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とこのれお\くぼ

12/29  ぷかぷか日記。

僕って何者なんだろう。この歳になってもまだそんなことを考えてる。多分一生終わらない答え探しの旅。

   実家へ持ち込んだ最後の1本を寝室がある2階の窓辺で吸った。寝静まったドが1つ付くくらいの田舎の冬空の下、家族を起こさないようとゆっくり窓と雨戸を開けて火を付けた。肌を突き刺すくらい寒い風に晒されながら吸う1本は素直に美味い。けど、正直吸っても吸ってなくても吐いた息が白くなるせいで若干吸った気がしなくて納得行かない気持ちになった。この吐く白い息を煙だと思い込んで吸った気になって満足出来たら良いんだろうな。
   目が暗闇に慣れていなかったせいで2階の窓から見える景色は黒、黒、黒、偶に白のような何か。楽器として機能出来ないくらいぐちゃぐちゃで不揃いなピアノの鍵盤のようだった。偶に見える白の正体は多分降り積もって残った古い雪の塊。そして奥の方で存在感を放つぼんやりと輝く温かい橙色の明かり。
   墓石に囲まれた場所だから何か見てはいけないものが視界に入っていても可笑しくはない。その中に去年亡くなった僕の婆ちゃんも紛れていたらいいな。死に際に僕に会いたがってたのに会いに行けなくてごめんなさい。あなたは偉大な人だったのに、可愛いとよく言ってくれていた孫がこんな碌(6)でもない人間ではむ(6)くわれない筈だ。成仏せずに僕を不幸にしたまま傍に居て欲しい。こんなことを書いている時でも言葉と遊ぶ元気はある僕。不謹慎だ。虚な目をいくら凝らしても一寸先は闇。「お前の人生もこれくらい真っ暗闇や。ちゃんと向かい合いなさい。」と自己を省みる為に真実を写す鏡のように思えた。

   お前とは違って、俺は突然変異の化け物じゃ。家のもんは煙一切吸わんし、身体に悪いからやめなさいと至極真っ当。一度家で吸った時は案の定臭いで直ぐ暴露てしもうた。あ、俺が始めた理由は敢えて隠しとこか。気良気良。俺が自身を突然変異だと思う理由がもう1つある。
   此処へ帰ってくると自分には故郷が2つあることを再認識する。皆絶えず根を張り続けてるなか、1人子孫繁栄拒否の意を決して曲げようとしない異質な存在が俺じゃ。おまけに和の方に限った話じゃが、俺の曾祖母も祖母も3桁まで生きた長寿家系。うんざりするのぉ。俺はそんな悠長に生きるつもりはないぞ。何故血が繋がった親族達と俺は同化せんのか、出来んのかずっと考えてる。皆俺を置いてけぼりにする。早死にするようにと自ら外堀を埋めているとでも言うのか。肺を黒く染め、いくら身体を重ねても腹に何も実らない生産性の無い関係を求める俺は自分でも気付かないくらい静かで緩やかな自害計画を企んでるのかもしれん。「存」失格じゃな。
   全く、寿命を短く出来る1番身近な死を嗜好品として500円くらいで買えてしまうんじゃからしょうがない世の中じゃ。じりじりと此方へ迫り来る火の悪魔に魂を少しずつ齧られて、悦ぶ顔を浮かべる俺も阿呆じゃ。気持ちが良くて何度も接吻を重ねてしまう。俺は前好いてた奴の為にきっぱり辞めた筈じゃったんだがの。まぁもう困らせる奴も居らんで、都会へ帰ったら我慢した分思う存分吸うてやろうと思う。いや我慢したって言い方は事実に沿ってないな。俺は化学物質に依存してる訳じゃなく、吸ってる自分自身に酔ってるだけじゃ。煙吸うて吐くだけで、箔がつくと思うとる。阿呆らしいよなぁ、本当。おまけに緩やかな自傷行為に黒煙を吸うことを選ぶもう1人の阿呆がこんなに近くにおったことにおっ魂消たわ。益々煙臭うて敵わんわ。俺の思いも叶わんときた。
   お前のこと考えて縮めた寿命もこうじゃ報われん。お前とは永久に犬猿の仲でいたいが、嫌煙なんてしてやらんぞ。恋も愛もなければ憎しみだけでええ。俺の身体が浮かんような重石を、この世にまだ居たいと思わせるようなおもっしぇ話をしてくれ。歳月の長さが関係の濃密さを定義するとは到底思えんが、まだたかが数ヶ月の仲じゃ。季節で言えばまだ夏と冬しか過ごしとらんぞ?全然足りん足りん。来る春と秋に備えとけ。
   お前が言う天秤なんぞ時間と金が許す限りどうとでもしたるわ、と言いたいところやがそれも有限やからな。だからこそ幽玄や。お前と居ると金を貯められんのが難儀やのぉ...。それでもいつかお前を見れんようになる日が来るその瞬間まで、最後には未練ないよう全力で推して、押して、愛して参る。お前からの「参った」が聞けるまで、来年も引き続き宜しゅう。


P.S.

俺は歌うことが求愛行動になる化け物じゃが、自分で作ったもんを捧げたのは生まれて初めてじゃ。お前がこの化け物を深い眠りから起こして、生み直したんじゃ。

お前からもらった"せい"(=姓・生・性・声)、ぜーんぶお前の"所為"じゃ。だから責任取って"精"一杯生きろ。近かろうが遠かろうが、見守っちゃる。信じとるぞ、亡。


追記:

この怪文書が怖いってなんじゃね。こんなんで心配になるならお前の抱える闇ってそれくらいなんかの。これくらいの暗闇俺は常に隣り合わせで気良気良笑い飛ばしながら楽しく愉快に生きていける。まあ、畏怖の念を抱いたのであればそれは俺が日々亡畏怖をちゃんと磨けている証拠じゃな。嬉しいのぉ。


じゃが、余り赤ん坊扱いしてくれるなよ。
一応お前より長い間生きてるつもりじゃよ。


....正直気分悪くないがの。

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