登場人物
　眞野美優（27）妹
　眞野将太（30）兄
 
　　　ＳＥ　美優が手紙を書いている。感情任せにペンを走らせていたが、手が止まったかと思うとグリグリと塗り潰す。

美優　ダメだ。こんなの見せられたない。

　　　ＳＥ　扉をノック。

将太　美優、入るよ。
美優　お兄ちゃん！　ちょっと待って……（手紙をくしゃくしゃに丸めて捨てる）うん、大丈夫。

　　　ＳＥ　扉が開いて将太が入ってくる。

将太　どうしたの慌てて？
美優　えっと、実は手紙を書いてて。
将太　手紙？
美優　というかスピーチ原稿だけどね。結婚式でお兄ちゃん宛てに読むやつ。
将太　……それ、俺に言っちゃっていいの？
美優　いいの。上手く書けなくて諦めたところだから。
将太　諦めるなよ。
美優　（笑って誤魔化す）えっと、何の用？
将太　用って程でもないけど、今日で最後だからさ……美優、幸せにしてもらえよ。
美優　何それ？
将太　ちょっと古かったかな。でも花嫁の兄貴としては――
美優　私はもうお兄ちゃんに十分幸せにしてもらったよ。
将太　よせよ。てか、それを手紙に書けばいいだろう。
美優　書けない。
将太　え？
美優　本当はずっとお兄ちゃんと一緒にいたかったなんて、書けるわけないじゃん。
将太　美優。
美優　ねえ、お兄ちゃんは本当に結婚するのが私の幸せだと思ってるの。
将太　そりゃ……。
美優　思ってないから、私を奪いに来たんじゃないの？　さっきから後ろに隠してるナイフ、気付いてないと思ってるの？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〈了〉