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着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~⑦身頃を縫う 1

内揚げを縫う

通常は
内揚げ→背縫い→脇縫い→衽付け
の順で縫って行くのですが、
今回はへらつけしながら縫い進める、
そして織難の部分を隠すために、前後身頃の縫い代を少し違えているので

内揚げ→衽つけ→背縫い→脇縫い
縫う順番もイレギュラーに進んでいきます。

まずは内揚げを前後、左右の身頃分4本を縫います。
下方向に力がかかる部分なので、細かい針目で縫います。
縫い代は裾側に倒し、ごく浅くきせをかけます。

身頃の内揚げ、表と裏
縫い目は約3.8cmに10~11目入っています

「きせ」って何?
この事に関しては、次回詳しく解説しますね。

衽(おくみ)をつける

今回は先に前身頃に衽をつけます。
衽と身頃を中表に合わせて、身頃を見て縫います。
衽側に縫い代を倒してきせをかけます。
(ここまで、画像取り忘れました💦)
縫い代を折って、衽にくけます。

くけているところ。
表地をすくいながら、
縫い代のトンネルを針と糸が通っています。
表から見たところ。
拡大して見ると、小さなくけ目が見えます。

くけ目は表に目立たぬよう、できるだけ小さい方が美しいのですが
あまりにも小さいと力がかかったときに生地が切れてしまう恐れもあるので、そこのさじ加減が難しいところです。

衽がつきました!

右が身頃、左が衽。
衽にも揚げをとったのは、
この柄を合わせたかったから。
反対側。左が身頃、右が衽。
衿つけ線の縫い代をしつけでおさえてあります。

縫い代の始末について

後で裾を三つ折りしてくけるのですが、
この部分、縫い代が重なるところとそうでないところとでは厚みの違いによる激しい段差ができてしまいます。
その段差を少しでもなだらかにするために、工夫された方法が複数あります。

今回は、
・「折れ」や「スレ」には強くない大島という素材であること
・通常、裾は痛みやすい部分であり、仕立て替える時には使えない部分として裁ち落とされることが多いということ
・仕立て直しをする場面にあっても、身頃も衽も充分な長さが残っていること

という点を考慮して、
縫い代には一部切り込みを入れて広げる方法で進めます。

裾(下側)での縫い代の始末

切らずに始末する方法もあります。
仕立て屋は、その時の反物や寸法、お客様の着用頻度など、伝えられている情報をもとに、始末の方法を決めると思うのですが、

「絶対縫い代にはさみをいれたくない。」
「もともとの丈が短いので、仕立て直しの時に少しでも長さを残したい。」
「仕立て直したときに、柄の位置を少しも下げたくない。」

など
特別にご希望があれば、事前に「縫い代は切らないで」と、仕立て屋に指定することもできます。
衽つけが終わったら、衽付け線から前巾をとり、脇縫いの印をつけます。

背縫いをする

その名の通り、背中心を一本縫います。
背縫いの縫い代始末は、きものの種類やお手入れの仕方などを考慮して様々な方法がなされます。
今回は繊細な高級品「夏大島」なので、
「背伏せ」といわれる薄いテープ状の絹布で縫い代をくるむ方法を用います。

背伏せも一緒に背縫いします。

スッキリな背縫い線に仕上げるために
きものの生地と異なると背伏せ布とを釣り合いよく縫い合わせることにも
実は技量がいります。
仕上がりに影響するところなので
慎重に、丁寧に。
縫い終わったら、背伏せ布で縫い代を包んで反対側をくけていきます。

くけ糸は、背縫いの縫い目よりはみ出ないように

背縫いの縫い代は頻繁な着用によって擦りきれていく部分でもあるので、こうしておけば背伏せ布がきものを守ってくれるという効果もあります。
今回は内揚げより下部分に居敷当てという別布を貼るので、
余計なごろつきを防ぐべく、背伏せは見えるところだけに。
できあがった背縫いから後ろ巾をとり、へらつけをします。

後巾のへらつけ

脇を縫う

衽付け後に付けた前身頃の印と、背縫い後に付けた後ろ巾の印をあわせて脇を縫っていきます。
内揚げ部分の縫い代は重なりが多いので荒い針目になりがち。なので、返し縫いを施します。

脇縫い:袖付け側の縫い止まり部分

(縫うときに気を付けていること)
縫い糸はきつく生地を締めあげないよう、生地に柔らかく馴染むよう、、「糸こき(または糸しごき)」というひと手間をかけながら縫い進めます。
今回は大島。あまりごしごしと指でしごくと、生地の織糸までひけてしまうので、気を付けながら優しく、確実に。
生地の性格に合わせたこの手加減は、手縫いだからこそできるプロセスなのです。

糸こきが十分である目安は
ひとつひとつの縫い目が米粒状であること

脇縫いの縫い代は、前身頃側に倒して「きせ」をかけ、三つ折にして前身頃にくけます。

居敷当(いしきあて)をつける

後ろの腰から下、特にお尻の辺りには透け、生地の伸び防止のために「居敷当(いしきあて)」という別布を貼るのが現代仕立ての主流ですが、居敷当をつけるタイミングはだいたい脇縫いとその縫い代をくける間にくることが多いでしょう。今回も、脇縫いが終わったあと、1部分だけ縫い代をくけて居敷当をつけていきます。

縫い代と居敷当釣り合いを確認しながら針打ち
居敷当てに小さな針目を出しながら綴じる

背、脇の縫い代に居敷当を綴じてから
居敷当の縫い代を身頃にぐるりとくけていきます。
脇縫いの縫い代は、居敷当と身頃の縫い代を一緒に折り込んでくける方法と、先に身頃の縫い代をくけつけたあと、居敷当の縫い代を畳んで重ねてくける方法とがあります。
素材によって表から見て、美しく見える方法を選びます。
今回は居敷当ての縫い代が十分あったので、身頃の縫い代と一緒に折り込んでくけました。

居敷当がつきました

脇のくけたあとがふかふかしていますが
表から見たときに身頃が引きつらないよう、なおかつ、こてをあてると落ち着く。
微妙なバランスを考えての、この状態です。

身頃の素縫いができました!

後ろ

今日はここまで。
次回はちょっと寄り道して
「きせ」について、お伝えします。


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