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着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~⑥袖をつくる

糸を選ぶ

縫うための糸を選びます。
布の色に溶けるような色を心がけて糸を探しますが、全く同じ色はほぼありません。近い色で迷ったときには
濃い布色には暗めの色糸を、薄い布色には明るめの色糸を選びます。

暗すぎると目立つ、明るすぎると光って目立つ。
くけ目が見える単衣での糸選択は特に悩ましい。

袖を縫う

色糸を合わせたら、いよいよ袖を縫います。裁ち目を整えて、地の目が垂直に交わるように据えたら、「こて」といわれる道具で
袖口、袖丈、袋縫いの印を付けていきます。

紙に製図をするなどのように、0目盛りから必要な寸法を測り、印を打つ。
この使い方をするときもありますが、これとは逆に
測りたい寸法の目盛りを布端に合わせ、物差しの先端(目盛り0)にこてを当てて、印を付ける。
ということもします。
このときに生じるへらの厚みを生かして、指定寸法に優しさを持たせることもありますし、へらの厚みをあらかじめ考えて物差しの置き方を加減して隙のない寸法取りをしたり、物差しを加工したり。
職人それぞれに様々な工夫をしています。

こてのかけ面が緩やかな球体なので、
少し傾けて物差しの先端に密着させます。

へらつけが終わったら袖底になる部分で、
布は外表にして裁ち目から少し控えたラインを一本縫います。後にひっくり返して袖丈の印通りにもう一度を縫って袖を完成させるのですが、
この「袋縫い」という縫い代の始末をすることで、できあがりの袖の縫い代は裁ち目が見えなくなり、ほつれず、美しく仕上がります。
(画像、撮り忘れました。💦)

袖口をくける

次に袖口をくけていきます。
表に小さな針目を出して、裏は折った縫い代のトンネルを通して縫い進める方法を「くけ」といいます。

袖口のくけ上がり巾は細い方が美しいとされています。
今回は繊細な絹なので
生地の端を指先で丸めながらくける
「よりぐけ」にしてみます。

くけ代も無地にするのが常識なのでしょうが、あえて柄を見せています。
なぜ?
汚れが目立たないように。
着ると汚れやすくて、汚れが目立つのは肌が触れる袖口のくけ代だからです。

左の指先でこよりを作るように撚っていきます。
糸は縫い代のトンネルを通っています。
表には小さな目がこんにちは!


袖口をくけ終わったら、袖下、袖底を縫っていきます。途中折れ曲がるところは丸み(カーブ)を付けて縫います。

袖口からカーブして袖底まで、一気に縫います。


次に「丸み」といわれるカーブを美しく仕上げるために、縫い代を縫い絞ります。
近年は半径5分(約2cm)の丸みが主流ですが、これは決まりごとではなく
袂の長さや、年齢、お好みで選ぶことができる、実は自由度が高い部分です。
男物や一般的によく見られる、シャープで粋な印象の小さい丸み
子ども物や振袖などに見られる、可愛らしさや優しい印象の大きな丸み

本来自由に決められる袖の長さ、丸みの大きさは、その着物を印象づける要といえるでしょう。
素材や色、柄、着こなしたいイメージにあわせて袖の形を変えるのも楽しいですね。


型を使って形を整えつつ、縫い代も平らに。
均一な厚さになるように工夫して納めます。


袖丸みの縫い代を絞ったら、表に返してしつけ掛け。袖巾のへらつけをして袖付け部分を残して振りをくけます。

くけた直後の裏。
ここから糸を馴染ませ、つれを取ります。


表に返すとこんな感じ


同じ手順でもう片方も作り、左右の袖が完成します。

ご自身できものを仕立てたことのある方はお分かりいただけるかと思いますが…。
同じ寸法のものを2つ、寸分狂わず作るって、実はむずかしいのです。
物差しの当て方、へらの付け方、縫う手順や手つきなど、常に一定の感覚でできるようになることが求められる部分だからです。

両方の袖、完成!

縫い上がった直後はまだ落ち着きがないので、優しく押しをしながら身頃が完成するまで、おやすみしてもらいます。

この感じ、
煮物の味が、冷めながらじっくり染み込む様子に似てるなぁ…(笑)と、いつも思います。



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