山口しずか(きもので暮らす仕立て屋)

町内へゴミ出しやら洗車やらお風呂掃除やら。きもので暮らす一級和裁技能士。仕立て屋をしな…

山口しずか(きもので暮らす仕立て屋)

町内へゴミ出しやら洗車やらお風呂掃除やら。きもので暮らす一級和裁技能士。仕立て屋をしながら、「選ぶ、着る、過ごす、縫う」ことをやさしく、楽しく、良い加減でお伝えしています。LINE公式アカウント「 札幌 和しごと・手しごと」 https://lin.ee/LkOwKcq

最近の記事

和裁で「職業体験」

近隣中学校ではじめて「職業体験会」 をさせていただいた。 とは言っても… 子どもたちがこれから選ぶ進路として 職業和裁はそれだけでは収入面で食べていける職種ではない。 そのことを学校側に伝えた上で、 「世の中にはたくさんの業種で働いている人がいて、誰かの仕事が誰かのためになる。 そのサイクルによって社会が成り立っているということを生徒たちに体感してほしい。」 とおっしゃる先生方のご厚意で、 私の夢をまたひとつ、叶えることができた。 先生方の生徒達に寄せる想いと、和

    • 着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~終身頃を縫う 2~完成まで

      さぁ、最終章。走りますよ~💨 額縁を作り、裾から衿下をくける 単衣きものの裾角の形状は「額縁(がくぶち)」と呼ばれています。 絵画や賞状などを入れて飾る「額縁」になぞらえてのことと思います。 浴衣ときものとの額縁は、仕立てられ方が違います。 褄下を端までくけたあと、裾の縫い代を三角に折ってくけつける浴衣仕立てとは違い、 きものの額縁は褄下、裾双方の縫い代を斜めにつまみ、対角線を縫い、縫い代を割って畳み込む。 少し高度な処理がなされています。 この仕立ては縫い代の厚みが均等

      • 「きせ」って何?

        あつらえの和服は洋服の「ステッチ」のように、生地を繋いでいる縫い糸や縫い目が堂々と見える作り方はしません。 生地を繋いでいる縫い目や縫い糸が表に覗き出ているのは美しくないという視点から、 縫い目を生地の折り目で隠すように処理しています。このことを「きせをかける」といいます。 和裁独特の手法です。 この縫い目から折り目の間の分量を「きせ」と呼んでいます。折る分量が少なすぎると「きせが浅い」または「きせがない」と呼ばれ、 多すぎると「きせが深い」とか「きせが多い」と呼ばれます

        • 着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~⑦身頃を縫う 1

          内揚げを縫う 通常は 内揚げ→背縫い→脇縫い→衽付け の順で縫って行くのですが、 今回はへらつけしながら縫い進める、 そして織難の部分を隠すために、前後身頃の縫い代を少し違えているので 内揚げ→衽つけ→背縫い→脇縫い 縫う順番もイレギュラーに進んでいきます。 まずは内揚げを前後、左右の身頃分4本を縫います。 下方向に力がかかる部分なので、細かい針目で縫います。 縫い代は裾側に倒し、ごく浅くきせをかけます。 「きせ」って何? この事に関しては、次回詳しく解説しますね。

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~⑥袖をつくる

          糸を選ぶ 縫うための糸を選びます。 布の色に溶けるような色を心がけて糸を探しますが、全く同じ色はほぼありません。近い色で迷ったときには 濃い布色には暗めの色糸を、薄い布色には明るめの色糸を選びます。 袖を縫う 色糸を合わせたら、いよいよ袖を縫います。裁ち目を整えて、地の目が垂直に交わるように据えたら、「こて」といわれる道具で 袖口、袖丈、袋縫いの印を付けていきます。 紙に製図をするなどのように、0目盛りから必要な寸法を測り、印を打つ。 この使い方をするときもありますが

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~⑥袖をつくる

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~⑤へらつけ

          の前に…。 和裁ならではの道具「こて」について、少し書きますね。 和裁での印付けには、「鏝(こて)」と呼ばれる道具で印を付けていきます。 いわば小さなコードレスアイロンです。 設定可能温度はおよそ140度から240度。手掛ける材質によって設定温度を変えます。といっても大まかなメモリのついたつまみやネジを回すだけなので、設定される正確な温度はわかりません。適温の判断は握りに伝わる温度や、水分が蒸発するときの音など、職人の肌感覚です。 鏝の金属部分はひとつひとつ手作りなのだ

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~⑤へらつけ

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~④裁断

          前回書き忘れましたが、 柄合わせをしながら裁断する場所に糸印を付けておきました。 その印を頼りに、長い反物を 袖×2、身頃×2、衿+衽×1=全部で5つのパーツが重なるよう屏風畳みにします。 それぞれの輪を測り、希望通り仕立てられる寸法があるかを確認します。 確認できたら、いよいよはさみを入れます。 畳み始めた側に来た「輪」を裁断することによって各パーツが切り離されます。 裁断するパーツの並び方は、反物の両端から中心へ向かって袖、身頃。真ん中部分が衿と衽。 という並びが通

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~④裁断

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~③柄合わせ

          ・裏表の有無 ・傷、汚れの目立ち方と位置 ・用尺の長さ ・柄の配置や規則性とそのピッチなど 反物の状態を把握しながら ・一部に柄を集めすぎない。またはすき間を空けすぎない ・表裏、色の違いや織の段差を見極める ・着たときに目立つ衿、胸元、肩、太もも、膝、お尻など、それぞれが整って効果的に見えるよう柄を置く ・極力、裾で柄が切れないように ・どうしても切れてしまうときはできるだけ重みを残せる箇所で切れるように ・傷、汚れを着用時に隠れる箇所に置く ・できるだけ用尺を無駄なく

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~③柄合わせ

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~②地のし

          狂いのない仕立て上がりのために、アイロンなどを使って縦横の布目が正確に交わるよう整えることを「地のし」といいます。 布を構成している織糸が、例えば平織りなら、垂直に交差されている状態が一番安定している状態。 このことは歪みや狂いの少ない仕上がりにつながり、まっすぐ裁たれて、まっすぐ縫われて仕上がる着物にとって、大切な要素のひとつです。 地のしの手法は、素材だったり、持っている機材だったり、職人によっても様々ですが、わたしは業務用のスチームアイロンで整えながら、巻き棒に巻き

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~②地のし

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~ ①検反

          夏大島の仕立てを承りました。 形は同じでも、仕立て方は千差万別。 わたしの仕立て方はその一部にしか過ぎませんし、それが正解ではありませんが。 救われた反物から、愛情こもったきものへ。 少しずつ姿を変えていく様子の一例として お見せできればと思います。 画像掲載のご協力をいただきました @kamakura_iroha 鎌倉イロハ さま 誠にありがとうございます。 今回はあらかじめ仕立て前加工が終わっていたものをお預かりしましたので、すぐ作業に入れました。 検反 地のし(ア

          着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~ ①検反

          きものの仕立てはなぜ手縫いがよいと言われるのか ② デメリット編

          前回に引き続き、きもの暮らしの中でわたしが感じる「手縫い仕立て 」について。 今回は手縫いのデメリットと、ミシン仕立ては本当に早いのか、をテーマに仕立て屋目線から記してみます。 手縫いのデメリット ・厚い生地では縫い目が荒くなりがち ・縫い目と垂直方向への引っ張り時、糸が覗きやすい ・縫い目が華奢で弱いという先入観を持たれやすい 厚い生地では縫い目が荒くなりがち 三河木綿きもののお仕立てを受けたことがあります。 かなり厚手でしたが、木綿独自の温かさと、独自加工が生きた艶

          きものの仕立てはなぜ手縫いがよいと言われるのか ② デメリット編

          きものの仕立てはなぜ手縫いがよいと言われるのか ① メリット編

          きもの暮らしの中で、わたしが感じる「手縫い仕立てのよさ」についてのメリットを 仕立て屋目線から記してみます。 手縫いのメリット ・縫いあとがつきにくい ・生地を痛めない ・ほどきやすい ・細やかな急所が正確に出来上がる ・針目を縫いながら調整できる ・柔らかく、温かい仕上がりになる ・体のラインや動きによく馴染む ・洗濯による狂いやツレが生じにくい これらのことがなぜメリットなのか、もう少し詳しく記してみます。 縫いあとがつきにくい、生地を痛めない、ほどきやすい 「ほ

          きものの仕立てはなぜ手縫いがよいと言われるのか ① メリット編