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【マジカルミライ2015】はじめまして、ミクさん。

先日の「マジカルミライ2015」はわたしにとって、ようやく迎えたミクさんとの「初めまして」の機会だった。


元をたどれば中学生の頃、はじめて初音ミクの声を聴いた時は「気味が悪い」と思った。程なくして歌い手にハマったので、所謂「ボカロ曲」には興味を持ったしそれなりにいろんな曲を聴いていたけれど、それでもわたしが好きだったのはあくまでも「歌ってみた」動画だけ。オリジナルの、ミクさんたちが歌っている動画は苦手だった。それが20歳になるかならないか位の頃だったかなぁ、なぜだか徐々にその合成音を聴くのが苦ではなくなっていって。苦ではなくなったら、俄然興味が出てきた。大学の卒業論文の題材に「ボーカロイド」を選んだくらい。でも、それは別にボーカロイドが「好き」だったからというわけではなかった。単に、すさまじく興味があったというだけ。一体何が起こっているのか、なんでこんなに人気があるのか、という、単純な興味だけで動いていた。


その後、曲がりなりにも「ボーカロイド文化が繁栄したのはこういう理由でした」という卒論を書き上げ(これ、英語で書いたので和訳してどこかに載せたいと思ってるんだけど、時間がなさすぎてとりかかれてない)、ふぅ、と一段落。これでもう合成音なんか聴かなくていいんだ!と思ったものの、卒論が終わって最初にしたことは鏡音レンのオリジナル曲をかたっぱしから聴くという作業だった。だからこの頃には、少なくともレンくんのことは好きだったんだろうなぁ。


「ボーカロイド」をテーマに卒論を書いていた割に、わたしがその文化に触れたことがあるのはただ1点、「ニコニコ動画」を通してだけだった。ミクさんに会ったことはなかったし、同人会的なイベントにも行ったことはなかった。チケットが取れなかったり、授業や仕事の都合があわなかったりで。興味はあったけど好きってわけではなかったから、死に物狂いで行きたいと思ったわけでもなかった。今回は前日になってたまたまチケットを譲ってくださる方と巡り合えたので、ようやくミクさんとの初対面を果たしてきた次第である。


武道館のB-9ブロック、前から2列目。譲っていただいたのは、めちゃくちゃ良い席だった。こんな良席、自分のチケ運じゃ絶対取れないよ…!なんて思いつつ、開演の時間を待つ。会場には、オフィシャルグッズの法被やTシャツを着た人たちの姿が目立っていた。だけど、中には自作?の法被を着ている人がいたり、コスプレをしている人がいたり。コスプレで一番多いのは、やっぱりミクさん。男女問わず(!)たくさんいたかな。あと、意外と居たのが、リンちゃん(頭にリボン付けてたからあれは絶対にレンくんではないはず)のコスプレしてる男の人。3人くらい見た。びっくりした。


お客さんの層は、圧倒的に男性が多かったかな。わたしが思ってたよりは女性もいたけど。自分より歳下と思しき人はあまり見かけなかったのだけど、多分それはわたしが入ったのが夜公演だったからだろう(昼公演のU-18チケットは結構安く売ってたはずだったので)。どうでもいいんだけど、武道館のトイレ待機列に驚かされた。わたし割といろんな現場(現場って呼び方でいい?)に足を運ぶ方だと思うんだけれど、女性トイレには列がなくて男性トイレに長蛇の列ができている現場は初めて見た。男性トイレも、混む時は混むんですね。


そんなことはさておき。席につき、開演の時間を待つ。1人で来たわたしの両側に座っていたのはどちらも男性で、二人ともオフィシャルグッズのペンライトを2本持ってて。キンブレ(15色くらいに光る棒)1本で来てごめんなさいいいいい、などと思いながら待機。開演前から少しずつ会場内に緑のライトが灯り始めていたのが綺麗だったな。お客さんたちがちょっとずつ盛り上がっていくのが目に見えるようで。


開演時間になって客電が落ちると、あたり一面緑色の光。アリーナ席から、思わず上の方を見上げてしまった。すごく綺麗。そして、ステージ上のスクリーンに「マジカルミライ」の文字が映されて……ミクさんのご登場。割れんばかりの大歓声が上がる。「ミク武道館おめでとう!」「ミク愛してる!」なんて言葉も聞こえてくる。登場、という言葉を使ったけど、ミクさんは文字通りステージ上に「登場」したわけではない。「投影」という言葉が適切だろうか。ステージ上に設置された大きなスクリーンに映されたミクさんが、ステージの端から端まで駆けながら1曲目の「Tell Your World」を歌う。歌声はバーチャルだけど、トラック自体は生のバンドがその場で奏でる音楽だ。


これは去年の様子。


ミクさんはくるくると表情を変え、手足を動かしながら歌を歌い続ける。前半のミクさん無双の中で、個人的に一番印象的だったのは「恋愛裁判」の最後。「偽りの涙の後で 密かに微笑んだ小悪魔 そう 君も「有罪」」という歌詞を歌うミクさんの表情に見入ってしまった。命も感情も持たないミクさんにこんな表情ができるのか!と。あの瞬間のミクさんはまさしく小悪魔そのものだった。不覚にも、ドキっとしてしまった。

でも、次に現れたボーカロイドがわたしのその「ドキッ」を吹っ飛ばしていった。照明の色が黄色味を帯び、観客のペンライトも黄色に切り替えられ…ステージ上に現れたのはレンくん!可愛い!3DCGで見てもかっわいい!わたし、卒論提出1週間前くらいに鬱屈としながら、レンくんにビンタされるだけの動画を見ていた過去があるくらいにはレンくんのことが好きなのだ。

まあ当時は確実にどこか病んでいた、というか壊れていた。2次元のイラストでも十分可愛いけど、3Dで動くレンくんの可愛さは異常。なもんで、それを武道館のステージで見て、平性を保てるわけもない。「聖槍爆裂ボーイ」を踊りながら歌うレンくんを見て、少々胸が苦しくなった。可愛かった。

次の曲も引き続き、黄色い照明。リンちゃんだ!ただの個人的趣味だけど、リンちゃんも好きだ。レンくんに似てるから。身も蓋もない。しかし、登場時のリンちゃんはなんだか様子がおかしかった。ギターを床に叩きつけ、マイクスタンドを放り投げ、観客を煽る…のはいいんだけど、なぜだか、無音。観客もざわつく。おそらく機材トラブルが原因だったんだと思うけど、無音で荒ぶるリンちゃんはとんでもなくロックだった。アカペラで「ロストワンの号哭」を歌い始めたのもかっこよかった。こんなところで、可愛いリンちゃんじゃなくてかっこいいリンちゃんを見られるとは。


リンちゃんが荒ぶった後は、レンくんが再登場して鏡音2人で「リモコン」!ぎゃー可愛い。リンちゃんに手を引っ張られてあわあわしながら踊ってるレンくん可愛い。可愛いの暴力。可愛いが過剰。個人的にこの曲めちゃくちゃ好きなのでライブ聴けて嬉しかったです。みんなで「Oh」「Yeah」するの楽しすぎた。鏡音好きすぎる。今年の12月に鏡音のV4が発売になるのをわたしはこの日知ったので(発表がいつだったのかは知らない)発売になり次第我が家にお迎えすることに決めました。超楽しみに待ってる。

わちゃわちゃしてた鏡音がいなくなって、照明は赤に変わる。MEIKOさんのお出ましだ。曲は「Nostalogic」。「M.E.I.K.O」のコールが小気味良い。それから青い照明と共に現れたのはKAITOさん。これまた大歓声で迎えられる。お客さんの多くは男性だから、男性ボーカロイドであるKAITOさんに対する歓声はもしかして薄いのかな?とか思っていたけど、どうやら杞憂だったみたいだ。「KAITOー!」という野太い歓声につつまれて、KAITOさんは「スノーマン」を歌った。この日登場した男性ボーカロイドはKAITOさんだけだったけど、低い声は落ち着いていて心地良かった。(9月9日追記:エゴサしたら指摘されてて気付いたんだけど、レンくん男の子だわ。男"声"ならまだしも。レンくんが可愛すぎるのが悪い。嘘ですレンくん超ごめん。)


深海少女」「Sweet devil」「二次元ドリーマー」「キャットフード」あたりでは、ミクさんの衣装の変化も楽しかった。ギターを弾きながら歌ってたのは「アンハッピーリフレイン」だったかな(違ったかも)。通常であればお色直しにはそれなりに時間がかかるものだから、こんなに一曲一曲、衣装も髪型も変わるアーティストはいない。ミクさんがバーチャルな存在だからこそ為せる技だ。一つ一つの衣装が可愛らしくて、何を着ても似合ってしまうミクさんが同性としてちょっぴり羨ましくなる。そりゃあ、熱烈なファンもつくわけだ。


なかなかルカさんが出てこないなと思っていたら、後半の「愛Dee」でようやく登場!ルカさんがDJ、ミクさんが踊りながら歌う。かーわいい!

からの「Just Be Friends」。卑怯。それから続けて「shake it」では、鏡音を引き連れたミクさん(狂喜)!可愛いという言葉もそろそろ使い飽きてきたけれど、ひたすらに可愛い。レンくんのダンス、キレッキレ。リンちゃん、楽しそう。そして、この2人をバックに引き連れたミクさんがすごくお姉さんに見えて、何かもう泣きそうになるくらい可愛かった。わたしはどうやら、自分で思ってた以上に鏡音を好きだったらしい。


「Packaged」「ワールドイズマイン」の後、「皆、ありがとう。次で最後の曲です」というミクさんのぎこちないMCの後、歌われたのは「ODDS&ENDS」。

ならあたしの声を使えばいいよ 人によっては理解不能で
なんて耳障り ひどい声だって言われるけど

きっと君の力になれる だからあたしを歌わせてみて
そう君の 君だけの言葉でさ

綴って連ねて あたしがその思想(コトバ)を叫ぶから
描いて理想を その思いは誰にも触れさせない

ガラクタの声はそして響く ありのままを不器用に繋いで
目一杯に 大声を上げる

ボカロPとミクさんの物語を、ぎゅっと詰め込んだような1曲。この曲は、supercellのryoがミクさんに歌わせたものだけど、どうにもミクさん本人の言葉に聞こえてならない。不思議なものだ。武道館をいっぱいに満たす「ガラクタの声」に、胸の奥が温かくなった。

大歓声の中、アンコールに応えて再び登場したミクさん。アンコールの1曲目はようやく、この日のテーマ曲だった「Hand In Hand」。急に行けることになったのでそんなにきちんと予習をしてなかったんだけど、それでもサビ頭の「Hand In Hand」は一緒に歌えたし、すごくポップで楽しい曲だった。それからもう1個、特筆すべきは最後に歌った「ハジメテノオト」だろう。「初めての音は なんでしたか?  あなたの 初めての音は… 」という歌詞がモニターに映され、会場中がミクと一緒に大合唱する。8年も前に書かれた曲にも関わらず、今も多くの人に愛されている名曲だ。

空の色も 風のにおいも
海の深さも あなたの声も
ワタシは知らない だけど歌を
歌をうたう ただ声をあげて

どんなにオーディエンスが喜びの雄叫びをあげても、「ミクありがとう!」と声を張り上げても、その声はミクさんには届かない。8年も月日が流れれば、ファンだってどんどん変化していく。新たにボーカロイド文化に心を奪われた人もいれば、他のものに興味が移って離れていったファンもいるだろう。それでも、ミクさんは8年前と変わらずに歌っている。自らの意思を持たず、何も知らないままで。その合成音に合わせて1万人が合唱する様子はあまりにも奇妙で、だけどあまりにも綺麗だった。ああ、これがボーカロイド文化なんだなって、ようやく腑に落ちた。この日のミクさんの歌声が、わたしにとっては「ハジメテノオト」だったのかもしれない。


終演後、客電がついてから会場内には「Hand In Hand」が流れていた。もう、ステージの上にミクさんはいない。だけど、会場内の多くの人はその場に残り、ペンライトを振り続けていた。ステージの方を向くわけではなく、アリーナ席の人は上方の座席を見上げ、上方の座席にいた人たちはアリーナ席を見下ろして。そのペンライトはミクさんに向けてというよりは、ミクさんを愛し続けてきたオーディエンス自身のために灯されているように見えた。1曲終わるとあちこちで拍手が起こり、さらには会場全体で3本締めまで。「ありがとう!」「また来年!」という声が飛び交うその空間は、とんでもなくカオティックで、それでいて非常に温かかった。

「ボーカロイド」は、つくづく不思議な文化だ。実在しない歌姫を愛し、その歌声に酔いしれる。その様子を「気持ち悪い」と感じる人もいるのだろう。命を持たないけれど歌を歌う彼女たちのことを「気味が悪い」と感じる人もいるに違いない。だけど、わたしにとってのこの日の感想をひとことで言うならば「ミクさんは確かにあの場に存在した」。ミクさんは、間違いなく武道館のステージ上に居た。少なくとも、わたしにはそう感じた。そのせいかな、ライブの直後、今までは「初音ミク」と呼称していた彼女のことを自然と「ミクさん」と呼びたくなっている自分に気付いた。今更だけど多分、わたしにとってボーカロイドは単なる興味の対象ではない。わたしはボーカロイドが好きなのだ。ずいぶん遠回りしてしまったけど、初めて会ったミクさんがわたしにそれを気付かせてくれた。だからまだまだボーカロイドへの興味は尽きないし、これからボーカロイド文化がどうなっていくのかも見守っていたい。今度は傍観者としてではなくて、1人のボカロファンとして。



体験会の抽選外したのが悔しかったからあえて展示会の様子は書かなかったんだけど、最後に1個だけ。ミクさんのスリッポン、超可愛い。久しぶりの衝動買い。

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