【コラム回】櫻坂46アートワーク展「新せ界」に学ぶ、美の演出論
東京という街が好きだ。
そんな私でも辟易してしまうほど、夜の街はゴミだった。
折を見て首都圏に越したいが、こうもタバコと雑踏にまみれているのを見ると
私が東京に抱いているのはただの夢なんじゃないかと思い始める。
それでも東京が好きで、懲りずに繰り出す。
空港の近い車社会の地方都市は、そんな東京と一定の距離感を保つという意味では
ある種いまの自分にぴったりの環境なのかもしれない。
さて、ネタバレ回避用のコラムはこの辺にして。
櫻坂46アートワーク展「新せ界」に行ってきました!
鹿児島住みの私、堂々の前日入りです。麻布の夜は怖かった。
ええ、大好きなんです櫻坂46。もっと言うと前身である欅坂46からのファンです。
最近ではJAPAN EXPOにて海外進出も果たし、名実ともに日本のトップアイドルのひとつになりつつあると言えるでしょう。
いや〜応援してきてよかった(何様)
この「新せ界」は彼女たちの活躍を支えたアートワーク、
すなわち衣装、舞台芸術、映像、写真、演出エトセトラの総合展覧会です。
私は今でこそイラストとコラムでnoteしてますが、元は音楽畑出身。
作曲や歌詞、それに基づいたダンスに着目することはあれど、
アートワークにはそれほど注目してきませんでした。ただああ綺麗だったなあと、心の端にうすぼんやり彩を残していく存在、アートワークなんてそういう役割、傲慢ながらそう思っていました。
いやとんでもない、色々覆った。
なるべく櫻坂を知らない人にも分かりやすく書きます。
どうしてホテルマンがnoteでアイドルのアートワークを語ってるのか、その辺もちゃんと触れるんでよかったら見てってくださいまし。
櫻坂46とは
内面を揺さぶる攻撃的なソングライティング・世界のTAKAHIRO率いる激しく一糸乱れぬダンスパフォーマンスと
グループ名「櫻」にも表される可憐で儚い女性らしさを併せ持つ
進化の止まらないアイドルグループです。
「新せ界」について
・衣装デザイン
・シングル表題曲MV
・一部カップリング曲MV
・アルバム表題曲MV
・CDジャケット写真
・アーティスト写真
主にこれらにフォーカスしたアートワーク展です。
内容の濃密さは勿論、特筆すべきはその展示スタイル。
とにかく練りに練られている。
この展覧会そのものが緻密なアートで、その世界の中に入っていく体験をします。
言うなればタイムマシンです。よくライブの宣伝文言で
「君たちは、歴史の目撃者になる。」
みたいなのがありますが、そういうんじゃなく本当に歴史の目撃者になります。
伝わるかなこれ。歴史の切り替わる瞬間ではなくて意図的に歴史を切り替えてきた瞬間たちの総合結晶を見るということです。
まずこの六本木ミュージアムという場所。
鳥居坂を上った頂点にあたる位置にあります。
この鳥居坂という名前こそが彼女たちの原点の原点。
改名前の欅坂46です。
展覧会の初めはその欅坂46の軌跡を描いた回廊になっています。
そこから一歩踏み出すと
壮観の衣装ブース!
整然と並んだトルソーが巨大な壁のようにも見えるし、
今昔の衣装をマジックミラー越しに隔てる演出が地層のようにも見えます。
ここからは撮影NGゾーン。
どこまで書いていいか分かりませんが書きます。私は撮影NGゾーンだけで2時間半溶かしました。
空間全てが櫻坂。ファン垂涎のエリアです。
そしてファンでなくてもものづくりに少しでも興味のある方には目を見張るような展示で溢れています。ものが産まれる過程を赤裸々に展示しているのです。
例えば一つのMVが出来上がるまで
・コンセプト会議資料
・演出監督のプロット(殴り書き)
・動画ラフ(殴り書き)
・大道具設計書
・ロケ地選考(=ロケハン)
・スタジオでのカメラリハ
などなどなどなどなど、、、
表に出ることは滅多にない資料がどっさりと山のように張り巡らされています。
しかもそのどれもが日本の最先端を走るクリエイターの携わったものばかり。
そう、一流のものづくりに五感で触れることができるのです。
眼福どころではありません。
しびれました。目眩がしました。酸素が薄くなりました。
胎の中にいるような暗闇でそんな個々のクリエイティブの胚に溺れていると、
突然視界が真っ白な布で覆われます。
幕をかき分けるように進み、開けたこれまた真っ白な空間へ出ます。ここが終点です。
それではそろそろ「特筆すべき練りに練られた展示スタイル」の種を明かしていきましょう。
※公式見解も主観も他者考察も入り乱れているので悪しからず
まずこの「新せ界」という展示は入口から出口までが一本の櫻の樹を表しています。
随所に散りばめられた「白」。
これは 根 です。
我々は養分や水分として維管束を上っていたのですね。
歴史がみちみちに詰まった非公開ゾーンは幹です。
なお幹にも根の名残がいたるところに展示されています。
櫻坂46にとっての根は、
欅坂46。
今では存在すらしないそのグループが、しかし確かに歩んできた道のりと注がれてきた愛が、すべての土台になっているのです。
そんな表現を根というオブジェクトに託し、まるで隠すかのように欅坂のアートワークをこれでもかと白い根の中に忍ばせます。
(言うまでもなく幻のアイドルの未公開アートワークはそれだけで骨董品です。それが全部足元に、床に、パネル裏に、散らばってます)
ラストの白い空間が枝葉です。
置かれた場所で咲く個々のメンバーが見えてくるエリアになってきます。
葉は光を受け取り光合成を行う器官。
であると同時に、葉そのものが色彩を持ち全体を彩ります。
枝葉を些末なことと捉えず、未来を担う最も重要なパートとして表す姿勢に
今後の櫻坂46の安心を見ました。
★このnoteの執筆中、
「新せ界」の公開終了後に、
「新せ界」会場を使った
櫻坂46パフォーマンス
映像が解禁されました。
撮影NGゾーンもばっちり
たっぷり映っています。
補完したい方ぜひ見てください。
ご覧いただけましたでしょうか?
最後に書かれた
「せ」の字。
視聴者側から見ると、、、
、、、「サ」!??
そう、つまりメンバーが描く「せ」界が
「サ」クラザカという形になり
我々に届くという構図!!!
展覧会タイトルの「せ」が
何故ひらがななのかについては
全く別の意図を示す解説が
過去にありました。
故に多くの展覧会訪問者が
この「せ」「サ」の仕組みに
気付かないまま千秋楽を
迎えたのです。
いや、もう、感嘆というか、
計算ずくの演出通り越して
オシャレです。粋です。
日本よ、世界よ、これが、ホンモノの演出 だ、、!!!!!!
演出の暴力だ!!!!!(荒ぶるオタク)
ホテルマンが推しアイドルのアートワーク展を見て感じたこと①
しばらくは上手く息を吸えませんでした。
もちろんファンだからより打ちのめされたというのはあります。
しかし何よりもいちホテルマンとしてとんでもない自省の念に駆られました。
これはアート”ワーク”展。仕事で本気でものづくりをしている人たちの姿を垣間見るものです。
となると、どうしても自分の仕事についても考えてしまいます。
ホテルだってエンタメです。
お客様を楽しませるホテルづくりを毎日真剣に考えています。
そして我々はプレーヤーとしてだけではなく全員がマネージャーとしても働くスタイルをとっています。
私はホテル演出家なのです。
1泊2日の滞在を一つの物語に見立て、そのストーリーを構築する。
星野リゾートではこれを「滞在の演出」と呼び、全スタッフで練っています。経営学的プロセスに則って議論を進めるのですが、ま〜これが難しい。
まず意見がまとまらない。
まとめたとてすぐ形骸化。
コンセプトを忘れ目の前のやりたいこと・売りたいモノに囚われる。
一応そのプロセスを伝授し導く役職にいるもんですから、比較的この辺りは真摯に向き合っているつもりなのですが、
それでも100%納得のいく演出を完遂するのは至難の業です。
それに比べていま見てきた「新せ界」は
プロの本気の「演出」。
"存在するもの全てに意味がある"
これに尽きます。
その意味は最初から存在するものではない。
紡ぎ、編み、在らせる。
本当に細かく
計算高く
論理的で
妥協のない
それでいて柔軟性があり
貪欲
エネルギッシュ
そういう作品づくりです。
知と才と情熱を、その場の全員が一丸となって絞りに絞った産物がそこにありました。
「演出」はかくあるべし、という大きな大きな背中を見せつけられた、
いや、その背中が迫ってきて背負い投げ仕掛けてきたぐらいの衝撃でした。
そんなわけで脳震盪寸前の自省の念がずぅっとへばりついて来るのです。
ホテルマンが推しアイドルのアートワーク展を見て感じたこと②
もうひとつだけ。アートワークの立ち位置について。
今まで素材(ここでは櫻坂46というアイドル)を表象し届ける為の仕事をアートワークと呼ぶのだと思っていました。
全ては櫻坂のためにと、祝詞を捧げる神主のような。
いいえ、むしろ逆です。
櫻坂46のメンバーがアートワークの意図を読み取り具現化する表現媒体なのです。
アートワークがこの世界の神。アイドルは巫女です。
実際にアートワーク展の解説中にも巫女というワードが頻繁に出てきます。
(そもそもアイドル=idol=偶像ですからね。神を模すものという語源に忠実であるとも言えます)
となるといよいよ、アートワークや演出という仕事がどれほど重要なものか
という話になってきます。
なんたって神ですから。
繰り返しますが、「新せ界」は日本の最先端を走り続けるプロのアートワーク業者たちの産物です。
アートワークの重要性を痛いほど理解し、誇りと責任を持って世に送り出す方々です。
秋元康氏を筆頭に、いわゆる大御所と呼ばれる方も多く携わります。
なるほど、そこは納得です。
そしてそんな環境だからこそ目立つ、
櫻坂46メンバーをはじめとする「若い」存在。
(ここには今回の「新せ界」にも大量のアートワークの種を遺していった振付師・TAKAHIROも含まれます)
そのパッションや感性、パワーも遺憾なく発揮され、神であるアートワークと呼応し作品が出来上がっていくさまが刻まれていました。
制作当時グループ最年少だった山﨑天の挙動でアートワークの方向性が変化していった、4thシングルジャケット写真の展示は特に印象に残っています。
あんまり歳を尺度にするべきではないんだけど、
自分と同世代の方々がこれだけのものを作っているのを目の当たりにすると
やっぱりまた自分を顧みてしまいます。
アイドルとは頑張る職業です。
アイドルが頑張る → 頑張るアイドルを応援する → 応援されて頑張る
これがアイドル経済の循環であり本質です。
なのでアイドルは頑張る姿をたくさん見せてくれるのですが、
ことアートワークに関しては完成品の美しさが全てを物語る。
特に櫻坂46はそういう世界観を大切にしています。
「新せ界」で泥臭い部分・未熟な部分・生々しい部分を公開した櫻坂46。
膨大な礎のもとに成り立つことを理解した上で完成品を改めて見返すと、
細部から滲み出るその本気度に圧倒されるのです。
美しい作品を具現するために。
努力する。
さあ、お前はどうだ?
背負い投げからの首4の字固めです。
ホテル空間の職人であり演出家であり役者でもある我々ホテルマンは
まごうことなき美の創出者です。
そうでなければなりません。
それ、できてる?
本気で美、作ってる?
この圧倒的な空間が、プロダクトが、パフォーマンスが、
すべてがそう問いかけてくる。苦しい。
いかに自分の頑張りが浅く、力が無く、研鑽も意欲も足りないか
それを突き付けられた気分でした。
(↑そして自分のひねくれ度にさらにへこむ)
ひとしきり落ち込んでいたら、同僚からメールが届きました。
お客様が私の接客に感謝の言葉を遺していったそうです。
まだどの感情の整理もつかないまま、少し熱くなった目頭を持て余しました。
喜びと驚きを、美をもって成す。
私はそれができる場所に居る。
はちきれんばかりに摂取した栄養素は私の頭と胸とお腹を圧迫し続け、
そのまま何も食べずに鹿児島へ帰ってきたのでした。
東京が好きなのは、文化の集う街だからだ。
地方都市では文化の甘いこぼれ汁を吸うに過ぎない。
培われた文化を守ること、それを享受し生きることも尊いことだが、
文化の編纂というエネルギーの持つ引力には及ばない。
そこがたとえゴミの街でも、文化の中で生きることができるのならば
きっと、望んでしまう。
選んでしまう。
生泉
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?