大麻の有害性

大麻容認の意見をしばしば見る。

個人的に摂取の機会も興味もなく、周辺にもいなそうなため、詳しく調べていなかった。ただし大麻容認が大きくなり合法化ともなれば、今までよりも身近なものとなる。

そのようなこともあって、今のうちに基本的な部分を調べておくこととした。今回の記事では、厚生労働省が発表している大麻の有害性、そしてそれを学術系情報で確認した結果をまとめた。

なお、医療の専門家ではないので、正確性は紹介書籍、医療サイトや学術サイト、医療従事者の知人がいれば知人からの情報などで補完してほしい。


はじめに

9Δ-THCとCBD

この記事で示す有害性情報は、大麻に含まれる成分のうち、9Δ-THC(テトラヒドロカンナビノール、以降では単にTHC)に由来している。THCは、CB1受容体に作用することで有害性を示す。

この記事で示す有害性情報は、CB1受容体に作用するもの全般に共有する有害性情報となる。それは9Δ-THCに限らない。法規制されているかにかかわらず、CB1受容体に作用する限り、類似の合成化合物にもいえる。

しばしば対比されるものにCBD(カンナビジオール)がある。これはCB2受容体に作用するもの。THCもCBDも大麻に含まれる成分でありながら、作用する場所も、作用したあとの影響も、まったく異なる。

作用の差は、CB1受容体が主に中枢神経系細胞や脳内に多く分布すること、CB2受容体が脾臓や胸腺や扁桃腺や白血球系細胞に多く分布すること、これらの差からも分かる。

先の大麻法改正において、CBDも大麻に含まれる成分でありながら、CBDには幻覚作用がないために規制されていないと説明されるのは、この点に由来する。

THCとCBDを混同した意見もみる。CBDが医療に用いられていることを以って、THCを含む薬物を許可するべきとする意見、あるいは大麻全般を許可すべきとする意見を見る。あるいは、THCの危険性を見て、医療で用いられるCBDをも危険視する意見を見る。

個人的意見

類似成分を含めて全て規制してほしいと思っている。

CB1受容体への作用の度合いを条件に、全規制するのが適切と考える。含有成分で規制するから、類似の分子構造を持つ合成薬物がいたちごっこ的に現れるのだと思う。有害性は、CB1受容体に作用することで発生している。そのため、CB1受容体への作用の有無、作用の強さ、含有濃度などを条件とすることで、いたちごっこを避けられるように思う。

薬物検査が難しいのかもしれないと思う。所持している未知の合成薬物がCB1受容体に影響を与えることを、勾留期間中に立証できるのかという観点で。このあたりはちょっと分からない。

使用者には、①嗜好品として、②幻覚等のファッション的に、③精神的安定性などを求めて、といった人がいると思う。このうち①②に対しては、社会の安定を理由とした法政策として規制してほしい。

③に対しては、医療や処方という形で、供給してほしいと考える。もちろんその場合は、臨床試験を通すこととしてほしい。精神的安定性などに有効な、現行法で許可されている薬物に対する優位性を、臨床試験で示したうえで許可するようにしてほしい。

厚生労働省の情報

厚生労働省が発表している大麻の有害性に関する情報は、以下の場所に記されている。

大麻の有害性として、以下のものが示されている。

  • 知覚の変化

    • 時間や空間の感覚がゆがむ

  • 学習能力の低下

    • 短期記憶が妨げられる

  • 運動失調

    • 瞬時の反応が遅れる

  • 精神障害

    • 統合失調症やうつ病を発症しやすくなる

  • IQ(知能指数)の低下

    • 短期・長期記憶や情報処理速度が下がる

  • 薬物依存

    • 大麻への欲求が抑えられなくなる

裏付けとなる学術系情報

前項に記した有害性、その裏付けとなる学術系情報を記す。
いずれも、日本薬学会の学術誌薬学雑誌140巻2号』P.205-214に寄稿されたものでカバーできる。幸いにも、PDF形式で全文が無料で一般公開されている。2020年の情報なら、それなりに新しい情報と考えてよいと思っている。

厚生労働省の発表している有害性と、それを解説している部分を対比する形で抜粋する。

知覚の変化

「時間や空間の感覚がゆがむ」

これは示すまでもないかもしれない。以下のように記されている。

…….大麻の吸煙により,学習及び連想処理能力,精神運動行動試験での正常な反応が阻害される.15) 大麻成分 D9-THC (250-500 mg/kg)の用量に依存して,運動の衝動性や追跡障害を含む認知や行動の制御が障害され る.16,17) また,大麻成分 D9-THC(290 mg/kg)の摂取において自動車の運転操作に重要な,知覚運動における反応速度とその正確性も阻害されることが明らかになっている.18)

『大麻成分の依存性と細胞毒性』P.207

学習能力の低下

「短期記憶が妨げられる」

若年期に大麻使用を開始して生じる IQ の低下については,大麻の使用量が増えるほど低下の度合いが大きいとされる.53) さらに,検査時点で大量かつ慢性的に大麻を使用している被検者では,IQ 測定のためのスコアである短期記憶,長期記憶,情報処理速度は障害を受けていることも明らかになっている.54)

『大麻成分の依存性と細胞毒性』P.211

運動失調

「瞬時の反応が遅れる」

知覚変化のところで示した部分で、運動失調にも触れられている。

…….大麻の吸煙により,学習及び連想処理能力,精神運動行動試験での正常な反応が阻害される.15) 大麻成分 D9-THC (250-500 mg/kg)の用量に依存して,運動の衝動性や追跡障害を含む認知や行動の制御が障害され る.16,17) また,大麻成分 D9-THC(290 mg/kg)の摂取において自動車の運転操作に重要な,知覚運動における反応速度とその正確性も阻害されることが明らかになっている.18)

『大麻成分の依存性と細胞毒性』P.207

精神障害

「統合失調症やうつ病を発症しやすくなる」

複数の施設を対象とした大規模調査の解析から,大麻の使用期間が長期間であると精神病やうつ病の発症危険性が高まる可能性が示唆されている.44) 長期間の大麻乱用患者における脳画像研究から,海馬及び扁桃体部位において容積の減少が確認されている.45) 同様に,統合失調症患者における脳組織学的検討から,前頭前皮質における CB1 受容体密度の減少が確認されている.46)

『大麻成分の依存性と細胞毒性』P.207

IQ(知能指数)の低下

「短期・長期記憶や情報処理速度が下がる」

若年期に大麻使用を開始して生じる IQ の低下については,大麻の使用量が増えるほど低下の度合いが大きいとされる.53) さらに,検査時点で大量かつ慢性的に大麻を使用している被検者では,IQ 測定のためのスコアである短期記憶,長期記憶,情報処理速度は障害を受けていることも明らかになっている.54)

『大麻成分の依存性と細胞毒性』P.211

薬物依存

「大麻への欲求が抑えられなくなる」

3-1. 薬物依存
…….したがって,薬物依存の本質は薬物摂取に対する渇望に基づく「精神依存」であり,「身体依存」は退薬症候の苦痛から逃れるための薬物摂取行動を誘発することから,精神依存を増強させるものであると考えられている.
3-2. 精神依存
…….大麻の精神活性成分である D9-THC は側坐核に おけるドパミン遊離を増加させる作用を有することから,覚せい剤やコカインなどの依存性薬物と同様に,中脳辺縁ドパミン神経系を制御することにより 精神依存を形成すると考えられる.33) …….
3-3. 身体依存
大麻の身体依存性については,動物実験による基礎研究を中心に,身体依存が形成される可能性が指摘されている.37)…….ヒトにおいても,大麻乱用により身体依存及び退薬症候群が引き起こされることが報告されている.38,39) 大麻乱用者において多く報告される退薬症候としては,睡眠障害,食欲減退及び体重減少,易刺激性,不安,神経質,情緒不安定等が挙げられる.報告は少ないが,憂鬱感,多汗,震え,寒気が発現するケースもある.38,39)

『大麻成分の依存性と細胞毒性』P.209

最後に

このnoteではしばしば、交通法規や交通事故を記事に取り上げている。

この観点では、危険運転致死傷(自動車運転処罰法2条1号、同法3条2項、同令3条2号)、道交法違反66条が大麻に関係する。これらとの関係のまとめは、この記事では省いた。

某所に興味深いことが記されていた。以下の項目8が興味深かった。

項目8では、大麻類の薬物検出、それに伴う事故発生時の物証保全の難しさが記されている。つまり、危険運転致死傷(自動車運転処罰法2条1号、同法3条2項、同令3条2号)の物証との関係で問題となる。

使用の物証としては尿検査で事足りる。しかし危険運転の物証には、薬物の影響によって運転に影響が出ていたことを立証する必要がある。数日前に摂取したものの代謝物が尿に残っているというだけでは、危険運転の物証には足りないように思う。そのためには尿検査(THC代謝物のTHC-COOHの検査)ではなく、血液検査レベルの精度が求められるようにも思う。このあたり、公的な情報や学術系の情報で確認できるものがうまく見つからなかった。

これらについて、知ることができればまたまとめたいと思う。


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