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着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~終身頃を縫う 2~完成まで

さぁ、最終章。走りますよ~💨

額縁を作り、裾から衿下をくける

単衣きものの裾角の形状は「額縁(がくぶち)」と呼ばれています。
絵画や賞状などを入れて飾る「額縁」になぞらえてのことと思います。
浴衣ときものとの額縁は、仕立てられ方が違います。
褄下を端までくけたあと、裾の縫い代を三角に折ってくけつける浴衣仕立てとは違い、
きものの額縁は褄下、裾双方の縫い代を斜めにつまみ、対角線を縫い、縫い代を割って畳み込む。
少し高度な処理がなされています。
この仕立ては縫い代の厚みが均等で美しい仕上がりになります。
左右の額縁を作ってから、褄下、裾を一気に三つ折りぐけします。

額縁と褄下、裾のくけ

衿をつける

衿の形には主に「広衿」「バチ衿」「棒衿 」という種類があって、着物の種類や性別、年齢、好みなどで選ぶことができます。

今回は広衿。
身頃を表衿、裏衿に挟んで3枚一束に(縫い代が重なる部分は5枚になることも)縫います。

布に対して縫う方向が縦、横が基本原則のきものですが、唯一生地の斜め線を縫い進んでゆくのが衿つけです。
身頃の衽部分から始まり前身頃、後ろ身頃衿ぐりのカーブを通って、反対側も同じルートで帰ってくる。
斜め線とカーブ線に、まっすぐな衿地を沿わせて縫うことになります。
縫うときは布と布を合わせて引いて、生地同士をぴったり張り合わせたような状態で縫い進めるのですが
バイヤスで引くとどこまでも伸びる衽や身頃の斜め線に、引いても伸びない衿の縦生地を合わせ、
衿ぐりのカーブでは、立体である体に着用した時の衿つけ線が美しく整うよう、衿に緩みを入れた状態をキープしつつ、バランスよく縫う。
なおかつ、平面に置いたときはまっすぐに見えるように。
そんなことに配慮しながら縫っています。
技術のいるところです。

衿つけ(首周り)
着たときは円、置いたときは一直線を描くのが理想

かけ衿をつける

衿の上には「かけ衿」というもう一枚の短い衿がつきます。
きものが普段着だった時代、汚れやすい衿部分だけを取り外して洗い、また取り付けて清潔に、長く着る。
当時も高価であったろう一枚のきものを、長く大切にしようとする先人の知恵に、頭が下がります。
(なぜかこの部分だけ(笑))画像をたくさん撮ったので、順を追って見ていきましょう。

かけ衿先はしつけをしておいてから…
地衿に縫い付ける
裏返すと、こんな感じ
かけ衿を地衿にくける様子。

着用時によく引っ張られる小衿周りは特に、かけ衿がめくれても地衿が覗かないよう、地衿の奥際を掬ってくけていきます。

衿を仕上げる

衿の中にある衽や身頃の縫い代を整えて衿の中に納めます。
かけ衿がついている部分は縫い代も多いため、縫い代を整えて大きく縫いおさえてから、裏衿を被せ、表衿より少し控えてくけています。
控えた衿裏生地が、衿先部分で表の衿巾と合致するまでのラインは優しいカーブを描くように仕上げるのが今のスタンダードです。
袷きものの「裾褄」と呼ばれる部分と似ています。

表衿と裏衿のくけ合わせ
身頃が完成しました!

袖をつける

袖は袖底の縫い代が振りにくけつけられている(厚みが出ている)方が前です。
初心者の頃はよくわからずに同じ向きの袖を二枚作ってしまったり、
左右反対に袖をつけて愕然としたり(汗)。
いろいろやらかしました(笑)

左右の袖を確認して、袖付け開始!

きものを着るように身頃から手を入れて、身頃と袖のつけ部分を握りながらひっくり返し、袖を見てまち針を打ち、縫いはじめと縫い終わりにかんぬき留めをしながら袖を縫い付けていきます。
この方法もいろいろありまして。
身頃を見て縫う方法。
袖付け縫いを終えてから、はじめと終わりにかんぬき留めをする方法。
など、修行先やその職人の手さばきなどで様々ですが、どれが良いということではなく、仕上がりの形はほぼ同じです。
袖付けのはじめと終わり部分は損傷しやすい部分なので(ドアノブに振を引っかけたり、激しく腕を動かしたり、着付けで強く引いたりしませんか?わたしもあるあるです。)、仕立てるときにさまざまな方法で補強します。
その一つが「かんぬき留め」です。
詳しくは、またいつかの時に。

袖付けが済んだら、裏に返した状態のままきせをかけて、ひらひらしている袖の縫い代を三つ折くけしていきます。

もうすぐ完成です!

袖をつけたら裏返したまま、
袖の縫い代をくけます

完成~仕上げ

完成しました~🙌

その後正しい折り目を整えて、納品日に余裕があれば3日間ほど人肌の温度で押しをします。
熱いアイロンで短時間プレスするよりも
しっとりと落ち着き、余計なシワができていても簡単に消すことができます。
絹という命の繊維は人肌のぬくもりで、しっとりと落ち着き、優しさを持った仕上がりになります。
それはまるで
それまで激しく泣いていた赤ちゃんがお母さんに抱かれると、安心して眠りにつく様子に似ていると感じます。

仕上がったら、残布や証紙に今回の仕立て寸法表、保証カードを添え
新しいたとう紙に包み、
感謝を込めてお客様のもとへ。
いよいよ卒業です。

今回のきもの
縫った総距離  21.64m
くけた総距離  17.42m              
総距離              39.06m 
お預かりからお渡しまでの時間  約62時間
(待機、配送時間を除く)


お客様の笑顔と着姿を想像しながら
今ある技術を尽くして
頭で考え、手で縫い、体温を込めて手作業で整える。
このすべてが、私たちの対価です。



この度、記事執筆にあたり画像掲載許可をくださいました
きものごと  鎌倉イロハ さまに

https://instagram.com/kamakura_iroha?igshid=MzRlODBiNWFlZA==

ここらからの感謝を添えて。
ありがとうございます(^-^)

おしまい。

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