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さよならのあとさきに 処暑 (4)


 早速、娘に電話する。
 『明菜、あんた卒業したらこっちへ帰んなさいよ、良いわね。』
 『帰んないわよ、私ずっとこっちに居るわ。今のバイト先で正社員にしてくれるって言ってるし、それに社長の息子が私を是非にって言ってくれてるの。いずれ社長夫人よ。』
 初っ端から計画が狂った。
 自分の時を思い出す。
 地元の高校、地元の女子大、地元の小学校と一度も外へ出ていない。
 出来るだけの教育をと思い、一人娘を都会に出したのが間違いだった。
 都会での出会いや煌びやかな刺激は、やはり自分というものを変えてしまう。

 今の彼は、いつまで同じ学校に勤めるか分らない。
 何時転任するか、教育委員会と校長の判断による所が大きい。
 一日でも早く校長になるか、、、
 教育委員会へ転出するか、、、
 いや、次の誰かに期待する方が良いのか、、、
 出たとこ勝負とするか、自ら動くか、、、
 沙月、逡巡しても答えを見つける事が出来なかった。
 彼の事と、いつ誰がやって来るか分からない次の彼の事を考えているさなか、ある事が閃いた。

 【いっそ、明菜が帰らざるを得ない理由があれば、、、、諦めて帰るかも、、、やらないよりやった方が後悔しない。】

 沙月はPCで文章を作った。
 ”貴社でアルバイトをされている藤沢明菜さんは、自分の主人と不倫をしています。証拠もあります。
  主人をお返しください。藤沢さんに身を引く様に説得してください。表沙汰にはしたくありません。修羅場は嫌です。
  何事も無かった様に、元通りの暮らしが戻ればそれで良いのです。
  貴社の賢明なご判断を、心より希望します。”
 娘の明菜は写真投稿SNSにアカウントを持っている。
 それらしい写真を探す。大人の雰囲気のバーで飲んでいる写真。
 あった。隣には同級生かバイト先の御曹司か知らないが、肩を寄せられ相手に身を預けている。
 早速、その投稿写真をダウンロードし、加工を始めた。
 隣の男の写真を、ネットで拾った中年サラリーマンの同じような姿勢の写真と重ね合わせる。
 細かい切り取りや大きさ調整を繰り返し、それらしい写真が出来上がる。
 先程の文面と出来上がった写真を携帯へ保存し、コンビニへと向かう。
 文書はA4紙へ、写真はL判へと解像度を落とし印刷する。
 明菜へ電話した。
 『明菜、今行ってるバイト先ってなんていう会社?、ほらいずれ、玉の輿に乗るんなら、今から準備したいじゃない。教えてよ。』
 すんなりと娘は話してくれた。
 それを携帯で検索してみる。
 IT企業で、従業員が4,50名の中堅と言った所か。
 企業概要で住所と代表者名を控える。
 封筒を購入し文書と写真を入れ、代表者宛に送ることにする。
 次に休みの日、娘の住む都会へと行こう。そして投函しよう。

 【明菜も、私が出したとは思わないはず。ボンボンとギクシャクして、上手く行かなくなれば良いだけだもの。さあ、どうなるか。】

 彼が来てくれた。
 月に1,2回、気を失う位に攻めあげてくれる彼。
 微睡みの中、彼に計画を話してみた。
 「無理だよ。だって俺、妻も子供も居るからさ。」
 「えっ、そうだったの?、、、ああ、、、最初に確かめてなかったけど、、、、そう、それは仕方ないわね。でも、私とは続けてくれるでしょ?」
 「もちろんさ。こんなに刺激的なSEXからは逃げられないよ。」
 「良かった、、、じゃあ、今の話は無しね。」

 今の彼とは、出来るだけ長く関係が保てればいい。
 ただ、次の候補は見つけて置くに越したことは無い。
 まもなく新任の教師がやってきた。
 今の彼とはタイプの違う、インテリ風。
 【次はこれだ。】
 「何か困った事や分らない事は無い?」何かと話しかける。目で追う。
 「教頭先生、ご相談が、、、」
 「良いわよ。どこで話す?」
 「お宅へお邪魔しても良いですか?」
 「ええ、もちろんよ。」
 【願っても無いチャンス。向こうから転がり込むなんて、、、そうだ、この彼を娘にどうかしら、、、】

 娘に電話をした。
 『明菜?、どう最近。例の彼とはうまく行ってんの? 玉の輿のチャンス、逃したくないわよね。』
 『うん、順調よ。ライバルが多いから大変なのは大変よ。変な手紙は来るし、おかしな電話は掛かって来るし、、、まあ、イケメン御曹司はしょうがないわね。
  私自身が磨きに磨いて、他の女より魅力的であれば良いだけだもの。良いモチベーションになってるわ。』
 『そう、頑張んなさいよ。良い知らせ、待ってるから。』
 【なあ~んだ、例の手紙らしきものなんて、みんなしてるんだね。じゃあしょうがない。前の彼と新しい彼と上手く調整して行かなくっちゃ。】

 その夜、新任の彼が訪ねてきた。
 「遅くからすみません。お邪魔します。……連れが居るんですが良いですか?」
 「え、お連れさん?、、、誰かしら。」
 新任の彼の向うには、いつもの彼が立っていた。
 「教頭先生、酷いじゃないですか。目移りするなんて、許しませんよ。」
 「あ、、、なんで、あなたが、、、許さないって、、、、」
 「さあ教頭、いや沙月さん、、、、3P行きますよ。寝かせませんよ。」いつもの彼が不敵に笑っている。
 「僕も参加します。まだ若いので何度でも、、、行けますよ。」新任の彼も、笑っている。

 初めての3P。あらゆる穴という穴を責められ、出るものはすべて体内から放出された。
 若い男性二人からの精気は、お腹一杯になる。それもまた吐き出させて貰える。
 入れたり出したり、零れ出たあらゆる液体の中で溺れてしまいそうになる。
 気が遠くなる。目の前が白くなり、やがて見えなくなる。別世界に連れて行かれた。

 ある日、沙月は市の教育委員会へと呼び出された。
 「藤沢教頭、告発文が届いています。心当たり、、、有りますね。」
 「な、何の事でしょう、、、」
 「○○さん(いつもの彼)の奥様からの手紙、読まれますか?、、、写真も同封されています。」
 「……写真、、、、」【プレイの時、彼は携帯で撮ってたっけ、、、、それを、、、】
 教育委員会の課長は沙月の目の前に、白い封筒をそっと差し出した。
 沙月、中身を改めるまでもなく、観念した。
 「ご迷惑をおかけしました、、、全ての職を辞職いたします。」
 立ち上がり深く頭を下げる沙月。
 長い髪が垂れ下がり、誰からも見えない所で沙月の顔は、、、笑っている。笑い声を抑えるのも苦労するくらい、笑っている。
 【みんな考える事、一緒なんだ。】

 【さあ、どこへ行こうかしら、、、どんな人でも受け入れてくれるあの町へでも行こうかしら、、、】

 藤沢沙月は、家を後にした。
 昨日まで行っていた小学校は夏休みも終わり、今日から新学期が始まる。

 まだまだ暑い、夏の日だった。

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