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何を信じて書けばいいのか、迷った日々のこと。そして発売日が決まりました!【クリキャベ編集日記-その4- せやま南天・改稿編】

創作大賞2023(note主催) 朝日新聞出版賞受賞作『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の著者せやま南天と担当編集者Kさんの編集日記です。
★ひきつづき改稿について。第4回は、著者せやまの目線でお届けします。

改稿の日々、前回はこちら。
 ・その2(せやまの日記)
 ・その3(編集者Kさんの日記)

文字数との闘い
 ―打ち合わせ③、第3稿を書く―

手帳に書いていた、クリキャベの文字数変化


「はあ。本当に大丈夫なのかな」

一日の執筆作業の終わり。
手帳に書きつけた字を眺めて、ため息が出た。

小説『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の文字数は、ここ最近マイナス進捗が続いている

数日かけて書き上げたプロットを見ながら、編集者Kさんと3回目の打ち合わせ(Zoom)をし、修正方針は固まっていた。

あとは、修正するだけだ。

そう思っていたのに、私のこの手の読みは、今回もハズレらしい。方針どおりに修正するほど、文字数は減っていく。

そして、文字数が減っていくほど、
書籍化への道が遠のいていくような気がして、不安になった。

というのも、初回の打ち合わせで編集者Kさんから言われたことが、頭にあったからだ。

ある程度の枚数がなければ書籍化が難しくなります。
せやまさんの場合は、この段階で約52000字。400字詰め原稿用紙で考えると130枚でした。初回の打ち合わせで、最終的に180枚以上を目指したいというお話をしました。

【クリキャベ編集日記-その1- 編集者K・改稿編】より

第2稿では184枚ほどになり、目標に届いた!とせっかく思ったのに、Zoom打ち合わせ後はどんどん削り、今は166枚ほどにまで減ってしまっている。

もしかして、初回の打ち合わせと、今回のZoom打ち合わせでは、真反対の方針で進もうとしているのではないか。
このまま編集者さんを信じて進んでも、大丈夫なのだろうか。

と初めてここで、思ってしまった。

とにかく言われたことを受け止めて進んできたけれど、ここに来て何を信じていいのか分からなくなった。ズブズブと沼に足を取られて、一歩も進めないような気持ちになる。折悪しく、この時期Kさんは休暇に入られていて、一人で不安を抱え込んでしまったのだった。

ズブズブズブズブ……


信じて進め! のその先に
 ―第3稿を書く―


そんな私を救ってくれたのは、とある配信だった。創作大賞で、私と同じ時に受賞された秋谷りんこさんの、小説改稿の様子を伝えるものだ。

アドバイス役の作家の新川帆立先生が、りんこさんに向けて、
新人作家は迷うこともあるけれど、とにかくまずは、編集者さんは味方だと、信じて進め!
とおっしゃったことが、めちゃめちゃこの頃の私に刺さった。

その言葉を聞いて、
もう一度、Kさんを信じて進んでみよう、
と心に決めたのだった。

時に外に出て、書いたり読んだりしていた

そうして再び、書いて読んでを繰り返すうちに、
「あれ?」
と思う瞬間がやってきた。

「これはなにやら、すごく……いい感じじゃないか!? 私が、一番はじめから書きたかったテーマが、浮き出てきた気がする

一体何がおきたのか。
冷静になって考えてみる。

はじめは、初回の打ち合わせで言われた「主人公・津麦の過去を書く」「文字数を増やす」ことに、猪突猛進していた。何を書けばいいかまで言及されなかったために、私はただその2つをクリアすれば、及第点はもらえる、と勘違いしてしまった。

私が第2稿で追記したエピソードは、津麦の過去には違いない。文字数を増やすこともできた。
けれど、この小説の中で書くべきことではなかった。
私の一番書きたかったテーマは追記したエピソードによって、遮られてかすんでしまっていた。

もともと書きたかったものへと軌道修正しようとしているのが、この第3稿なのだとようやく気づいた。

せやまさんの作品の良さの一つである、
細部を丁寧に描くことを生かして、さらに書きこんでいただければ、きっと大丈夫。
現時点では、ボリュームよりも、作品の構成を意識して、加筆していただいた一部を削るということもしなければいけないと判断しました。

【クリキャベ編集日記-その3- 編集者K・改稿編】より

11月はじめの頃は、私がKさんの言葉からここまで汲みきれていなかったのも進めなくなってしまった一因だったのかな、と思う。

この感覚は、なんだか懐かしい感じがした。

私は以前の職場(システム開発)で、人に何かをお願いをして、文書やプログラムを作ってもらうことが頻繁にあった。初めて一緒に働く相手には、なんと言ってお願いすれば伝わるのか、試行錯誤を繰り返した。

私の言った言葉で、
相手が作り込みすぎてしまったり、
全然違う方向に作ってしまったり、
全く作ってもらえていなかったり、した。

何度も、伝え方を変え、軌道修正していかなければならなかった。

でも、長くて3ヵ月。
3ヵ月たてば、ちょうどよい伝え方や距離感をお互いにつかんでくる、と前職の中で私はだんだん気づいていった。

出版業界にきても、それはきっと同じ。
はじめまして同士は誰だってそうだ。

この時、編集者Kさんと私は出会ってまだ1ヵ月と少し。
まだまだはじまったばかりの関係だ。

たくさん話して、
お互いの言葉を受け止めて、
お互いのちょうどよいを見極めていけたらいいな。

そう思った。


原稿を一番に読んでくれる人
 ―打ち合わせ④―

4回目の打ち合わせは、某書店の中にあるカフェで

「全体的にすごく良くなっています。
 今回の修正で、仕上げても大丈夫なくらいです」

檸檬スカッシュを飲んでいた私は、Kさんの第一声に、ほっと胸を撫で下ろした。

細かな追記をしていった結果、第3稿は180枚近くまで挽回していた。Kさんの読み通りである。文字数は気にせず、このまま丁寧に進めていこうと話した。

そして、流れやエピソードは基本的にこのままとし、文中の細かな表現を確認していくことになる。

「ここなんですけど……」
「あぁ、そこは、私はこう考えているんです」
「そうなんですね!! 私はこうだと思っていました」
「じゃあ、上手く伝わるように、もう少しだけ言葉を足した方がいいかもしれませんね」

といった会話が幾度もあった。

Kさんが小説から読み取ってくださったイメージと、私の考えていることとを、一つ一つぶつけたり、すり合わせたりしていく。

はっと時計を見ると、打ち合わせをはじめてから、2時間半ほどがたっていた。昼食の時間をすぎても喋り続けていたのだ。

打ち合わせ後に、Kさんと書店を見てまわり、装幀の希望などを伝えてから、帰路へ。

今回の打ち合わせで、Kさんがクリキャベをすごく大切に読み込んでくださっていることを、ひしひしと感じた。そして、

打ち合わせ楽しかったな。私の改稿をお渡しし、一番に読んでくださる相手が、Kさんで本当によかったなぁ。

と思っていると、Kさんからこんなメールが届いた。

私もです!と前のめりに返信をした。

Kさんとの距離が一歩、二歩と近づいた気がして、ジーンと嬉しくなっていた。


自分自身が納得し切れるように
  ―第4稿・第5稿を書く―

第4稿を書き上げて提出すると、Kさんからは、

「これで入稿でも大丈夫ですが、時間がないわけではないので、2週間ほど確認の時間をつくりますか?」

【クリキャベ編集日記-その3- 編集者K・改稿編】より

と尋ねられた。大きく手を加えられるのはラストらしい。自分で、第5稿を書くことに決めた。

「せやまさん自身が納得できるかどうかが一番大事」と、最後に言ってくださった言葉をお守りみたいにして、第5稿に臨んだ。

編集者さんからもらう及第点を目指して書いた第2稿のことを思い返しながら、今度こそ、「自分自身が納得し切る」ことを一番に考えようと思った。

季節は冬へ移り、
改稿も佳境に入り、手放せなくなったドライアイ目薬

少しでも違和感があるところは残したくない。

気になるところを書き直しては、
黙読、
声に出して読む、
パソコンで音声読み上げ、
などいろんな方法で読んでみて、しっくりくるかを何度も何度も確認する。

もう大丈夫。
これで出版しても悔いはない。

そう思えるところまで、書き上げた。


ついに、発売日が決定しました!!!!!

編集日記はこのあとカバー編、校正編へと続きますが、書籍の作業はいよいよ大詰めを迎えています。
そしてこの度、

ついについについにっ!!!
『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の発売日が決定しました!!!!!!!

2024年4月5日(金)
に発売されます。

昨年の「ダ・ヴィンチ」に載った予定日より早まりました。単行本です。出版社は、朝日新聞出版です。

なんとAmazonの予約は、もうできます!!!


たくさんの人の手をお借りして作り上げた、
『クリームイエローの海と春キャベツのある家』をぜひ手にとって頂けると嬉しいです。


***

次回、編集日記(その5)は編集者Kさんによる「カバー編」です。
デザインをbookwallさんに、イラストをnoteで知り合ったぷんさんに、依頼したカバー。Kさんとどんなやりとりがされたのか、私も楽しみです!

せやま南天

読んでくださり、ありがとうございます! いただいたサポートは、次の創作のパワーにしたいと思います。