幸太郎

企業の知的財産部に所属しています。米国での特許紛争についてなど、思いつくままに書いてい…

幸太郎

企業の知的財産部に所属しています。米国での特許紛争についてなど、思いつくままに書いています。よろしくお願いします。

最近の記事

米国Discovery対応として社内の電子データは日常的に定期的かつ短期に消去しておくべきか?

米国Discovery対応として社内の電子データ(電子メールのデータ、等)は日常的に定期的かつ短期に消去しておくべきとの考え方がある(もちろん、米国訴訟が合理的に予測できた時点からは関連データの消去はできない)。 このような考え方は、米国訴訟が開始すると自社にとって不利な情報も含めすべての関連データを提出しなければならなくなることを踏まえ、訴訟になる前に日常的に定期的かつ短期(2~3年程度)に社内の電子データを消去しておこうというもののようである。そうしておけば、訴訟になっ

    • 補償交渉の窓口

      自社に対して特許侵害訴訟が提起され和解が成立した場合、特許技術の対象が自社製品に採用されている部品であると、その部品メーカーに対して契約上の知財紛争補償条項に基づいて補償請求することになる。 このとき、知財部門が窓口になって交渉する場合と部品調達部門が窓口となって交渉する場合がある。 どちらが交渉を有利に持って行きやすいかはケース・バイ・ケースと思うが、どちらかというと部品調達部門が窓口となって交渉した方が交渉を有利に持って行きやすいように思う。 知財部門が窓口となると

      • Continental 対 Avanci米国特許訴訟(第一審)の概要

        提訴日:2019年5月10日 原告: Continental Automotive Systems, Inc(自動車部品メーカー) 被告: Avanci, LLC(4G必須特許のパテントプール)、Nokia Corporation(4G必須特許の特許権者)、等 【Continentalの主張】 1. Breach of Contract 被告は、2G、3G、4G規格に関して関連の規格策定団体等に対して行った契約的コミットメント(contractual commitme

        • end-productに限定してライセンスするパテントプールのライセンス戦略

          パテントプールの中には、対象製品をend-productに限定してライセンスを提供している団体があります。最近は、このような形態が多いのではないでしょうか。 このようなライセンス戦略の下では、例えば、対象特許の適用範囲が部品に限定される場合であっても、end-productのメーカーがライセンスを取得しなければなりません。この場合、パテントプールが提示するロイヤリティは、部品価格を基礎に算定した場合よりも高額であることがほとんどだと思います。ただ、パテントプールとしても、あ

        米国Discovery対応として社内の電子データは日常的に定期的かつ短期に消去しておくべきか?

          米国特許訴訟判決で認定される損害賠償額_“smallest salable unit”と“Entire-Market-Value(EMV) Rule(全市場価値規則)”

          (1)米国特許法における損害賠償(284条) ①米国特許法上、以下の2つの方法での損害賠償額の認定が可能: 1)「失われた利益」に基づく損害賠償額 2)「合理的な実施料」に基づく損害賠償額 ②一般的に、失われた利益は、合理的な実施料に基づく賠償額よりも高額だが、因果関係(=侵害がなかったなら特許権者が販売を行っていたであろうこと)の立証が難しい。それ故、「合理的な実施料」に基づく損害賠償が認定される場合が多い。 (2)“smallest salable unit (

          米国特許訴訟判決で認定される損害賠償額_“smallest salable unit”と“Entire-Market-Value(EMV) Rule(全市場価値規則)”

          米国特許訴訟における差止要件

          1.米国では、日本と異なり、対象製品の侵害が認定された場合でも、常に差止判決が下されるわけではなく、以下の4要件を満たした場合にのみ差止判決が下される(2006年5月15日eBay事件最高裁判決)。 ・ 回復不可能な損害(第1要件) ・ 金銭的賠償の不十分性(第2要件) ・ 原告・被告間の困窮度バランス(第3要件) ・ 公共利益への影響(第4要件) 2.上記4要件のうち、差止判断に重要な影響を与えるのは、第1要件と第2要件とされる。さらに言えば、第1要件が決定的に重要とさ

          米国特許訴訟における差止要件

          米国特許訴訟の対人管轄_日本企業を提訴可能なケース

          1.米国における管轄権の決定の仕方 管轄権の有無は、以下の3段階で判定される。 ① 事物管轄権: 連邦裁判所と州裁判所のいずれで裁かれるべき案件か? ② 対人管轄権: 提訴された被告に対して、当裁判所は審理/判決する権限を有するか? ③ 裁判地(venue)の選択: 対人管轄権を有する複数の裁判所の内、どの裁判所で審理するのが適切か?             ↓ 米国の特許権者が日本に所在する企業を提訴できるかどうかは、日本企業に対して米国裁判所の対人管轄権が及ぶかどうかの

          米国特許訴訟の対人管轄_日本企業を提訴可能なケース

          裁判地に関する米国最高裁決定(TC Heartland LLC v. Kraft Foods Group Brands LLC(Supreme Court, May 22, 2017)について

          1.2017年5月22日最高裁決定の位置付け ・ 米国国内法人について、特許訴訟での裁判地(venue)について判示したもの。 2.管轄権の決定の仕方 管轄権の有無は、以下の3段階で判定される。 ① 事物管轄権: 連邦裁判所と州裁判所のいずれで裁かれるべき案件か? ② 対人管轄権: 提訴された被告に対して、当裁判所は審理/判決する権限を有するか? ③ 裁判地(venue)の選択: 対人管轄権を有する複数の裁判所の内、どの裁判所で審理するのが適切か?            

          裁判地に関する米国最高裁決定(TC Heartland LLC v. Kraft Foods Group Brands LLC(Supreme Court, May 22, 2017)について

          米国訴訟の対応に日本の弁護士のサポートは必要か?

          米国で特許侵害訴訟を提起され、現地の代理人のあてがない場合、日本の弁護士事務所に米国弁護士を紹介してもらうことがあると思います。 このようなケースでは、米国訴訟の対応の際、日本の弁護士がサポートについてくれて、いろいろアドバイスをしてくれることが多いと思います。 日本の弁護士にサポートしてもらうことのメリットとしては、自分では気づけない法律上の論点を指摘してくれ、安心感をもって訴訟対応できることがあると思います。また、米国弁護士が不必要に多くの時間をチャージしてくるような

          米国訴訟の対応に日本の弁護士のサポートは必要か?

          被疑侵害品が部品である場合の販売代理店との補償交渉

          パテント・トロールから自社製品の特許侵害を理由に米国で提訴されたが、特許の対象が自社製品に搭載されている部品であるため、その部品の販売代理店を通じて部品メーカーに訴訟対応への協力を求めたが、米国訴訟のDiscoveryを懸念し、自分たちの製品(部品)は対象特許を侵害していないと繰り返すばかりで、非侵害の技術的根拠の提供等に積極的に協力してくれないことがあります。 この場合、やむを得ないので、知財紛争の補償責任について契約を締結している販売代理店に対して、パテント・トロールと

          被疑侵害品が部品である場合の販売代理店との補償交渉

          パテント・トロールから米国特許に基づいて提訴されたが、対象特許が自社製品に搭載されている部品を対象とするものである場合

          パテント・トロールから米国特許に基づいて提訴されたが、対象特許が自社製品に搭載されている部品を対象とするものである場合、自社では侵害判断が行えず、また、自社技術ではないため対象特許を無効化するための先行技術を発見することも困難です。 しかし、このような場合でも、パテント・トロールの主張が、例えば、対象製品(自社製品)が特定の技術標準規格に準拠しており、パテント・トロールの特許はその技術標準規格を対象とする、といったものである場合には、部品メーカーのサポートがなくても非侵害論

          パテント・トロールから米国特許に基づいて提訴されたが、対象特許が自社製品に搭載されている部品を対象とするものである場合

          米国特許訴訟の訴状が国際宅配便で届いたら?

          米国特許訴訟の訴状が国際宅配便で届くことがあります。このような訴状の送付が法的に有効な送達の方法なのかは議論があるようです。 訴状の外国への正式な送達手段は、ヘーグ条約に基づく送達です。ヘーグ条約に基づく送達の場合、米国の特許権者(原告)→在米日本大使館→日本国外務省→日本国最高裁判所→日本の管轄地方裁判所→日本の被告企業という流れを辿って訴状が送達されるようです。この場合、米国の特許権者が在米日本大使館に訴状を持ち込んでから日本の被告企業に訴状が送達されるまで60日~70

          米国特許訴訟の訴状が国際宅配便で届いたら?

          特許売込状に対する対応とDJ action

          いわゆるパテント・トロールから、米国子会社等にライセンス提供の申入状が届くことがあります。例えば、「当社は米国特許〇〇を保有している。御社の事業は本件特許に関連していると思われる。当社は本件特許をライセンスする用意がある。〇年〇月〇日までに連絡いただければ、〇〇の条件でライセンス供与する。この期限を過ぎた場合はさらに割高なライセンス条件になる可能性がある。既に〇〇〇等の企業がライセンスを締結している。」といった内容です。 このような特許売込状に対する対応は悩ましいですね。面

          特許売込状に対する対応とDJ action

          米国弁護士とのコミュニケーション

          米国で特許紛争が発生した場合、米国弁護士に依頼することになります。米国弁護士と良いコミュニケーションをとりながら事件を上手く解決するには、以下のような点が大切のように思っています。 まず、何よりも達成目標を共有することが大切と思います。徹底抗戦するのか、あるいは、早期の和解決着を目指すのか、ということです。もちろん、紛争相手方との交渉が進むにつれて、当初は自社に圧倒的に有利とみられた状況が変わってきて、達成目標を変更せざるを得なくなることもあると思いますが、紛争発生の初期段

          米国弁護士とのコミュニケーション