ××ヤロー!撮ってるんじゃねえぞ!」という怒声とともに、花のバッジをつけたスーツの男に、スマホを、それを持つ私の手ごと、グイッと強く引っ張られた。突然のことで面食らったが、後から考えると相当怖い。だが、前回の記事でも触れられているが、彼は警察どころか自民党関係者かもしれないのだ。さらになにか情報があれば、教えて下さい。

 さて、三越デパート前での二度目のヤジ、その後のてんまつだが、それらについては大杉 M氏 の手記に詳細だし、私の手で付け加えるべきこともあまりない。そのかわり、あとは好きなことを書かせていただくとしよう。

【プラカード】

 出かける前にプラカードを作ることにした。が、はたして何を書こうか、迷っていた。まずは正攻法で、安倍に対して言いたいことが何なのか、頭のなかに呼び出してみる。意識していないと忘れてしまうほど大量で矢継ぎ早の、あれこれの不祥事や失言群。特定秘密保護法の強行採決。安保法制の強行採決。「TPP絶対反対」という大嘘。「アンダーコントロール」。増税。マイナンバー。みんなの開戦気分を高めたJアラート。国会で「ニッキョーソニッキョーソ」とヤジを飛ばしたときの、楽しそうなあの顔!などなど、など。

 これらのことを総合して、何かうまいことを言ってやろうと、始めは思っていた。しかし私はその試みをすぐにやめてしまった。そもそも、知恵を絞って文言を考えてやる義理がこちらにあるか?ない。私は画用紙に「やだ」「うんざり」と大きく書き、カードケースにおさめた。この安倍に対する二つの渾身の(投げやり)メッセージはけっきょく安倍の前で掲げられなかった。そのかわり、強制排除された先で掲げたときの写真が、いくつかのメディアで報道された。それをみると、まるで大量の警察に囲まれていることにたいして「やだ」「うんざり」と感想を述べているようだ。それはそれで適切だ。

【良心的な皆さんへ】

 この件で、たくさんの良心的な人々が警察のやり方に対して批判的なtweetをしていた。事件から何日も経っていない、まだこのニュースがフレッシュだったころは特に、フォロワーが千人単位でいるような人気アカウントもこれについてつぶやいていた。ただし、その中には個人的に苦言を呈したい論旨のtweetも多くあった。「このままでは日本が中国や北朝鮮のようになる!」というものだ。私はtwitterアカウントを非公開にしているので、そのようなtweetに批判のリプライを送れなかった。せっかくだからここで意見を述べたい。

 「このままでは日本が中国や北朝鮮のようになる!」というのは、まるで日本において、人々の政治的意見表明の自由が、現時点まではじゅうぶんに保護されてきたかのような表現である。だが、実はそんなことはないのだ。

 日の丸掲揚・君が代斉唱(の強制)に反対した教師たちが、それによって不利益な処分を受けることがある。街頭で天皇制を批判した人たちを襲撃した右翼の人たちを、デモ警備の警察がほとんど放っておいたという話も聞いた。さすがに「〇〇の思想を抱いた」という名目では投獄できない代わりに、特定の人に対し、誰もがやっていそうな軽い法律違反(例えば賭け麻雀や、運転免許証の住所を変更し忘れていたなど)を罪として適用することによる事実上の言論・思想弾圧、これもまたずっと存在するものだ。

 日本社会のこのような陰湿な側面は、たまたま巻き込まれる機会でもなければたいていの人にとって一切見えない(設計になっている)。だから、今回のことで「日本がこんな国になってしまった」とびっくりすることそれ自体を糾弾するつもりはない (※4)。そのかわり、「日本の言論の自由はずっとこの程度だった(※5)」という大変不愉快な事実に目を向け、新鮮な「驚き」ではなく、芯まで煮えるような「怒り」を深めてほしいと思う。瞬間的「驚き」でなく歴史的「怒り」を。それは、慣れることとは異なる。

(※4)だが、いろんなことを良く知っているはずの知識人が自分の驚きを過剰に新鮮なものとして描写するのは…やはり気になる!
(※5)もちろん私自身、安倍政権になってから状況がより酷くなっていると感じる節も大いにあるが。

 さて今回のヤジ排除事件は、一般的な独裁国家のイメージによくマッチする、悪い意味でキャッチーな映像がたまたま残った。「日本なんてこんなものだろ」と普段から思っていない人にとってはショッキングな映像だったろう。それで、独裁国家のアイコンたる中国や北朝鮮(以下DPRK)を、反射的に引き合いに出したのだろうと思う(はたまたそうではなくて、意図的にナショナリズム信奉者に媚びたのではないか?と思わなくもない )(※6)。

(※6)疑い過ぎかもしれない。憶測でしかない。ただ、けっこう前だが、AKBのことを「安倍の喜び組」と揶揄するのを見た。また、安倍政権のメディア私物化を批判するのに、DPRKの国営テレビのキャプチャ画像とNHKニュースか何かのキャプチャ画像を並べているのもよく見かける。リプライ欄をみると、結果的にはそれらのツイートはただ「朝鮮ネタ」ではしゃいでいるだけの人に(も)アプローチしている。そもそも日本人がDPRKを「異常な国」「怖い国」とネタにする資格があるだろうか。DPRKがどのような経緯で現在のような形になったのか、その歴史を知っていれば、とてもできないはずだ。

 たしかに、中国やDPRKにおいて、人々の言論の自由が大いに保護されているという話はまったく聞かない。しかし「自由の国」アメリカにも政治的弾圧が余裕で存在するように、基本的にどこの国でも、国家権力は、自由に物を考えて発信し仲間を増やしてしまう個人を恐れていて、だから抑圧する。だがたいていの日本人は、国家権力が自分たち(の自由)と敵対するとは思っていないようである(※7) 。おどろくことに、デモの主催でさえ「おまわりさんに感謝を」と言っていたりする。上にも述べたが、この場所日本だってけっこうハードな状況なのだ。いちいち他国を引き合いに出さずに、「言論の自由を国家に奪われてはいけない」と普遍的に、直截に言ってほしいものである。

(※7)メディア「とても信頼している」最下位の0.8% 信頼できるのは「天皇・皇室」「自衛隊」「警察」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20190717-00134578/

桐島さと子 a.k.a. 「C氏」
2019.08.01(木)

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