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”さん”のこたえあわせ


猫の日ですね =^^=
ずっと下書きに入れっぱなしだった記事を仕上げてみました。
元のタイトルは「保護猫は野生時代の夢を見るか」(´∀`)


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以前こんな記事を投稿しました。

我が家の白黒ねこ、さん。
大人になるまで、野良として生きてきたオスの猫。
2歳になろうかという頃、我が家にきて室内飼いになり、以来一度も脱走はしないし、外に出たいそぶりも見せないのだけれど、もし彼が、外に出たらもう一度帰ってきてくれるだろうか、それとも外の自由を選ぶのだろうか。

といった内容です。

こんな記事を書いたからでしょうか、年末、さん、脱走。
とうとう我々人間は、さん自ら望んで家に入り込んできたとはいえ、彼を勝手に室内飼いにして外出の自由を奪い、去勢までしてしまったそのことへの、さん本人からの審判が下される時を迎えてしまったのです。

脱走直後、さんを呼んで振り返らせるも、脱兎のごとく逃げゆくさん。
「どうせゴハンを見せればすぐ駆け戻ってくるさ」と、奴をナメていた我々は呆然としました。
「あの食欲だけで出来ているさんが???」

一緒に、というかきっと脱走を主導した常習犯まる女王を車の下に追い詰めるという、我々に初めて見せる姿。
家の中では、あんなに「まっこ姉たん」が好きなのに。
威嚇でしっぽまでボフボフにふくらんだ姿も、2年以上飼っていて初めて見ました。

野生の血が、野良の習性が、一気に戻ってきたようです。

お約束のように数時間後には戻ってきた、脱走常習犯であらせられるまる女王に対し、脱走自体が初めてで、しかも外の暮らしに慣れ、野良ネコとして十分生きる力のあるさんが、その後どういうふうに動くのか、我々には見当もつきませんでした。

そして我々が危惧した通り、三日ほどは気配も感じられない日々。外の世界の自由を謳歌しているのでしょうか。
「やっぱ外の暮らしの方が、気楽で自由でいいでし♪」

しかし、四日めぐらいでしょうか、ウッドデッキに出しておいたさんのゴハンが減っています。
そこは以前、野良だったさんに餌をあげていた場所です。
やはり覚えていて、ご飯を食べに戻ってきたようです。
そしてそれから頻繁に、我々はさんの姿を家の周りで見かけるようになるのです。

ウッドデッキで食事をしているので、そっと掃き出し窓を開けて呼ぶと、及び腰ながらニャーニャーと返事をします。
ずっとそこで鳴いている、でも触れるぐらいまで近寄っては来ません。
一時間近く、ウッドデッキの上で、そして私がちょっと身動きするとさっとウッドデッキの下に隠れて、けれどもさんを呼ぶ私の声に返事をし、そのうちその声は遠ざかってしまいます。

・・・・にゃんだよさん、ウチの子になったんじゃなかったのかよ~
あんにゃに楽しく一緒に2年以上も暮らしたじゃんよ~

と、思わずネコ語を混ぜた文句が出ます。

ある日、掃き出し窓近くで食事中のさんのお皿を、そっと取り上げて家の中に入れてみました。
さんはそろそろと家の中に、ゴハンを追って入ってきました。
身体が半分入ったところで、私はさんのお尻をそっと家の中に押し込もうとしました。

けれどもそれが大失敗。
まだ野生の気分で用心深くなっていたさんは、驚いてすごい勢いで外へと飛び出してしまったのです。

ああ・・・・・

それきりどんなに近くまで来ても、私が窓の近くにいるときは餌に近寄らなくなってしまいました。
最初に保護した時は、そこで食事をしながらあんなに甘えて、自分から家の中にぐりぐりと頭を突っこんできたのに…
私にはその時の記憶が鮮明すぎて、さんがそこまでくれば簡単に家の中に入ってくれると思っていたのです。
でもそれは、一か月以上かけて徐々に慣れていった結果です。

一回嫌な思い、怖い思いをした場所を、猫はなかなか忘れてはくれません。
私は、もうさんを家の中に入れる手段を失ってしまったのでしょうか。

そんな心配をよそに、さんは相変わらず家の周りをうろうろしています。
何日か間が空くことはあっても、餌のお皿は減っています。

ある日は、私とオットが外出から戻ると、ウッドデッキでさんがくつろいでいます。
二人でさんの名を呼ぶと・・・奴はさっと逃げていきます。
顔を見合わせながら我々は思わずつぶやきました。
「逃げやがった・・・」

お前はにゃんなんだよ、ほんとに。

別の日、やはりオットと近所をウォーキングした帰りに、「このあたりにいないかな~」などと言いながらふと「そのあたり」を見ると、どんぴしゃ。
お隣の塀の上で日向ぼっこ。のんびりと香箱など組み、目を細めて我々を見ています。
思わず近寄るとやはりさっと逃げ、けれど我々から見える所にきちんと座り、こっちをじーーーっと見つめたりしています。

もうさんは、ウチでご飯だけ食べて、外で気ままにくらすことを選んだのだでしょうか・・・オットも私も、互いに口にはしませんでしたが、内心諦めたり悲しんだり、切ない日々を年末から年始にかけて過ごしていました。

そう、さんが脱走したのは、オットによると昨年の暮れ、12月28日。

なぜオットがそんな日付を覚えているかというと、脱走を先導したのはまる女王ですが、真の責任はオットにあったからです。
窓掃除をしていたオット、窓を全開にしたまま、猫2匹が何食わぬ顔で人間のすることをじ―――っと観察していたのにも気づかず、その場をのんきに離れていたのです。
きっと、チャンスをうかがっていた常習者まるがまず外に出て、その後をさんが、特に何も考えずにそろそろと、真似して続いたのだろうと想像ができます。

聞きなれた2匹の声が、なんだかあらぬ方向から聞こえる・・・
気付いた私。
慌てて庭を見ると、カーポートには先ほど書いたようにボフボフに膨れたさん、車の下からは女王のいがみ声。

!!

そのまま新年を迎え、我々人間は切ない気持ちのまま、まる女王は何事もなかったかのように、いやむしろこころなし伸び伸びとw、日々は過ぎていきます。

成人の日も過ぎ、さんが脱走してから2週間。
その頃から、さんは頻繁にウッドデッキの周りに姿を見せ、夕方になるとニャーニャーと鳴きます。
私はハラをくくり、寒くても掃き出し窓を開け、徹底的にさんに付き合うことにしました。
家の中とは言え防寒の完全防備の私は、掃き出し窓を開け、ウッドデッキのさんにずっと呼びかけます。
さんも1時間ほどはずっと返事をし続けます。
けれどちょっとした気配でウッドデッキの下に隠れたり、また出てきたり、あるいはデッキの下からだんだん遠ざかったり・・・
鳴き声で返事だけはするものの、近寄っては来ませんでした。

それを続けた三日目の、やはり夕方、その日もにゃーにゃーとさんはウッドデッキで何か訴えています。
エサ皿のおいてある、一度格納に失敗した掃き出し窓の近くには寄ってきません。

その反対側の開き口で、まだ鳴いています。

ん?
ほんとは家に入りたいんじゃないの?
私のいるこちら側はもうだめだけど、今さんのいる方の開き口を開放し、私は少し離れて様子を見たらどうだろう???

掃き出し窓
さんが苦手とする右の開き口にまる女王

心配なのは、すぐ近くでさんの鳴き声を聞いている脱走女王まるです。
しかしその時、いつもは鵜の目鷹の目で脱走チャンスをうかがっているまるが、外からさんの鳴き声がするためか、開いた窓に一切興味を示さなかったのです。

さんの近くの掃き出し窓を大き目に開け、様子をうかがいます。
さんは、入り口まで来て中の匂いをかいでいます。
くんくん、くんくん。

しかしそこから先、サッシの桟をまたいで家の中に一歩踏み込むことがなかなかできません。
私はもうこのチャンスを逃すことはできません。
焦ってまたさんに怖い思いをさせたらアウト、我慢して、奴の次の動きをじ―――っと、ただ待つのみです。


・・・
・・・・


・・・・・・



その時
まる女王が動いたのにゃ!

興味もないふりで、さんの視界に入らない暖かい棚の上でくつろいでいた女王陛下が、おもむろに身を起こしジャンプ。さんからよく見えるソファの背もたれの上へふわりと舞い降りたのです(脚色しすぎ)

ソファの背からさんを見下ろす女王。
まる女王を見つけ、じっと見上げるさん・・・

さんは、そろりと、家の中へ踏み込んだのです。

一歩、また一歩・・・

完全にさんの身体が家の中に入ったのを見て、私は決意しました。
サッシを閉めよう!!!

気配を察して慌てて外へ逃げようとするさん。
けれど私は、このチャンスをものにしようと必死でした。
さんの頭がほとんど閉まりかかったサッシの隙間にぐりぐりと突っこまれます。

!!!

でもここで、さんの頭を気遣ってサッシを開けてしまったら負けです。

幸いサッシの勢いは弱く、さんに怪我をさせるほどではなかったし、もうほとんど閉まりかかっていて、さんも家の外に体を引き抜くことはできず、中に首を引っこめるしかない状態でしたので、最後は力技になってしまいましたが、とうとうさんを家に格納することができました。
伝説の大技、大岡裁きとは真逆のやり方になってしまいました。
痛くてもゆるめない!

1月13日・金曜日

さんが脱走してから16日が過ぎていました。

天使のごとくさんの前に降り立った女王陛下、ナイスアシスト!
よくやった私w

裁判で勝訴の札を持って駆ける若手弁護士のように、私はオットに(LINEで)一報を伝えました。
「さん確保!」

オットも密かに、大変責任を感じ心を痛めていたようです。
本当にほっとした表情で、その晩帰宅しました。


****

長くなってしまいました。
その後のさんの様子です。

しばらくは、最初に保護された時のように隅のトイレにうずくまり、怯えた様子でしたが、私が近寄って撫でると喉を鳴らします。
やがて夜、いつもの水飲み場で水を飲み、ゴハンも少々食べ、用心しながらですが家の中を歩き回るようになりました。

少々薄汚れてはいますがけがをした様子もなく、翌日抱っこしてみると、かつてずっしり重かった7kgメタボ猫は、おっと思うほど軽くなっていました(当社比。一般的に見るとまだまだ立派な体つきw)

それから1週間ほど、(さんにしては)以前ほどの食欲がなく、そして甘えんぼになっていました。
何かというと私の膝に乗り、撫でろ撫でろと頭をぐりぐりと擦り付けてきます。
以前は人の膝が苦手だったのに・・・

あまりの甘え方に「母子分離不安」などという言葉がよぎったほどですw

帰宅して約1週間、寒い外で2週間以上過ごしてやはり体調が少し悪かったのか、それとも日が経ち緊張がとれたのか、突如さんの食欲は元に戻りました。

1にゴハン、2にゴハン、3,4もゴハン、5にゴハンw

再び少々ふっくらしてきました。

甘えん坊は治っていません。
とにかく隙あらば膝。歩けば足元でお腹を見せる。
冬場まる女王の定位置である私の膝を、さんも狙うようになりました。
脱走前なら、女王陛下に遠慮して膝を譲ったはずですが、膝だけでなく暖かい棚など居心地のいい場所をがんばって占拠するようになりました。

朝は、ゴハン欲しさもあるでしょうが甘えがひとしおです。
「久しぶりでしね。やっと会えたでしね!さあ今日もボキをかわいがってください。」

脱走前、「さんは室内の居心地のいい楽な暮らしと、外の厳しいけれど自由な暮らしと、どちらがいいと思っているのだろう」などと考えることが度々ありました。

けれど今、さんが甘える姿を見ると、イエネコとして人の暮らしの側で進化してきた猫は、やはり人の近くで暮らすのが幸せなのだろうと思えます。

猫の考えを知りたいなどというのも、擬人化を猫に押し付ける勝手な人間の幻想でしょう。
一連のさんの行動を見ると、流れに身を任せ、その場その場でしたいことをしているだけなのでしょう。

窓が開いていて、大好きなまる女王様が外に出たから、ボキも出てみるでし。
外の暮らしも楽しいな、元のテリトリーをあちこち探検パトロール、クンクンするでし。
ゴハン食べたいな。そういえばあそこにいつも餌があったでしね、カリポリ。
おっ、人間でし。見覚えある気もするけどやっぱり怖いでし。逃げちゃうでし。
やっぱりにゃんだかここのおうちが懐かしいでし。前はどうやってここに入ったんでしたっけね~?
あれれ?やばいでし中に閉じ込められたでしピンチでし・・でも、ここはぬくぬく、甘えられるしゴハンも出るし・・・にゃんだかとっても居心地がいいでしね~ゴロゴロ・・・

思えばなかなか家に帰ってこなかったのも、さんにとって初めての脱走、自分から人間の家に入るという経験もなく、どうやって帰宅したらいいか分からなかったのだろうと思います。

これからも猫は、その場の流れに身を任せ、難しいことなど考えずにその時その時を猫らしく生きていくのでしょう。

我々人間は、朝忙しい時にとても邪魔な場所でかまってアピールをしてくるさんが、再び家にいることの幸せを噛みしめながら過ごしています。

さんがいる奇跡!
我々は、しばらくはさんを撫でながら「お前よく帰ってきたなぁ」と、しみじみ話しかける日々でした。

本当に長くなりました。
長くなりついでの余談です。

脱走の先達、先導者にして煽動者、まる女王陛下ですが、彼女は脱走のベテラン、外で2時間ほど思い切り砂まみれになって楽しまれた後「もう外に面白いことなんてにゃい!」と自ら捕獲され、思い切り腕を伸ばしたオットに両脇をぶらんとホールドされて戻ってきました。

本人による再現
オットの腕が伸びてない

なぜオットがまるを持つ手を思い切り伸ばしていたのか。それは女王が思わず二度見するほどの砂まみれっぷり、まるで別猫、ゴマよごしか信玄餅のようだったから。
オットが歩くだけでバラバラと床に砂が落ちます。きなこたっぷりw
そのままお風呂場に直行し、まるを丸洗い。
けれど今回ばかりは、猫を洗う大変さより、その後のお風呂の床掃除の方が大変だったという…

脱走はベテランでも外の暮らしの経験がなく、妙なテンションで砂にまみれる以外アウトドアの楽しみかたがよくわからず、結局長居ができないタイプのまる。

それに比べて元野良のさん、外に出ても悠々自適、特にはしゃぐこともなく、「特別なことじゃない」という態度で生活していました。
「外に出てきたゼ!」などとアピールのためにからだ中に砂をつけたりもしません。
脱走は新米でも、外の暮らしはベテランのさん。

今回二匹の経験の違いが如実に表れた脱走劇でもありました。



長い記事をお読みいただき、ありがとうございます。
自分の居場所を確保するようになった、帰宅後のさんの記事です(短め)

さんが落ち着いたのを見計らって・・・





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