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和裁で「職業体験」

近隣中学校ではじめて「職業体験会」
をさせていただいた。

とは言っても…

子どもたちがこれから選ぶ進路として
職業和裁はそれだけでは収入面で食べていける職種ではない。

そのことを学校側に伝えた上で、

「世の中にはたくさんの業種で働いている人がいて、誰かの仕事が誰かのためになる。
そのサイクルによって社会が成り立っているということを生徒たちに体感してほしい。」

とおっしゃる先生方のご厚意で、
私の夢をまたひとつ、叶えることができた。

先生方の生徒達に寄せる想いと、和裁を職業として迎えてくれる温かさに感謝しながら
今も胸が熱くなる。

現代の多様な教育スタイル

現在の学校教育はどの教科も従来の座学に加え、体験やディスカッションを取り入れる多様化が進んでいると教頭先生が話して下さった。

そのひとつである
キャリア学習として丸一日、近隣のあらゆる職場に生徒さんたちが赴き、仕事を体験する。

その事を通して
「働くこと、生きていくこと、これからの自分の人生を豊かにしていくこととは、どういうことなのか」
を考える機会なのだそう。

「コミュニケーションが苦手です」
「自分から発言するのか苦手です」
「人見知りです」
「緊張しやすいです」

生徒さんたちの自己紹介文には、こんな言葉が並ぶ。でも最後にはどの生徒さんも
「でも今日は、たくさん学んで、挑戦できるようにがんばりたい。」
と言葉を結ぶ。

健気な姿勢が本当にいとおしい。

うんうん。
はじめましての人と話すドキドキも
聞きたいことを訪ねる勇気も
私がエスコートするから大丈夫。
楽しもうね。

「布」という生き物とじっくり向き合う和裁の仕事には、そういった人たちがむしろ向いているし、集まってくるものだと思う。
職人仲間にも、基本的に内向的な人は多い。
私も基本的には内向型。(絶対ウソだとよく言われるけど(笑))

準備

生徒たちからの質問事項に目を通しながら
明解な答えと
わたしが伝えたいことを整理してゆく。

和裁の知恵と着物と日本文化。
働くことへのモチベーションや大切なこと。
なぜこの仕事を選んだのか。

生徒の質問は多岐にわたる。
その場で考え込むことのないよう、
事前にこのようなエントリーシートを送ってくれた学校には、感謝しかない。

単純明快にどう答えたらいいのか
そこから踏み込んだ話はどこまですればいいのか
その答えを通して、わたしは何を伝えたいのか

ぼんやりしていた思いが頭のなかで形になる。
いい機会だ。

担当の先生から何度も連絡をくださり、
丁寧な打ち合わせ。

遠足の前日のようなワクワクで眠れずに迎えた当日。(小学生かっ!)

買い物かご2つに山ほどの道具と教材。
私の七つ道具が入った重い裁縫箱を車に載せ、いざ学校へ。

蓋を開けてみれば

異常なほどハイテンションでしゃべりまくる私と、無表情で反応のない生徒さんたち。
私が口を閉じれば
お葬式のような体験会になるだろうと、
あえて期待値を下げ、安全パイを確保。
しかし、自分が傷つかないようにとの心の準備は、全く無駄に終わった。

生徒さんたちは実にイキイキとしていた。
私が話をする度に
「おぉ~っ!」
「へぇ~!」
「なるほど~!」
と言いながら、時折メモをとっている。

紙で着物を作り、解体して繋げる。
約13%縮尺反物のできあがり。
これでも「長いなぁ…」と呟く生徒さん。

裏地のサンプルを使って、地の目を引き、
まっすぐ裁つ体験。
まず、地の目を引くことに少々悪戦苦闘。
そうだよね。そんな事日常ではまずしない。

洗える素材は仕立てる前に水通しをする。
地の目を揃えてアイロンをかける。
地の目を大切に裁断する。
こういう仕込みをしておくと、小物もより形よく仕上がるじゃないかな。
そう話すと、
趣味で手芸をするという生徒さんは、大きくうなずいていた。

少し運針の練習をして、早速実践。
ちりめんを使って、寸法1/2、できあがり1/4サイズの単衣袖作りに挑戦してもらった。

今日は運針のフォームや仕上がりの美しさなどは度外視。
絹布と戯れて手触りを覚えてもらう。
「こうやって作られてるんだ!」
という、おおかたの理解ができればよし。

鏝、鯨尺、くけ台にかけはり。
見たことも触ったこともない骨董品級の道具を、ぎこちない手つきで、しかし確実に使いこなしながら、
キラキラの眼差しと、卓越した集中力でひたむきに絹に向き合う生徒さんたち。

作業は進む。
それにつれて、私を呼ぶ声も多くなる。
彼女たちは飲み込みが早く、この短時間で
スピードも上がるのだ。

若さとは、こういうことだったと
ハッとする。

途中休憩と昼休みの間に
既製品の浴衣と、職人が作った木綿単衣の
違いを見てもらった。
「わぁ、こんなに歪んでる!」
「裾の地の目が曲がってる…。」
「こっちはすごい。まっすぐだし左右ぴったり同じだ!」
早速学んだことを活かしてくれている。
本当にうれしい限りだ。

振袖絵羽の縫いつながりに感嘆し、
表裏の釣り合い加減に納得。
羽織ってはお互いに「似合う!かわいい!」を連発しながらも
蚕繭約4000という命の重さに思いを馳せる。

午後の部はあっという間。
終了予定時間が近づくも、完成まであともう少し。
30分延長OKとの学校からのお許しをいただき、生徒さんに振ると、みんな「やりたい!」の即答。
相当な疲れだろうに、意欲的な眼差しに
こちらのテンションも上がる一方だ。

完成

朝から6時間。
長いようであっという間の時間だった。
生徒さんたちの袖も見事全員完成。
達成感でみんな高揚している。
想像以上の出来映え。
子どもの底力は、本当にすごい。

お疲れさま。よくがんばったね。
すごいよみんな!

出来上がったみんなの作品で並べられた円陣を指さし
「先生!これ映えするから写真撮って!」
と、カメラを持った先生に駆け寄る生徒さん。
「これ作ったの?すごいじゃーん!」
とカメラに納める先生。
最後にみんな満面の笑みでの記念撮影。
私も入れていただいた。
学校便りに掲載されるとうれしいなぁと、
こっそり期待したりする。

後片付けをしながら

「楽しかった!」
「こんなに集中できたのは久しぶり!」
「好きなことに集中すると、時間忘れるよね~」
「これから部活…現実に引き戻されるなぁ。」
うれしい感想を聞きながら
後片付けをしていると
「あの…着物を作る紙って、もう一枚
もらえますか?」

ひとりの生徒さんが口火を切った。

思わぬ声かけに、嬉しくなった。
「もちろん!よろこんで!」
するとその場にいた全員が、
わたしも!わたしも!
と、カラフルなコピー用紙に輪ができた。

この学びを今日だけで終わらせない。
生徒さんの気持ちがうれしくて、
ありがたかった。

「どうぞこれからも、末永く
よろしくお願いいたします。」

お見送りいただいた教頭先生から
ありがたいお言葉を頂戴し、学校を後にした。

すばらしい出会いと
たくさんの学びと
あふれる感謝と
久しぶりに刺激的で充実した一日だった。

家に帰り、心地よい疲れとともに
改めて考える。
今日、わたしは彼女たちに何を伝えたかったのだろう。
何を伝えられただろう。
そこに彼女たちの欲しかった答えや学びはあったのだろうか。
課題もある。
まだまだブラッシュアップが必要だ。

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