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愛をする人 (2)


 中学2年の頃、、、

 「良いよね。ギター、、、弾ける人、カッコイイよね。」
 本屋で偶然に会った亜希子からの一言で、俺は音楽教室へ通う事にした。週に一回、木曜日の6時30分からの30分。
 ショッピングモールの一角にその教室はあり、ギターを持っていない人には貸してくれる。
 何回か通った後、その音楽教室を主宰している楽器屋から購入すると、年一回の発表会へ参加できる特典が付いてくる。
 得なのか、無用の長物なのかは、その人次第ではある。今更ゆえに言える事。
 初日、夕方6時に教室へ行き待機場所で備え付けの音楽雑誌を見ていたら後ろから声を掛けられた。
 「□□君?、、、、」
 亜希子だった。
 「あっ、、、あれっ、、、◯◯さん、、、、、き、今日何?」
 「ピアノ、習ってるの。小さい頃から、、、、□□君は?」
 「あ、、、俺、ギター、、、習おうと思って、、、、」
 「へえ~、、、頑張ってね。いつか同じステージに立てると良いね。」
 「お、、、おう~、、、そうだね、、、、」
 それからレッスン開始まで、何をどう話したのか記憶は無い。
 大きな声で話すことは憚れる待機場所でもあり、目の前に座る亜希子の制服から覗く、はち切れそうなボタンとボタンの広がったブラウスが視界に入る度に血は頭へ上るし、その血は股間にも供給されズボンを押し上げていた。
 大きなテーブルで、亜希子から見られることなく過ごすことが出来て、、、助かった。

 それから毎週の様に教室で、レッスン前の会話をするようになった亜希子と俺。
 学校でも目が合えば、微笑むかどうかぐらいのシグナルを送り合う。
 俺は俺でしょっちゅう亜希子を目で追っていた。ノートの片隅に、亜希子の横顔の似顔絵も描いたりした。
 和美たちからのイジメもいつの間にか無くなり、違う子達と仲良くなった亜希子は段々と笑顔が増えている。
 それを見て俺は、安堵の様な気持ちと、何かしてやれることは無いだろうか、、、、例えば買い物に付き合うとか、その時に昼飯をご馳走するとか、、、
 どこかに遊びに行きたいと言えば、それを調べたり実際に一緒に行きたいと思うし、誕生日とかにプレゼントとかしたいなと思う様になって来ていた。
 そんな俺の挙動不審さや、開ききった瞳孔を見抜いた悪友がこう話し掛けてきた。
 「オイ、健夫。お前亜希子の事、好きなんだろう?、、、付き合ってくれって言ってみれば?、、、但し、あのヤンキーから焼きを入れられることは覚悟しないといけないけどな。」
 俺は戸惑った。亜希子と付き合いたくなってきてるのだろうか、、、亜希子の嬉しがるような事をしてやりたいなとは思っているが、、、
 しかしそれは、、、、毎晩のようにおかずにさせて貰っている”お返し”の意味が大きい様な気もしている。
 一方的な感謝でしかない。俺が見ている亜希子は青年週刊誌のグラビアやヌード写真と同じ方向にいるのかもしれないと思うと、亜希子にはそんな事言えない気がしているのだった。
 「い、いや、、好きとかじゃなくて、、、、なんて言うか、あのオッパイが、、、、ってかそうじゃなくて、、、、」
 「告ってみないと分かんねえじゃんか、、、上手く行けばさ、、、、、ヤラしてくれるかもしれないじゃんか」
 悪友はそう耳元で囁いた。
 【ヤ、ヤラしてくれる、、、お、俺は、、、】
 『俺はそんな目で亜希子を見てはいないっ!』、、、、なんて言えるはずもなく、ただただえへらえへらと笑ってごまかした俺だった。

 悪友に揶揄われる日が続くも、俺たちは3年生になった。
 無論、告白していない。亜希子は俺にとって初恋の相手というより、性徴期における崇め奉る侵攻対象かアイドルの様なものだと思う。
 その頃の俺は、余計な事を言って学校で避けられたり、毎週音楽教室でおしゃべりが出来なくなる方が辛くなるんじゃないかと思い、現状維持の道を選んだんだ

 中学3年の秋。進学したい高校を決める時期になった。
 「健夫君はどこ行くの?」音楽教室の待機場所で、亜希子が聞いてくる。
 「○○市の県立工業、、、電子課。亜希子は?」
 「同じ○○市の県立商業。」
 「あ、そう…そうなんだ。うん、行けると良いね、、、、会えるね、またいつでも、、、、」
 俺は嬉しかった。
 「うん、、、、」
 恥ずかしそうにはにかむ中学生の男女。
 亜希子がどこまで考えているのかは分からないが、
 【上手く行けば、、、、ヤレルかも、、、、】の想いは、俺の頭から離れなかった。
 「でもさぁ、通えないんじゃない?バスと電車とまたバスで、、、2時間くらいかかるよ、ここからだと。」
 「うん、お姉ちゃんが居るから、、、お姉ちゃんの所から通うの。」
 「あ、そうなんだ、、、お姉さんいたんだ、、、、あれ、一人っ子じゃなかったっけ。」
 「うん、お母さんの前の旦那さんとの子、、、、私と五つ違い。種違いの姉妹って言うのかな。健夫君は?」 
 【た、、種、、、、】頭の中を言われた単語が飛び回った。
 「えっ、、、、お、俺は下宿かな?、、、朝と夜御飯が出る下宿屋さんがあるらしいんだ。お父さんが知り合いだって、、、」
 「ふ~ん、、、、そうなんだ、、、、」亜希子はそう言うと目線を落とした。
 俺には、亜希子が目線を落としたその理由が分からなかった。今でも分からない。その時亜希子は、何を考えたんだろうか?
 俺には想像もつかない理由でもあったのか、、、、俺の思い過ごしなのだろうか、、、昔も今も相変わらず分からない。

 3月の始めに高校入試があった。
 3月10日には卒業式があった。
 高校の合格発表は、3月15日。受験した学校に掲示板が設けられ、受験番号と氏名が発表される。
 中学校から依頼されたアルバイトがそれぞれの高校へと向かい、手元の資料と見比べながら確認してくれるらしい。
 また翌日の地方新聞には、県内の公立高校の合格者一覧が記事として載る。
 俺は学校からの電話で志望校の合格を知った。
 【やったっ!、、、合格出来た。】
 浮かれていた俺の所へ電話のベルが、鳴る。
 【亜希子か?、、、あいつも合格したかな、、、、】

 『………ダメだった、、、、、名前無かった、、、、、、グスッ、、、』

 第一志望高校に落ちたと亜希子から電話を貰った時俺は、何もできなかった。
 何をしてやればいいのか、その時には分からなかった。
 何をして欲しいのかも、その時はわからなかった。
 して欲しい事は? と、その時は聞けなかった。
 その頃の俺は、いや今でも俺は、経験してない事や頭でシミュレーションしてなかった出来事に対して、一切の思考を停止してしまう。
 考える事も、行動も、何も話せなくなってしまう。

 あの時、直ぐに自転車に乗り亜希子の家まで走っていれば、、、
 亜希子の傍に暫く居てやれれば、、、
 泣く亜希子の肩をそっと抱いてやれば、、、
 慰めの言葉を掛けてやれれば、、、
 合格した俺に対し、亜希子の怒りや嫌味の一つでも聞くことが出来たら、、、
 俺がついてるから、、、そう言って優しく口づけていれば、、、
 成り行きで、、、、そのまま二人が一つになっていれば、、、

 そんな事を考える事が出来たのは、、、違う、、、そう妄想したのは、もっと大人になってからだったんだ。
 しかもその3年後、また俺は亜希子に対し、、、もっと悔やむ事になった。何もしてやれなかったどころか、、、。
 亜希子に対する申し訳なさ、40年近く経った今でも自分の不甲斐なさを悔やむ事になったのは、持って生まれた自分の性格、運命さだめとしか言い様がない。

 俺が高校3年の夏7月、賄い付きの下宿屋を追い出され( 高校の同級生から彼女とのデートにラブホ代わりに使われたのが、大家にバレた。)、競輪場の近くの北向き4畳半アパートで一人暮らしをしていた時に、一枚の葉書が来た。
 『8月21日、アパートに泊めて。新しい学校の面接に行く。亜希子』
 俺の思考は停止した。
 了解の意をしたためた葉書を出したのは、3日後だった。

 約束の日の夕方、駅の改札口で俺は待った。
 亜希子らしい女の子は見当たらない。同年代の女の子は沢山いるのにその中にはいない。
 OL風の人、遊んでますねぇ~と言えそうな人、これからお仕事ですか?に見える人、、、端からその中に亜希子は居るはずもなく、、、と思っていた俺。
 「ゴメン、待った?」
 目の前に立っている女の子に俺は、口を開けたまま固まった。
 金髪の髪、長く伸び太くなっている睫毛、黒っぽい赤の口紅、スカートの長いセーラー服、、、
 「あっ、、、あ、亜希子か?」
 「そうよ、誰だと思った?」
 「……わ、分かんない、知らない人、、、、」

 俺と亜希子はバスに乗り、俺のアパートへと向かう。
 バス停で降り直ぐ近くの定食屋へと入る。
 ショーケースに並べられたおかずを1皿,2皿取り、カウンターのおばさんに「大飯と豚汁。」と告げ、3百円払う。
 「いつもここで晩飯。」そんな事を言ったと思う。
 「アパート、、、変わった人達居るから、、、目を合わさない方が、、、」と亜希子に一応忠告した。
 「変わった人?どんな?」
 「背中に青い線だけの般若を描いてる人とか、顔の傷ある人がいつも訪ねてくるお兄さんとか、、、
 この前なんか夜中に俺の部屋をいきなりあけて、『○○は居るかっ! オイっ、』って叫ばれて、寝ぼけてたら、、、チっ!って舌打ちしてどっか行った。、、、そんな人達。」
 「あ~、、、」亜希子が薄笑いで頷いている。知り合いに同じような人でも居るんだろうか、、、と一瞬考えたんだと思う。
 その時、「ヤダ、怖い」とか「やっぱり止めようかな。」とかの言葉は、亜希子からは聞けなかった。
 それが何故なのか、、、落ち着いているのか、、、何事にも動じない性格だったのか、、、、あの頃の俺にはその違和感さえも分からない不思議な空気だった。

 夏の夕方、北向きとは言え、くそ暑いアパート。
 亜希子は部屋に入るなりセーラー服を脱いだ。黒いTシャツとジーンズの短パンに着替える。下着は、、、白かった。
 膨れた股間を見られまいと背中を向けた俺は、
 「ふ、風呂、、、銭湯行こうか、、、、」と告げた。

 銭湯から出た頃にはすっかり暗くなり、飲み屋のちょうちんやスナックの行灯の灯る路地を二人して歩く。
 化粧の落とした亜希子の顔は、あの頃より細くなっていてすっかり大人びている。
 黒いTシャツからグッと突き出た胸はまた一段と大きくなっていた。
 良い香りが、隣を歩く亜希子から漂う。
 持ってきていたタオルと洗面器を腰の前に抱え、また膨らんだ股間を隠すのに頭がいっぱいだった俺。
 途中の自販機でビールとキリンレモンを買った。その頃にはビンのまま売っている自販機があった。

 部屋に帰り、窓を開けはなし、ビールを飲み合う俺と亜希子。
 「明日、学校の面接って、、、どこ?、、、、高校は?」と俺は聞いた。
 「○○会計学院、、、専門学校。学校は、、、辞めさせられた。あと半年なんだから、卒業させてくれてもいいのにね、、、、」
 俯き、悲しそうにそう呟いた。
 【辞めさせられたって、、、、退学?、、、何で?、、、何したんだ?、、、、実家に帰る度に聞いていたあの噂って、、、、】
 またまた思考の停止した俺の頭の中で、この時ばかりはそんな疑問が渦巻いていた。
 「ウッ、、、グス、、、」と聞こえた後、す~っと鼻水を啜る音が聞こえた。
 亜希子が泣いている。項垂れた亜希子の顔から垂れた雫が、短パンから出た太腿へと落ちていた。
 完全に思考停止した俺。半開きの口のまま、また固まった。
 何秒、、、何分経っただろうか、、、、俺の手が亜希子の肩に触れた。それが引き金だったのか、亜希子は俺に凭れ掛って来た。
 亜希子の身体を支えきれず俺は仰向けになる。亜希子の頭や肩、大きな乳房が俺の胸やお腹の上に乗った。
 暫くすると亜希子は、身体を更に俺に預けようとずり上がり、俺の口当たりへ亜希子の頭が上って来た。亜希子の身体は完全に俺の身体の上に乗っている。
 俺は手を亜希子の背中へ回し、、優しくそしてきつく抱きしめた。
 亜希子は顔を俺の首筋へと預けたまま、泣いている。
 冷たく、生暖かい涙か涎か鼻水か分からないものが俺の首を伝う。
 俺はただ天井を見つめ動かないようにしていた。
 でも、、、俺の股間は目いっぱいに膨らみ、大きくなっていた。
 亜希子の香り、大きな胸の感触、背中にまわした手は脇腹を掴んでいる。
 上になっている亜希子の下半身は、俺の股間を直撃している。
 俺は泣いていない。ただただ天井を見つめ蛍光灯の周りを飛び回る虫を無意識に追いかけていた。

 俺が亜希子の中へと入った。
 ほんの数秒の内にそれは終わった。
 何がどうなってそうなったのか、覚えていない。
 ただ、俺は亜希子の上に乗っていて、お互いに下半身だけ裸だった。

 あっという間の、夏の夜の夢だった。

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 亜希子は今、一心不乱に俺の股間をしゃぶっている。
 中学の頃の事やあれから起きた事を思い出すと、亜希子に対して物凄く申し訳ない気が起きる。
 そうすると、そこそこ元気だった俺のそれが、次第に柔らかく小さくなり始める。
 「あれっ?、、、元気なくなって来てるじゃん。そんなにへたくそかな、私って。」
 「いや、、、違う。上手いよ亜希子は、、、、俺が別な事考え始めたからかな?、、、ゴメンゴメン、集中しますから、、、じゃあさあ、、、お尻、こっちへ頂戴。」
 俺は昔の事は考えない事にして、目先の事に集中することにした。
 亜希子に身体の上下を入れ替えて貰い、下腹部が俺の顔の上に来て貰う様にして貰った。
 あそこの毛が少ない亜希子。白髪交じりのそこを、、、、丹念に、、、、たまに激しく、、、俺は貪った。
 亜希子から滴る体液で顔中をぐしゃぐしゃにしながら、、、、飽きることなくそれを続けた。
 女性の尿にはホルモンのエストロゲンが含まれるらしい。それを異常なほどに好む輩が、よのなかには少なからず存在する。

 俺もその輩の一人。
 互いにホルモンの減ってきている年齢ではあるものの、、、砂の中の砂金の様に俺は探し求めている。

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